秋田市文化創造館

PARK – いきるとつくるのにわ

アウトクロップ「この町、シネマ。」開催レポート

日時|2022年12月2日(金)〜12月4日(日)

秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK – いきるとつくるのにわ」では、「観察する」「出会う」「育む」「残す」の4つのプログラムを通して、秋田の文化的土壌をたがやしていくことを試みます。

「観察する(クリエイターによるリサーチと表現)」の参加クリエイター・アウトクロップ(映像プロダクション・ミニシアター)は、映画を語る空間を秋田市に復活させるプロジェクト「この町、シネマ。」を始動。第一弾として、秋田市文化創造館とアウトクロップ・シネマを会場に上映イベントを開催しました。


12/2(金) 初日

イベント初日は、秋田市・中央通りにあるアウトクロップ・シネマを会場に「沼山からの贈りもの <料理付き上映会>」「UTURU <上映&ライブパフォーマンス>」の2プログラムを実施。

アウトクロップ・シネマ

一作品目の『沼山からの贈りもの』は、アウトクロップ・スタジオが初めて制作した短編映画であり、秋田の在来作物である沼山大根の復活に動いた3人の生産者を追ったドキュメンタリーです。参加者の中には、シネマの常連の方やこの作品を見るために県外から来たという方もいらっしゃいます。

上映後には、沼山大根を使った料理が振る舞われ、シネマ・シェフによる料理の解説がありました。普通の大根より味が濃く、食感も硬いという特徴を活かしたオリジナルのメニュー。皆さん驚きながらも、じっくりと味わっている様子が伺えました。

食事の後は、参加者の皆さんから映画や食事を経て思ったこと、感じたことを自由にお話しいただく時間です。「料理が美味しかった」「沼山大根という在来種があることを初めて知った」「種を残し、継承していく術や難しさについて考えた」「アウトクロップの活動は知っていたけど、原点とも言えるこの作品を見ることができてよかった」などのコメントがありました。
参加者が感想や意見を自由に発言し語り合う時間があるというのは、アウトクロップ・シネマの毎月の上映でも行われている取り組みです。

二作品目は、音楽家・松本一哉さんのサウンド・ハンティングの様子を映したドキュメンタリー映画『UTURU』の上映です。知床半島にて凍結した湖面や流氷の音を録音し、音源を制作する松本さんの姿が撮影されています。上映後には監督の今野裕一郎さん、主演の松本一哉さんをゲストに迎え、トーク&ライブパフォーマンスが行われました。

会場からも感想を受けながら、「なぜこの映像を撮ろうと思ったのか」「撮影中、被写体である松本さんと今野監督の距離感はどうだったのか」「無作為に発せられる自然の音と作為的に鳴らした音を合わせる音源の編集作業について」など、お二人にお話いただきます。

松本さんの即興パフォーマンスでは、楽器だけでなくシネマの壁や柱を叩いて音を響かせ、会場全体が音の波紋や振動に包まれる没入感のあるライブパフォーマンスとなりました。

12/3(土) 2日目

イベント2日目も初日に引き続き、アウトクロップ・シネマを会場に「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方 <料理付き上映会>」を午前、午後の2回上映します。本作は、ロサンゼルス郊外の荒れ果てた農地で自然の厳しさに翻弄されながらも、理想のオーガニック農場を作り上げる夫婦の8年間を追ったドキュメンタリーです。

映画上映後には、秋田の事例として秋田県にかほ市の上の山放牧場で繁殖農家をしている渡邊強を取り上げたアーカイブ・ドキュメンタリー『命を届けるということ|上の山放牧場』(制作:Outcrop Studios)を上映。私たちの身近な場所でも命のサイクルに向き合いながら生業を営む実践が行われていることをご紹介しました。

今回の上映で提供した料理は、上の山放牧場で育てられた経産牛きくさとのお肉を使ったリゾットです。
会場からも「初めての味わいだった」「久しぶりにお肉を食べて、強い印象を受けた」などのコメントがありました。

映像鑑賞や食事、対話といった一連の体験を経て、参加者の皆さんそれぞれが、食べることや自然の中で生きることについて、考えを巡らせる機会になったのではないでしょうか。

12/4(日) 3日目

最終日は秋田市文化創造館を会場に、「荒野に希望の灯をともす <上映&監督トークショー>」「おいしいコーヒーの真実 <コーヒー試飲会付き上映会>」「この町、シネマ。 クランクイン・座談会」の3つプログラムを実施します。

3日目最初の作品は、アフガニスタンとパキスタンで35年に渡り、診療所や用水路の建設など医療支援に取り組み続けた医師・中村哲の活動を追ったドキュメンタリー映画『荒野に希望の灯をともす』です。

20年以上に渡り中村医師の活動を取材した谷津賢二監督をゲストにお迎えし、現地に赴き、中村医師とも関係を築きながら制作された本作についてお話をお伺いしました。
会場からも意見をもらい、谷津監督と対話をしながらトークが進みます。

