あこがれのひと
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尊敬するひとはいる、
好きなひとも、一目置くひとも。
でもあこがれのひとはそういない。
あこがれのひとに話を聞きに行きました。

工藤千咲さん
旭川親子読書会
愛炉辺倶楽部(めるへんくらぶ)
おはなしポスト
秋田昔ばなし大学
すばなしの会おはなしとどけ!
人前で話すのが苦手だった、と工藤千咲さんは言います。子どもをきっかけに親子読書会と出会い、仲間と絵本や昔話を学びながら、地域の子どもたちにお話を届けてきました。それは仕事としてではなく、生活の中で始まり、35年以上続いてきた活動です。「語りをするというのは、私にとって冒険だった」。取材中、工藤さんが「エパミナンダス」を空で語り始めると、物語の中へ引き込まれました。工藤さんの、絵本と語りの歩みをたどります。
おはなしとどけ!

3年前、ある財団から「子どもの本100冊セット」をいただいたんですよ。どこに置こうかなと考えていた時に、アトリオン「こどもサロン」で置かせてもらうことになって。本当にありがたいです。 ただ置いておくのはつまらないよね、子どもたちに読んであげたらどうかなと思って、毎月第3土曜日の10時半から11時まで「すばなしの会おはなしとどけ!」では絵本の読み聞かせをしています。
そのあと11時から12時までは、「おはなしポスト」で絵本や素話の勉強会をしています。素話は、お話を覚えて語るものです。
赤ちゃんも相手にします。小さい子は言葉だけじゃ集中できないでしょう。「こんにちは。よく来てくれたね」って、小道具(パペット人形など)を使ってお話をする。大きい子だったら小道具はいらないんだけど、ちっちゃい子の心をつかむにはあったほうがいい。
サルのパペット人形の隣の物、何だかわかりますか? お手玉なんですよ。このお手玉は、「秋田昔ばなし大学」の会場だった「思い出の潟分校」のそばに「輝湖」(てるこ)という手作りのお店があって、そこで買ったものです。お手玉って遊び方がたくさんあってすごく楽しいんですよ。

あんたがたどこさ
「あんたがたどこさ」って分かりますでしょう。みんなで丸くなって、歌いながら「さ」のところでお手玉を右隣の人に渡す。
あんたがたどこ「さ」、肥後「さ」、肥後どこ「さ」、熊本「さ」、熊本どこ「さ」、せんば「さ」……
逆回りしたり、スピードを上げたりしてね。子どもや、赤ちゃんを抱っこしているお母さんたちとやります。大人の脳活にもいいんです。これがなかなか難しい。
語りをすることは、私にとって冒険だった
私は1955年、秋田市に生まれました。子ども時代は本が好きなおとなしい子でした。人前で話すことは苦手でしたね。だから「語り」をするというのは、私にとって冒険だったんですよ。
そんな私が活動を始めたきっかけは、子どもです。うちは転勤族でした。子どもにとって転校はリスクなんですよ。頑張って友達をつくって、今まですごく楽しくやっていたのに、親の仕事の都合でぶつっと切られるわけでしょう。子どもに泣かれて、本当につらかった。
息子が小学校3年生、娘が幼稚園に入園する時、秋田市に来ました。義母が「うちにおいで」と言ってくれて同居生活が始まったんです。
旭川親子読書会
娘が旭川幼稚園に入園し、そこで出会ったのが「旭川親子読書会」でした。幼稚園の先輩お母さんが「工藤さん、見学に来ない?」って声をかけてくれました。行ってみたらすごく面白くて。そこからずっと今までやっています。もう35、6年になります。
旭川親子読書会は今年創立45年です。当時の旭川小学校の校長先生のお声がけでスタートしたそうです。

