秋田市文化創造館

連載

2026.07.02

あこがれのひと

8

尊敬するひとはいる、
好きなひとも、一目置くひとも。
でもあこがれのひとはそういない。
あこがれのひとに話を聞きに行きました。

大友俊和さん
「ガーデンおおとも」

秋田市下浜羽川に、野球のフィールドほど大きな花の庭「ガーデンおおとも」があります。今頃は、100種1000本の紫陽花が見頃です。冬の椿900種1000本、春の桜100種200本、つつじ100種類200本、さざんか、彼岸花、クリスマスローズ、藤、花桃、たんぽぽ、一人静……四季を通じて多種多様な花と日々を共にしているのは大友俊和さん。大友さんが植えて、育て、枯らしては、また植え、育てている秘密の花園をめぐりながらお話をうかがいました。

花の庭を歩きながら

始めたのは41年前。36歳の頃。庭の敷地は表だけでもかなりの広さがあるんだけど、裏はこの何倍もあります。だいたい4000坪あります。子どもの頃は畑でした。キャベツとかジャガイモとか日常のもん。母親一人でやってたからただ難儀だけしてたっていうか。その昔は果樹も植えていました、梨とか林檎とか。2代前、3代前も、半分道楽でやっていたようなものです。

いまでは多肉植物が人気でしょう。わたしは少年のときから好きだった。昔、お花見の頃といえば、千秋公園の下で花苗の市があったの。サボテンを売っていた方もいました。にかほの方。それを見て、ぐらっときて。たくさんの関東、関西の園芸業者が来ていて、物色して歩いたら、はまっちゃった。

お庭をぐるっと回って奥に行きますか。99パーセントは私が植えたものです。

椿だったら900種

椿だったら、外と温室の中に、900種類はありますから。違う種類を求めて、あちこち、新潟なんか、日帰りで、車で。手入れはあまりしたくないので秋田の寒さに強くて、育ってくれるものを選んでいます。秋田はぎりぎり育つからよかったなと思っています。花は苗から育てているんです。

これはエクスバリーアザレアという、つつじの仲間。豪華絢爛、きれいなの。赤、白、ピンク、黄色、オレンジ。つつじといえば、常緑性で、冬も葉っぱが落ちないでしょう。これは、落葉性。桜より早く咲く種類もあるんです。

さざんかは、椿に比べて、葉っぱがちょっと小さめ。秋田では気候的にあまり。寒さに強いほうじゃないから、早く咲く種類が、いま冬の寒さにぎりぎり耐えている。極力早咲きの品種を選ばないと、霜と氷で咲ききれない。枯れるところまではいかないけど、傷んでしまって。

母親をここで10年間介護してたんです。2025年の2月まで。嫁いできたここで、田んぼ、畑をやっていたここで。昔はちゃんと草を刈っていたのが、途中から花も抜くようになって。でもやっぱり畑をまだやりたいっちゅうてた。

亡くなったのは102歳です。いまみんな施設に入れるけど、それはできなくて、私がずっと。私は役所の現場の作業管理の勤めをしていました。落ちてるのはカラタチ。蜜柑の仲間。刺が危なくて。これ食えないから。黄色できれいなだけ。あと花がいい香りがする。鳥も啄むし駄目なんです。

これは椿。ごくごく早く咲く種類の。石川県の品種で、代表的なお茶花で西王母といいます。西王母は最初、見つかったとき来歴不明だったんですよ。

終わらない夢

私、登山もしていて、山登りも兼ねて長岡市の栃尾に行って、そしたら「枝、持っていけ」なんて言ってくれたけれど今は売ってもいます。これは栃尾で発見された炉開きという品種です。茶道で炉を使い始める季節ってあるじゃないですか。その頃に咲くので。いい名前を付けるもんです。