奇しくも、武装勢力に銃撃されて亡くなられた中村医師の命日に上映/トークを行うこととなった今回。映画の中で話される中村医師の言葉や谷津監督の言葉ひとつひとつが熱を持って伝わってくる回となりました。

2作品目は、巨大なコーヒー産業の裏側で貧困に苦しむコーヒー農家を救おうとする一人の男性を取り上げたドキュメンタリー映画『おいしいコーヒーの真実』。

今回も身近な場所で行われる実践として、上映後に秋田県・男鹿に拠点を置き自家焙煎したコーヒーを販売する「さとやまコーヒー」をゲストに迎え、トークとコーヒーの試飲を行いました。

さとやまコーヒーの大西克直さん

さとやまコーヒーは、生産地であるエチオピアに足を運び、直接買い付けをしたコーヒーをお客さんに届ける取り組みをしています。
試飲後は参加者同士でグループになってもらい、感想を語り合います。どのグループでも活発な意見交換が行われ、世界の遠くで起きている状況や見えていなかった産業のしくみと自身の生活を結びつけ、考えてみるという時間になりました。

そして、この3日間の最後のプログラム「この町、シネマ。 クランクイン・座談会」。こちらは、新プロジェクト『この町、シネマ。』のこれからについて、集まった方々とクリエイターであるアウトクロップが一緒になって考える座談イベントです。参加者とプロジェクトを一緒に考えるイベントは、アウトクロップにとっても初めての試みであり、本プロジェクトの方向性を決める重要な会です。

この座談会に向けて、この3日間の上映の参加者には「あなたにとって『この町』や『映画館』はどんな場所?」「映画が身近にある町でどんな風に過ごしたいか」についてお答えいただくワークシートをお配りし、100枚以上の回答が集まっていました。

集まった回答や「まちをどんな風に使いたいか」「この町、シネマ。でやってみたいこと」についての意見やアイデアを地図や模造紙にどんどん書き込んでいきます。

出た意見やアイデアを元に、各グループで「この町、シネマ。」の企画案を作成、発表してもらいます。「移動映画館をやってみたい」「上映プロセスをドキュメンタリーにしたらおもしろそう」「空きビルや空き店舗で上映をする」「映画だけじゃなく、映画を見た前後に食や音楽を楽しみたい」「今までと違う町の使い方をしてみたい」など、町への期待や暮らしの中でみたい風景が込められたアイデアがたくさん生まれました。

町の移り変わりと共に、町を楽しむ方法を自ら創造しようとする熱量が参加者一人ひとりから感じられる素晴らしいイベントになりました。

今回のイベントは、「この町、シネマ。」プロジェクトのキックオフとして、上映+食事、音楽、トーク、座談会など、様々な上映会のあり方を試す3日間となりました。これからも本プロジェクトでは、秋田県内外で暮らす様々な人たちに参加いただきながら、秋田市に映画を語り合う空間を復活させるべく、「この町」と「映画」にまつわるリサーチや活動を展開していきます。ぜひご注目ください。


アウトクロップからのコメント

私たちアウトクロップは、「見えない物語を魅せる」をミッションに映像制作会社として2020年に活動をスタートし、後に月1本の映画を厳選上映する場所としてアウトクロップ・シネマをオープンしました。
開館一周年という節目に秋田市文化創造館とアウトクロップ・シネマの二会場に跨り開催することができたこのイベントでは、私たちにとって、改めて「この町」における「シネマ」のあり方について改めて深く考えるきっかけとなりました。「この町、シネマ。」第一弾は、かつて秋田市南通亀の町エリアに存在した映画館ストリート(通称:有楽町)に思いを馳せ、当時の理解を深める貴重な機会となりながらも、現代のこの町に求められる映画館のあり方を秋田市の住民の方々と共に模索してゆくための大切な一歩となりました。
これからも私たちアウトクロップの原点である「五感堪能型」「対話型」「参加型」の上映形態を大切にしながらも、アウトクロップ・シネマという一空間だけを上映場所と捉えるのではなく、「この町」全体をより広い視野で捉えられる映画館を目指します。
改めて、ご参加・ご協力いただいた皆様に御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

クランクイン参加者との集合写真

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Profile

アウトクロップ(映像プロダクション・ミニシアター)
秋田市を拠点に国内外で活動する映像会社。ドキュメンタリー映画の制作の他、地域プロモーション や企業ブランディング、TV・WEBコマーシャルの受注制作などを行っている。また、秋田市駅前エリア の古民家をリノベーションした小さな映画館『アウトクロップ・シネマ』も運営している。
https://outcropstudios.com/

テキスト|藤本悠里子(NPO法人アーツセンターあきた)
撮影|白田佐輔[12/4 写真]

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