自分の子どもにも聞かせたいな
私が入会した頃、旭川親子読書会が旭川小学校で「お話会」を始めたんです。それがすごく楽しかったから、「自分の子どもにも聞かせたいな」と思ったの。
うちは外旭川学区だったので、娘が外旭川小学校の1年生になった時、学年主任の先生に「お話会をやってみたいんですけど、どうでしょうか」とお願いしました。ちょうど学年主任は国語の先生だったんです。
先生が「やってみましょう」と言ってくださり、お話会を開けることになりました。最初の年は1年生。次の年は1、2年生。その次は1年生から3年生。その次の年には全学年。各学年1時間をもらいました。前の日に会場を作り、リハーサルをして、1年生から6年生までやると準備を含め3日がかりでした。
当時は1学年150人はいました。外旭川小学校ではプレイルームを使っていたんですけど、暗幕がなかったんですね。ブラックパネルシアターをやる時には部屋を暗くしないといけないので、先生たちが理科室から暗幕を持ってきて付けてくださった。何年かしたら、「お話会のために暗幕を買いましょう」と購入してくれました。
ブラックパネルシアターは、真っ暗な部屋でブラックライトを使うと絵が浮かび上がります。「蜘蛛の糸」や「娘さんのおくりもの」などをやりました。絵も自分たちで描きました。子どもたちにとても人気がありましたね。
エプロンシアターは、演者のつけたエプロンが舞台になって、人形が物語を繰り広げます。エプロン、人形も手作りです。「ジャックと豆の木」「はらぺこかいじゅう」とか。手作りの大型紙芝居もやりました。私は素話が好きで語っていました。
45分授業だったので、35分くらいのプログラムにして、最後の5分はブックトークです。「今日使ったお話の本はこれですよ」と紹介して締める。お話会をやっていると、子どもたちの表情が豊かですよ。

コロナで途切れて
以前は、旭川小学校では、お話会を年1、2回やっていました。けれども、コロナが理由でなくなりました。どこの小学校もね。
毎年やっている頃は、先生が転勤すると、転勤先の小学校から声をかけてもらいました。中通小、築山小、牛島小、桜小など。
個人では、旭川児童館にも行っていました。児童館は、親が働いている子だけじゃなくて、誰でも遊びに来られる場なんですよ。そこへ月1回行き、お話会をしていました。それもやっぱりコロナで途絶えてしまいました。

子どもたちのところへ
この夏「あさひかわ学童クラブ」へ初めて行き、夏休み中の子どもたちにお話を届けてきました。10時から1、2年生25人、10時半から3〜6年生25人が聞いてくれました。
学童の先生から「1、2年生は、食育や友達の気持ちを考える内容を、3~6年生は平和について考える内容のものを入れて、その他は楽しいお話を」とお願いされました。
1、2年生は、『いただきます』(絵本)、『もったいないばあさん』(歌・音楽)、『おばけのてんぷら』(大型絵本)、『たのきゅう』(パネルシアター)。
3~6年生は、『へいわってどんなこと』(絵本)、『金の腕』(素話)、『ねえ、どれがいい?』(パネルシアター)という構成でした。
私たちは4、5人くらいのチームで行きます。出し物は、まずミーティングで話し合います。「これどう?」「あれどう?」「これ誰が読みたい?」って。最終的に、各人の好きなものをやることになります。
久しぶりに小学生を相手にしたので、「子どもたち、お話聞けるかな」と思って、恐る恐る行ったんですよ。
6年くらい前までは毎年小学校に行っていたから、子どもたちは聞く体勢ができてるんです。今回は、お話に慣れていない子どもたちだったので不安でしたが、みんなしっかり聞くんです。びっくりしちゃった。
学ばなければ、人に伝えることはできない
「愛炉辺倶楽部(めるへんくらぶ)」は第3金曜日の10時からお昼まで勉強会をしています。秋田市中央図書館明徳館2階の研修ホールでやっています。
「愛炉辺倶楽部」が発足して昨年で30周年を迎えました。当時、秋田県内にはお話グループがたくさんありました。でも、一緒に勉強するっていうことはまったくありませんでした。
明徳館主催の講座「子どもの本の学校」に市川早苗さんがいらして、講師をしてくださった時、秋田県内で活動している人たちが集まったんですよ。この時、他のグループと交流でき、情報をたくさんもらえました。「愛炉辺倶楽部」は、講座が終わって、市川さんのお話をもっと聞きたいという人が集まり生まれました。
今、会員は17、18人かな。県内外の方がいます。駅前にある中央図書館明徳館フォンテ文庫では、第4火曜日の11時から11時半まで、0歳児から3歳児対象の「親子で楽しむわらべうた」をやっています。
今、30周年の記念誌を作っています。10周年記念誌に載せたテーマ別学習会、絵本・児童書のリストがあって、10年分で648冊。「おじいさん、おばあさん」とか、「月」とか「チョコレート」とか、毎回テーマを決めて、本を紹介して、それぞれコメントがついています。それを30周年記念誌にも入れようと思っています。かなり時間がかかっています。
最初からいる会員は4名、私を含めもう70代、80代です。元気なうちに作ろうと皆で頑張っているところです。