咲いては傷んで、咲いては傷んで。これは曙の蕾。薄いピンク。みんな1000円前後で買って、育てます。

雪囲いは、こんな量だと全部してられない。コーンを買って、小さくて大事なものの上からかぶせています。雪で枝が折れたり裂けたりするので。ただかぶせるだけだと蒸れちゃうから横に穴を開けて。アイデアです。小さなのを守ってるってこと。ある程度の大きさまでね。

虫は、毎日見ていれば分かります。おかしいなあと思ったら薬をピンポイントで。でなきゃ、いくら薬があっても、道具があってもきりがないから。

たくさん花を植えたせいか、いろんな鳥が来ますよ。蕾を食べるウソという鳥が、もう来てますね。山がもうちょっと寒く厳しくなると、みんな里に降りてくるんです。きれいな、おっとりした鳥で、これがまた、癪に障る。おもちゃのピストルを撃っても、他の木に移るだけで。追っかけてって転んだりして。

あれが温室です。これがないと私の夢が終わらなかったんです。

温室は2003年の12月に建ちました。100坪の広さがあります。温室では演歌を聞きながら。時々カラオケボックスにも行きます。「銀座のサムライ」はAKTで4回も生放送で歌った。冷や汗。「銀座のサムライ」は森雄二とサザンクロスという昔のムードコーラスグループで、そのボーカルの方がフリーになってから、いい歌だなと思って。

普通は恥ずかしくて人前で歌うなんて大変なんだけど、はまって最後の職場では必ず飲み会の後はスナックに行って。数百曲歌いますから、人もあきれる。YouTubeにも入ってますよ。

花、歌、山です。山は千くらい登りました。全部頂上まで行きました。晩飯食って金曜の夜に出発します。車を夜通し飛ばして登山口で野宿して、朝一で登る。最後まで登れなかったのは、一度。北穂高ってあるんです。上高地から涸沢を経て、途中から具合が悪くなって、断念して帰ってきたことはあります。この写真は斜里岳です。あっちは羊蹄山。北海道にもよく行きました。

ところが今は1、2時間も歩けば、もう歩けない。2年前、はしごから落ちて、腕を骨折したんです。それがきっかけか、がくんと体調が悪くなって。腕なのに足も動かなくなった。関係ないようだけど、それしか考えられない。いま76歳だから74の時か。けがをして以来、気力はあるけど体が付いていかない。癪だなあと思って。気力も体力も徐々に衰えていくのかなってイメージだっただけど、いきなりでした。

外よりはあったかい

温室は暖房をかけてないけど、外よりはあったかい。ただ冬日なんか、がちがちに凍ります。

これは赤加茂本阿弥(あかかもほんなみ)といって、加茂本阿弥というのは、お茶花として有名です。椿は、蕾はまん丸。お茶の世界ってこだわりの世界なんですね。時々、枝を分けていただけませんかって。花屋さんに頼んでも手に入らないから。

これも椿。花粉がないの分かりますか。普通は先っちょに花粉が詰めてある。めしべが退化すると花が小さくなって早く咲く。白侘助といいます。花が落ちると葉っぱに引っかかってバサバサ音がするんですよ。

また物色です。新しいのがまだまだあるんです。途中で枯らしたものもあるし。私は10年後たぶんいないと思うんだけど、いまはまだ動ける。椿は時々変化するんです。枝替わりをします。一本の木に、ピンクとか白とか、いろんな色の花が咲くときがあるんです。

これは琴柱(ことじ)。今日から開き始めて。足元には雪割草。2月から3月くらいかな。新潟市に雪割草の山があるんです。弥彦山って聞いたことありますか? その北側に角田山という山もあって、山全体が雪割草。全国からたくさん人が来る。その麓に遠藤実記念館「実唱館」があります。作曲家で有名な遠藤実って分かる?

