「観察する」わいないきょうこ雪室制作レポート
日時|2022年12月3日(土)〜2023年3月初旬
「PARK-いきるとつくるのにわ」の[観察する(クリエイターによるリサーチと表現)]ではつくることを日々実践し、日常の暮らしをユニークな視点で観察しつづけるクリエイター・アーティストが秋田市中心市街地を拠点としたプロジェクトを展開します。
子どもの頃、秋田の祖母の家で雪に埋もれた雪室から、野菜をとりだしていた祖母の様子を印象深そうに話すわいないさん。そんな祖母との思い出から着想を得て、今回の雪室プロジェクトは発足しました。今回は雪室設置の過程をレポートします。
雪室とは
雪室とは雪を活用した部屋や小屋のことをいいます。横手市で有名な「かまくら」も雪室のひとつです。また雪を使って食材を保存する貯蔵庫の意味もあります。今では少なくなりましたが、小さな小屋や土に穴を掘った空間に食材を入れ、その周りの降り積もった雪を利用して貯蔵庫を作っていました。雪室熟成の代表として大根、白菜、りんご等があり、雪室で熟成されることで何倍も甘味が増幅されます。まさに雪室は、雪国ならではの熟成文化といえます。
12/3千秋公園に雪室を設置開始!
この日の天気はあいにくの暴風雨(雪)予報。戦々恐々としながら雪室の設置にとりかかりました。雪室のアドバイスをいただいた室谷さんが野菜ソムリエ仲間をひきつれて設置のお手伝いに来てくれました。
まずは、文化創造館でカラスのことを考えてコンテナや木材の組み方を試作しました。
秋田市民市場で購入した野菜や室谷さんが育てた白菜等を野菜コンテナや木箱の中に詰めます。食材を詰めたら千秋公園に移動し雪室を作っていきます。野菜の下に敷いた藁は美郷町の藁の会からいただきました。下段にりんご用の丈夫なコンテナで足場を作り、その上に天板をのせます。台の上に食材の入った箱を置き、開封した時の期待を込めて、わいないのおまじないが書かれた布をかけていきました。雪室の上には松の葉を置いています。針葉樹の葉はネズミなどの害獣除けに効果があるそうです。
天気予報では雷雨で荒れると予報されていましたが、実際に設営をはじめたところ、雲の切れ目から太陽の光が差し込み、雨も落ち着いてきました。そのおかげか問題なく雪室の設置を完了。晴れ女だという、わいないさんの力、恐るべしでした。きっと千秋公園の神様も味方してくれていたと思います。
お肉や魚はまた後日食材の下ごしらえをして雪室に投入することになりました。
12/15雪室熟成素材の下ごしらえ
午前中は秋田市民市場で泥ネギ、ハタハタ(オス)、ミートショップちくれんで豚肉(スペアリブ)を調達、午後からは「育む」調理部のお手伝いのもと、雪室にいれるハタハタのアンチョビ、豚肉の塩漬けなどの下ごしらえを行いました。ハタハタは頭は魚醤に、身はアンチョビになります。できたアンチョビはスープになる予定です。豚肉の塩漬けは2月に取り出し干し肉にします。米酢にローリエ、ブラックペッパーを漬けた液にゆで卵を入れ、卵のピクルスを作りました。こちらの卵のピクルスはペースト状になって、トーストに塗って食べると美味しいのだとか。「育む」メンバーも初めての食べ方で興味津々でした!