絵本や本の世界は「もういいや」にはならないかな。話を聞いてくれる仲間がいれば、行きたくなりますよね。人に伝えるには、自分も学ばなければならない。一緒に学べる仲間が必要なんです。
語りは、イメージです、想像力です
『すねこたんぱん』は、「昔ばなし大学」の秋田のグループで再話した昔話が入っている唯一の本です。小澤俊夫先生が監修して、発行してくださいました。昨年岩波書店より出版された『語り聞かせたい日本の昔ばなし 人と人とのにんまりする話』の中にも、秋田の私たちの話が何篇か入っています。
自分で黙読して読むのと、声に出して読んでもらうのと、全然違います。自分で読む時は、自分の世界に入る。でも、読んでもらうのって、すごい心地よくないですか? ただ目で字を追うよりも、頭に入ってくる。
絵も何もない語りを聞くというのは、想像力が必要です。「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」。そう語られたら、自分でその場面を想像しなきゃいけない。語りは想像する力を養います。

「本」をめぐる3つの世界
まず、絵本を仲間と紹介し合う。自分の知らない世界を仲間から聞いて、自分の世界、自分の価値観を広げる。
それから、子どもたちと本を使って交流する。テーマに沿って絵本を読んであげることもあるし、絵本のお話をもとに、絵や舞台を自分たちで作ることもある。
3つ目は、小澤俊夫先生の「昔ばなし大学」で習ったような昔話を覚えて、語ること。私は、語る時に秋田弁にはこだわらないです。語ることもありますけどね。私、土地言葉が苦手なんですよ。皆さんみたいに上手には語れない。外国の話も好きで語っています。最初に語ったのも外国の話でした。イギリスの昔話「エパミナンダス」です。
この間、夏の学童クラブで語った「金の腕」もイギリスのお話です。以前学校で語った時、男の先生が「怖いお話ですね」って。先日の学童クラブでも、子どもたちは身動きせずじっと聴いてくれた。東京子ども図書館が発行の「おはなしのろうそく」というシリーズがあります。ちいさい本なんですけどね。この本の中に「エパミナンダス」もあります。「エパミナンダス」は怖い「金の腕」と反対に、ゲラゲラ笑えるお話。どっちも好きです。「エパミナンダス」やろうか。ちょっと長いかな。少し縮めてやりますね。聞いてください。