長野の山に向かう途中に新潟に寄って物色して、運がよければ一曲歌う。遠藤実記念館には小さいけどステージがあるんです。昔の歌手で「浪曲子守唄」の一節太郎という人がカラオケ教室をやっていて。

これはネリネという彼岸花の仲間です。ダイヤモンドリリーともいいます。普通、彼岸花って赤のイメージでしょう。これは違う。外では育たないから、温室の中で辛うじて冬を越す。赤、白、黄色、ピンク、オレンジ。彼岸花も、見たら買わずにいられなくて、私、ネットで買えないもんだから、相棒がいて、あれ買って、これ買ってってお願いすれば、すぐ取り寄せてくれる。もっと緋の出たものは花が大きいんだけど。

温室育ちというよりは

この黄色いのは石蕗(つわぶき)。外のものはもう終わっています。温室育ちというよりは、秋田の気候でぎりぎり育たないものを、屋根を付けることで、秋田の気候よりは冬を少しだけましにして育てられる品種を増やす。あとは雪がかぶらないように。欲をいえば、こんなに大きくなくてもいいから、もうひとつ欲しい。そうすれば秋田の外では育たないものが、もっとちゃんと育ってくれる。

これも彼岸花の仲間。リコリスっていって。彼岸花は20種類くらい買って、いま外で冬を越せるかどうか試しています。冬に葉っぱが出てくるもんだから、雪で覆われると光合成ができないでしょう。だから雪国はちょっと厳しい。でも丈夫で、ちゃんと冬を越した普通の彼岸花も、いっぱい植えてありますから。まだこれからです。これから一番、花が咲き始める。

あれは木の枝が擦れている音です。キキキって。枝が伸びてしまって屋根に当たってる。

毎日、落ちた花を片付けるのが大変。それでブロアバキューム。小さい花だと吸い込んでくれるんだけど、大きいのは途中で詰まっちゃうの。この椿は加茂覆輪(かもふくりん)。覆輪というのは赤い縁が入っているでしょう。

これはミモザ。アカシアですね。秋田では外で育たない。春先はきれいです。鉢に植えたら根が詰まって枯れてしまったものだから、地植えしました。買っては枯らし買っては枯らし。それは新潟出身の秋一番。新潟は地形的に海と山が近い。海岸には藪椿、背後の山には雪椿。それが自然交雑するんです。

秋田は海岸と内陸の奥羽山脈まで距離があるでしょう。でもなくはないんです。藪椿と雪椿が交雑したものはユキバタツバキという呼び方をしている。夢中だった頃は、あちこち回って歩きましたもの。

こういう咲き方もある。唐子咲きといいます。雄蕊(おしべ)が花びらに変化した。白腰蓑(しろこしみの)。

プリンセス雅子さんの椿もある。きれいですよ。白地にピンクの絞りと縁が入って。これを作った埼玉県の方の所に押しかけました。「アポ無しで来られても困ります」。「すいません」「一株分けていただけませんか」って。

ここは私が手作りしました。植える前の苗保管場所みたいなところです。パイナップルセージ、手で強めに擦って匂いを嗅いでみてください。

外に出ましょうか。

プライベート桜並木

これは全部クリスマスローズです。わたしが始めた頃はなんでこの花っていうくらい燻んだ色合いの暗い花。それが業界というのはすごいもので、あっという間に改良です。いまでは流行っていて、結構いい値段するんですよ。

この近くに、珠林寺というお寺があります。三、四人の方が集まってクリスマスローズの苗を数千株植えている所に、毎年ボランティアさんが来て手入れをしています。私は孤軍奮闘です。だからここは、あまり知られてないんです。みんな目の前を通り過ぎていく。

どうせだったら上まで行きますか。

桜も好きというか、ここで十分、花見ができるぐらいの。100種類の200本は植わっています。川岸もプライベート桜並木ですよ。

川岸は桜が終わると初夏には紫陽花です。土手の向こうまで植えてあります。向こうまで160メートル。こんなばかはいないよな。でもきれいですよ。紫陽花も100種類はあります。以前来ていた鮭は上がって来なくなっちゃった。その巨大な木は藤です。野生だから若干花の色が薄めです。

