秋田市文化創造館

レポート

つたわり、続いていく。
Aokidプロジェクト「あときとた」西原珉レビュー

2024.03.30

Aokid

2023年の8月にスタートしたAokidプロジェクト「あときとた」はワークショップなどを繰り返して仲間を集めて、12月に大発表会「うあー」を上演しました。プロジェクト自体は12月に終了したものの、有志で「うあーパフォーマンスフェスティバル」を発表するなど、プロジェクト終了後も活動は続いています。
そんなプロジェクトを心理療法士/キュレーターの西原珉がレビューしました。

プロジェクト期間:2023年8月〜12月
会場|秋田市文化創造館ほか


つたわり、続いていく。
Aokidプロジェクト「あときとた」西原珉レビュー

 2023年8月から12月にかけてAokidは秋田を訪れ、線や色を重ねるようにして、レクチャー、パフォーマンス、ワークショップを開催していった。9月には千秋公園で「どうぶつえんin秋田」が開催された。

どうぶつえんin秋田

 どうぶつえんというのはAokidが継続的に行っているイベントで、様々な参加者がそれぞれの作品や作品にならない状態のことを発表していく。秋田でも、おどり、瞑想、演奏、パフォーマンス、占いなどが体験として共有された。

10月には1週間にわたるワークショップ「10月の『き』」があった。

ワークショップ・ショーケース「10月の『き』」

 Aokidのワークショップは、参加者が持っているものをそのまま受け止め、それを外に向けてひらいていくように行われる。その主なやり方となるのが、まず、声を出すこと。意味を持った言葉にならなくても。次に、自分の身体から音を発すること。体を使って音を出すこと。声ではない様々な音、手で自分の胸やモノを叩いたり、足を踏みならしたりすること。そして、体を動かすこと。自分が、自分を動かすこと。

 それは、それほど簡単なことではない。他人の前や公とされる場所で大声を上げたり、感情を直接的に身体で表したり、ターンしたりステップを踏んだり、思いついた面白い動きや得意な動きを披露したりすることを、わたしたちは成長するとともに弁えさせられてしまっていることが多いからだ。そのうちに、何を、どんなふうに身体で表したら良いのか、どんな声を上げるつもりだったのか、忘れてしまうくらいに。


 Aokidは、秋田で実施したプロジェクトを通じて、参加者ひとりひとりのなかにどんな動きが、感情が、情熱が、外に出たがっている(かもしれない)思いがあるのかに気づくために、叫び、踊り、体を動かし、ギターを鳴らして歌った。そして、参加者と共に体を動かしながら新たな気づきを共有した。熱くなっているようだけれど、冷静、冷静と情熱のあいだでもなくて、その両方、を持ったAokidのファシリテーターとしての優れた性質が発揮されていく。そうして、気づきながら動き、動きながら気づく。その過程がワークショップのなかで全体の熱となって、大きな動きが生まれてくる。

大発表会「うあー」

 12月24日、大発表会「うあー」は文化創造館の外に出て、空のなにかをなぞるような動きとともに始まった。館内では岩や木などの展示物、これまでワークショップで生まれたドローイングや制作物などの間で、積み重ねてきた動き、歌、走り、踊りが披露されていく。終盤、舞台用照明の強い光に中にひとりひとりが飛び込んでいく。ひとりひとりに光があたる瞬間に共有される開放やよろこびは、他者をも含んでダンスを超えた表現を目指すAokid自身の考えの結実でもある。

 Aokidの、この表現の変革力こそが、個々の解放と集団の共鳴が一つの強力な表現力へと融合する力となっている。

 10月の秋田でのワークショップの後、稽古やZoomでのゼミなんかがあって、12月には舞台美術を兼ねた展示制作が始まり、12月のクリスマス前には成果の公演である大発表会「うあー」が行われた。その公演のあと、Aokidは秋田を去り不在だったのだが、2月はじめに他のイベントに参加するために文化創造館を訪れた私は、その日、有志によって「うあー」パフォーマンスフェスティバルvol.2 が開催されたことを知った。Aokidとの出会いを経て、参加者のあいだで自分たち秋田のメンバーでパフォーマンスの持ち寄り発表を続けていこうという動きが起きたのだという。また、2月末には、再びAokidが秋田にやってきてチーム「あときとた」上演!が文化創造館に隣接する劇場、ミルハスで行われた。さらに「うあー」パフォーマンスフェスティバルは続いていて、4月初旬にはvol.3が開催される予定だという。

チーム「あときとた」上演!

 パフォーマンス、ダンス、身体を動かすことをめぐる自発的なこの連鎖は、今回のAokidプロジェクトによって秋田に起きたものだ。アートプロジェクトの主な目的の一つは、創造性を介して参加者のひとりひとりが外へとひらかれていくことにある。一過性の出来事として終わらず、人々のあいだに生まれた行動の変化が、地域を解きほぐし、変えていくことにつながる。この点で、Aokidプロジェクトが続いていることの意味はとても大きく、今後も続いていくこの動きが秋田に何を起こしていくのか、期待せずにはいられない。


Profile

西原 珉 Min Nishihara

キュレーター、心理療法士、秋田市文化創造館館長
90年代の現代美術シーンで活動後、渡米。ロサンゼルスでソーシャルワーカー兼臨床心理療法士として働く。家族療法、芸術療法、認知行動療法を中心に多くのアプローチを実施。個人・グループに心理療法を行うほか、シニア施設、DVシェルターなどでコミュニティを基盤とするアートプロジェクトを行った。リトルトーキョーでは、コミュニティのための文化スペースのプログラムと運営に関わった。2018年からは日本を拠点にアーティストや作り手のための相談と心理カウンセリングのほか、アートプロジェクトを通じたコミュニティのケアに力を注いでいる。秋田公立美術大学教授を経て、2024年4月より東京藝術大学先端芸術表現科准教授。アートセラピーを活用したワークショップ、ケアする人のためのケア「クッション」で活動している。

レビュー|西原珉
撮影|「どうぶつえんin秋田」:高橋希(オジモンカメラ)
「10月の『き』」、大発表会「うあー」、チーム「あときとた」上演!:伊藤 靖史(Creative Peg Works)

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