12/16 再び雪室へ食材を投入
前日に下ごしらえしたハタハタのアンチョビ、豚肉の血抜きをし、再度塩漬け作業を行いました。昨日作った卵のピクルスもさらに追加して、もう1ビン作ることにしました。午後からは追加で持ってきたりんご、酒粕、コーヒー、米と一緒に仕込んだ食材を雪室に入れる作業を行いました。
今回も不思議なことに、雪室に食材を投入する作業を始めた瞬間、ずっと吹雪いていた空が晴れはじめ、お隅櫓の方から青い空が見え始めました。今回の雪室の設置を神様も喜んでいるのではないかとと思うほどに、作業をしている間だけ晴れ、作業が終わり千秋公園を離れたらまた吹雪くとという不思議な体験をしました。きっと雪室が熟成されていく様を神様も楽しみにしているのかもしれません。
文化創造館にも小さい雪室を作りました。こちらの雪室はプランターに土を入れ土の上に調味料を寝かせています。雪室の上部には、千秋公園のお堀でも咲き誇る蓮で装飾しました。
雪室の中にいる冬眠中の食材
野菜 :白菜、キャベツ、かぶ、むかご、じゃがいも、白インゲン豆、沼山大根、菊芋、泥ねぎ
米:餅米、米
果物 :りんご
肉:豚肉骨つきスペアリブ(塩漬け一晩置いて血抜き後に再び塩に漬け直したもの)
魚:ハタハタ・オス(以下のように加工したもの)
1,頭をとって塩漬け一晩置いて血抜き後に 再び塩とホールブラックペッパーとローリエに漬け直したもの
2,頭をしょっつるように塩につけたもの
3,白子を湯通しして塩漬けにしたもの
卵:ゆで卵に沸かした米酢にローリエとホールのブラックペッパーでピクルスにしたもの
ナッツ類 .くるみ .銀杏
その他 .酒蔵春霞からの今年の酒粕 、甘酒用の麹 、里山コーヒーからの雪室特別仕様のローストしたコーヒー
雪室定点観察に向けて
“太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
(三好達治「雪」)
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。”
淡々と深々と。
今も静かに秋田に雪。
音も光も白く密封されて環境を変えて行きます。
そんな絶好の環境の中、雪のなかで材料を熟成を促しそれらの変容していく味を想像しながらメニューを組み立てています。
私の中で祝いの席で食すという行為は崇高な儀式のようなものでありたいと思うのです。
雪室というアイデアは母方の祖母が、雪の降りはじめの頃に庭にムシロを引きそこに色々な野菜を入れてまたムシロで被うという事を思い出したことから始りました。泥ねぎや白菜、りんごもありました。台所は土間にあり洗い場の隣には生け簀がありそこにはお正月のご馳走の鯉がいました。ほんの数回しかお正月の雪深い時に来たことがなかったのにも関わらず白く密封された世界での捌かれた鯉の赤い血は未だに鮮明です。
今回のこの企画は箱舟の様な雪室が千秋公園の霊験あらたかな場所に設置されることで天と地の間で起きる自然現象(雪と熟成)の力を借りてさらにアンビシャスな味わいとパッションが新たな崇高な食の儀式を作り出すことを目論んでいます。
料理は単に足し算ではない事。化学反応がその多くの新しい味を生み出し、多くの伝統を作り上げてきていること。
もう一度それらを知るために雪室の設置はその実験をさせてもらっている形なのだと理解していただきたいのです。
食には各民族による材料との向き合い方があります。その部分のバリヤーも解いて今回の実験トライアルは起きようとしています。
わいないきょうこ
雪室は千秋公園のお隅櫓下と文化創造館に設置されています。雪深い場合は通行止めになる可能性はありますが、ぜひ一緒に見守っていただければ幸いです。雪室で熟成させた食材は、2023年3月21日(火・祝)に開催する「冬眠という熟成の味を旅する気分で体験してみませんか?」で世界各地の料理にして振るまう予定です。ぜひご注目ください。
「冬眠という熟成の味を旅する気分で体験してみませんか?」
日時|2023年3月21日(火・祝) 12:30〜15:00
場所|秋田市文化創造館 屋外広場(雨天の場合は2階バルコニー)
概要|千秋公園や文化創造館の屋外に雪室を制作・設置し、その中で秋田で生産されている野菜、肉、魚などの食材を2ヶ月近く熟成させます。見慣れた食材を雪室で熟成し、フィンランドやブータンなど、世界のさまざまな料理のアイデアを含めて調理しふるまいます。雪で発酵・熟成されたものを、寒さ感じる屋外で焚き火を囲みながら味わい、世界の料理や文化、そして先人の知恵に触れましょう。
プレイベント
●雪室開封の儀
日時|2023年3月8日 11:00 〜12:00
場所|千秋公園お隅櫓下の芝生。雪室の周辺。
集合場所|秋田市文化創造館 スタジオB
参加費|無料
千秋公園に設置した雪室の開封の儀式を行います。熟成させていた食材を持って千秋公園から文化創造館までの道のりをみんなで大名行列をしませんか?
▶︎わいないきょうこ活動記録
「ローカルなフード(風土)を味わう」開催レポート
第一部レポートはこちら
第二部レポートはこちら
Profile
わいないきょうこ(デザイナー、やぶ前)
横浜市出身。桑沢デザイン研究所写真研究課卒。日本でバッグデザイナーとしてそのキャリアをスタート、活動拠点をロンドンに移した後は、内外問わず様々な企業やデザイナーとのコラボレーションを通じ、バッグを主軸にファッショ ン小物やインテリア・オブジェなどを制作。また舞台、映画などのコスチュームデザインも担当。 現在はブータン王立タラヤナ財団クリエイティブアドバイザーなど続けながら、ロンドンのスタジオを母方のルーツ秋田美郷町に移し、町の人々と伝統と知恵を新しく捕まえる形で世界にその暮らしぶりを伝えるための町の学び舎’やぶ前’を始めた。
テキスト|山本美里(PARK – いきるとつくるのにわ プログラム・コーディネーター)
▶︎「PARK – いきるとつくるのにわ」についてはこちら