ここが水源です。温室を建てたときに井戸を掘って付けてもらったポンプが20年使って壊れてしまいどうしようと思って。昨年、あの暑い夏、川からポンプで水を上げて貯めたんだけど、ここを掘れば2メートルちょっとで水が出るはずだってことで掘ってもらいました。そしたら案の定出たもんで。調査もして、雑菌もいません。お花にお水をあげるのは家庭用の電気のポンプで。

ここは花桃の一大養成地でもある。昨年さらに調達して植えたんです。これは胡桃の木。

もう一回、人生があれば

裏山が、縄文時代の遺跡で、河童長根遺跡といいます。20代は考古学にのめり込んでいました。基本的に市役所や県の事業に参加させてもらって。いまはちょっと体力がないけど、当時はバイクに乗って、県内の遺跡を訪ね歩きました。かけらの表面の模様を見れば、何時代のものか分かります。30代で花と山に目覚めて、狂ってしまったんです。何でも、のめり込む悪い癖があって、徹底的にやらないと。

これはキツネノカミソリというヒガンバナ科の植物で、8月には一面が朱色に染まるだけ咲くんです。春は一面、クロッカス。その先、蜜柑もなってますよ。温州蜜柑。あと金柑。

これはサルビア。業界にだいぶ貢献してますから。でなきゃ、業界も持たないんです。売れなきゃ生活できない。この間は冬桜が真っ白に咲いてたんだけど、寒波で駄目になっちゃった。これは木蓮。5月。何年か前、遅霜が降りて一夜にして。

これはアーコレードという桜。イギリスで改良されたもので、イギリスでは春しか咲かない。日本に持ってきたら冬も咲く。咲くと全く別世界になる。ここでは、いろんな種類を見られるから。花が好きな人は、本当、帰りたくなくなる。

まだ、もっと、もう一回、人生があればいいような感じがするけど。私はひたすら探して歩きます。

今度こそってやるんです

花は、千秋公園の入口から両側に上までびっしり花屋さんが店を出していた、その頃からです。一番のきっかけが、父親が亡くなって、気が付いたら畑や果樹園が荒れ放題になっていたから。裏庭が広過ぎて、せめて表だけはきれいにしておこうと思った。いっぱいになったら、じわじわ奥へ行く。

爪に火をともして庭をやってきたので。植物なんか、安給料もらっていたって、500円、1000円。20、30年前だと安かった。みんな、苗から育てています。それが何十年たって、こうなる。ここまで来る苦労が誰にも見えていない。

桜と紫陽花の川、あったじゃないですか。両岸で、全く土質が違うんです。向こうは、さらさらの砂。こっち側は、代々安定して草が生えて、腐食土が入っているから黒っぽい。それでも俺は腐葉土を買ってきて、植え込むときに、全部、天地返しして、混ぜておく。

枯らしましたよ。車2台分は枯らした。でもやめなかった。今度こそってやるんです。椿やさざんかは風にてきめん弱い。だから風当たりの少ない場所に植えるんです。

田舎のよさと悪さがあって、いろんな行事とか慣習があって、私には馴染めないところがありました。私は個人プレーが、一人でこつこつとやるのが好き。うちは代々、神社の総代、お寺の総代を務めてきたから、自然と役割の話が来ちゃうんです。俺は父親とか先祖代々の人のようにはできないから、それでいろいろ反発も食らって。俺が行かなければ母親が行かなきゃいけない。そうすれば、女の出る幕でねえとか。いろんな人がいるから。

父が亡くなったとき、俺は36だった。最初に買ったのはライラックの木だった。まだ一本残ってる。ライラックって響きがよかったのかな。リラの花。

「ガーデンおおとも」
010-1503 秋田県秋田市下浜羽川家ノ腰6
営業時間:【月〜日】9-17時
電話番号: 090-7663-5142

写真:石川直樹 文:熊谷新子 デザイン:谷戸正樹
掲載日|2026年7月2日