「昔々あるところに、エパミナンダスという男の子がいました」
昔々あるところに、エパミナンダスという男の子がいました。エパミナンダスは毎日のようにおばさんのうちへ行きました。そのたびに、おばさんは「お母さんにお土産ですよ」と言って、何かくれました。
ある日、おばさんが大きなケーキをひと切れくれました。エパミナンダスは、そのケーキを指でぎゅっと握りしめて家まで持って帰りました。家に着いた時にはケーキはどこへやら。指の間にケーキの屑がくっついているだけでした。
お母さんが、「エパミナンダス、お前、指に何をくっつけてるんだね?」と聞く。「ケーキだよ、おっかちゃん。おばさんがくれたんだ」「ケーキだって? エパミナンダス。ケーキをそんなふうにして持ってきちゃ駄目じゃないか。いいかい? ケーキをもらったらね、きれいな葉っぱで包んで、それを帽子の中に入れて、その帽子を頭の上に乗せて、そっと歩いて帰ってくるもんだよ」「うん、わかったよ、おっかちゃん」
次の日、エパミナンダスがおばさんの家へ行くと、今度は出来たてのバターを1ポンド、お土産にもらいました。エパミナンダスは、言われたとおりにバターをきれいな葉っぱで包み、帽子の中に入れて、その帽子を頭の上に乗せて、そっと歩いて帰ってきました。
その日はとても暑い日でした。いくらも歩かないうちに、バターは溶けて、溶けて、溶けて、額にも、耳の後ろにも、首筋にも垂れてきました。家に帰った時には、すっかりバターだらけ。
するとお母さんが、「バターをそんなふうにして持ってきちゃ駄目じゃないかい。バターをもらったら、きれいな葉っぱで包んで、小川へ持っていって、水の中につけては冷やし、水の中につけては冷やし、それをそっと手に乗せて持って帰ってくるもんだ」
そうしたら、次におばさんのところへ行った時は、子犬をもらうんですよね。エパミナンダスはお母さんに言われたとおり、子犬を葉っぱに包んで小川へ持っていって、水につけては冷やし、水につけては冷やし……。子犬は半分死にかかってるのね。子どもたちがそれを聞いて、「ああっ」「やめて、やめて」っていう感じで(笑)。そうやって、どんどん続いていくんです。
今度、お母さんは「子犬をもらったら地面に置いて、長い紐を首にくくりつけて、引っ張って帰ってくるもんだよ」って教える。そうすると次におばさんの家でもらうのは、焼きたてのパン。エパミナンダスは、またお母さんに言われたとおり、パンを地面に置いて、紐をくくりつけて、ずるずる引っ張ってくる。それでお母さんに、「エパミナンダス、お前は頭がないね」って言われちゃう。すると聞いている子ども達は笑いながら自分の頭をさわるんですよ。
最後にお母さんが出かける時、「戸口のところにパイが6つあるだろう。さっき焼いて、冷ますために置いてある。いいかい、エパミナンダス。パイの上を通る時には、十分に足の踏み場に気をつけてくれよ」と言うんです。エパミナンダスは「うん、わかったよ」と言う。
お母さんが出かけて、パイはだんだん冷めてくる。エパミナンダスは、パイの上を通る時には十分に足の踏み場に気をつけましたよ。気をつけましたとも。パイの真ん真ん中に足を置いて、一つ一つ丁寧に潰しながら歩いたんだってさ。
──で、終わります。子どもたちとお話の中を歩くのは、とても楽しいですよ。

子どもの反応があるから
語りは、相手の反応があるからこそ、持続できます。反応が直に返ってくるというのは、嬉しいです。大人って、シーンとして聞いているのね。でも、子どもはシビアです。反応してくれるから。面白かったら笑う。怖かったら怖いという顔をする。変な話だったら「おかしい」っていう表情をちゃんとしてくれる。だから、続けてきたんだと思います。
絵本、語りに助けられた日々
私は、お話や絵本の世界に入ると、悲しいこと、苦しいこと、辛いことを忘れることができます。そして、語りには、先人の知恵が詰まっていて、人を癒す力があると思います。
亡き実母はパーキンソン病という難病と闘っていました。母のできることを少しでも増やしたくて、施設に入所していた時は、週に2回ほど、絵本、紙芝居、お手玉、語りを持って面会に行きました。母からは、お年寄り向けのお話会の絵本選びをしてもらいました。
昨年亡くなった義母が、圧迫骨折、認知症を発症し施設に入所した時は、「花」「花火」の写真集を持って行くと反応がよくて、嬉しくなったものです。
絵本、語りに助けられている日々です。

写真:オジモンカメラ/高橋希
聞き手:熊谷新子
デザイン:谷戸正樹