秋田市文化創造館

レポート

クリエイター・イン・レジデンス「.oO」レポート
「出会うはずのなかった出来事に出会う力」

日程:2021年10月11日(月)〜11月28日(日)
会場:秋田市文化創造館 スタジオA1
主催:秋田市文化創造館

多様な分野の専門家やクリエイターが秋田市文化創造館に滞在し、
秋田に暮らす人々の創造力を刺激する実験的なテーマに取り組む
「クリエイター・イン・レジデンス」。

2021年度は、秋田市中心市街地を舞台とした企画公募「SPACE LABO 2020」にて、
グランプリを受賞した現代美術家の松田朕佳(ちか)とファシリテーターの雨宮澪
によるユニットCHIKA,MIWO,&MOREが滞在し、
文化創造館の丸窓から煙の輪っかを浮かべるプロジェクト「.oO」を実施しました。

(出展作家名のCHIKA,MIWO,&MOREにある“& MORE” とは、
CHIKA, MIWO 以外にこのプロジェクトに関わる出来事や人々を指します。)

「秋田市文化創造館の丸窓から空気砲を打ちたい」

2021年春、秋田市文化創造館(以下、文化創造館)の写真をみた松田朕佳と雨宮澪から提案されたプランは「文化創造館の丸窓から空気砲を打ちたい」というものだった。思いも寄らない提案に事務局としては困惑しつつ、秋田の空にドーナツ状の煙がぷかぷかと浮かぶ様子を思い浮かべると心がニヤリとする。しかし、文化創造館の正面に設置された丸窓は耐震補強のため壁で塞がれており、内側から手を加えることはどうにも難しい。

望みがあるとすれば、20年後に行われる(かもしれない)屋根のメンテナンスに乗じて、外側から空気砲の装置を仕掛けること。そこで、文化創造館の丸窓から空気砲を打つ日を20年後に想定し、プロジェクト「.oO」が始動した。

第1章 「装置をつくる」

2021年10月、CHIKA,MIWO,&MOREによる文化創造館での滞在がスタートし、最初に着手したのは、正面の丸窓を塞ぐ壁に丸くくり抜かれた空の絵を描くこと。窓を塞ぐ壁面に、丸窓が開いて青空がのぞく架空の風景が投影される。これも、これから文化創造館を訪れる人たちに「.oO」が浮かぶ世界のイメージを共有する装置のひとつとなる。

次に、丸窓と同じサイズの発射口を持つ空気砲の制作に取り掛かる。窓のサイズを測って、木材を継ぎ接ぎしながら直径2mの穴が空いた巨大な箱をつくる。同時にドーナツ型の煙を出す実験を進める。今回はスモークマシンという白い煙が出る特殊舞台装置を使うことに。プラスチックダンボール製の1/5模型の中に煙をためて、タイミングを合わせて両側からたたくと白いドーナツ型の「.oO」が出た。ぽふっ。

公開制作が進む中、日没後にはCHIKA&MIWOがホストとなってお客さんをもてなすスナックが定期的に開かれた。二人は占いやハンドパワーでコーヒーを入れるパフォーマンスを披露し、常連客はレコードや出し物を持ち寄った。訪れるたびにホストが入れ替わっている不思議なスナック。会期後半には、来館者やスタッフが集う人気店へと成長することになる。

第2章 「20年後の世界をつくる」

11月に入り、空気砲の制作と並行して、「.oO」が浮かぶ世界を探し始めることになった。そこで始まったのが、対話型のワークショップ「SUNDAY DONUTS」だ。毎週日曜日と祝日に、集まった「&MORE」たちと「.oO」が出る世界を創造するため、共に作戦を立て実現に向けて取り組んでいく。

第1回のタイトルは『どうやって作る?』。丸窓から出る「.oO」とは何なのか?それを出すためには何をすればいいのか?いろいろなアイデアや提案が集まった。しかし、実現を目指そうとした時、やはり浮かび上がってくるのは「お金」と「許可」というキーワード。これらをコツコツと解決していくことでしか「.oO」が浮かぶ世界は実現できないのだろうか…。

行き詰まりかけたところ、 CHIKA,MIWO,&MOREは塞がった壁に青空の絵を描いて窓を開けてみせたように、柔軟な発想力を持って、状況を切り開いていく。映画や小説では、実現困難なこともフィクションの力で実現されているように、第2回『時間を捉える』、第3回『ノラネコを捕まえる』では、現実の世界とは別の、未来や架空の世界へと活路を見出し、想像力を働かせながら「.oO」が浮かぶ世界を模索した。突飛にも思えるアイデアや対話を重ねていくことで、CHIKA,MIWO,そして&MOREの中で固まっていた道筋や認識が、みるみる拡張されていき、しなやかな思考力を持って物事を観察する場になっていく。

それを受けて、第4回『文化創造館を人格化して占う』では、占いという手法を使うことで、普段とは異なった基準で現実と向き合うことを試みた。CHIKA&MIWOがそれぞれ学んでいる数秘術、ヒューマンデザインという2つの技術で「.oO」の実現に適した時期を見出していく。

プロジェクトの課題をアートの力ではなく、占いの力で解決してしまおうとする軽やかさと意外性にクスッと笑ってしまう。

そんなこんなで現実世界と架空世界を行き来しながら、秋田の空に「.oO」が浮かぶイメージを共有し、ディスカッションを重ねてきたSUNDAY DONUTS。第5回『もうちょっとです』では、滞在が終わる日までに何を実現させることができるか、そしてプロジェクトを20年後まで受け継いでいくためにどうすれば良いか話し合った。

ちなみにSUNDAY DONUTSを実施する日には、文化創造館の1Fにあるカフェ「Sensyu Terrasse」にてコラボドーナツの販売が行われた。
いつもSUNDAY DONUTS後の「ドーナツを食べる時間」では、みんなで甘い輪っかを食べながら次回に向けた作戦会議するのであった。

一方、巨大空気砲は煙をためて両側から叩くのではなく、後ろ面に車輪をつけてところてん式に押し出す構造で、制作を進めていた。11月中旬からは、&MOREの一人から提案のあった「空気砲が時報だったらおもしろい」という声にお応えし、毎日12時に空気砲を発射することに。時報発射を繰り返しながら煙が丸い形になるように、調整と鍛錬を重ねていく。

エピローグ

巨大空気砲での発射実験と「SUNDAY DONUTS」を経て、CHIKA,MIWO,&MOREは文化創造館の丸窓から実際に「.oO」を出すチャレンジへと踏み出した。

直径1mの発射口を持つ空気砲を新たに制作し、屋根の側面に設けられた開閉可能な丸窓に設置する。空気砲の両側を強い力で叩くためのバチも制作し、準備は整った。密閉した空気砲に煙を溜め、「3、2、1」の掛け声で、ドンッ!と叩く。

「出た!」

「もわぁん」と煙のかたまりがでたものの、風に流されてすぐにかたちを失ってしまう。イメージしていたように、輪っかをぷかぷかと浮かべるのはなかなかに難しいということがわかった。しかし、まさしく「.oO」が浮かぶ世界の気配が現れた瞬間だった。

ある&MOREの一人がSUNDAY DONUTSの中で、「私にはもう、丸窓から.oOが出ているのがみえる」と言った。初めは、CHIKA&MIWOだけが持っていた『「.oO」が浮かぶ世界』のヴィジョン。それが言葉を交わし、共に手を動かし、同じ風景を見ることで、新しく出会った人たちへと継承されていく。私のものではなかったものが私のものになり、私のものだったものが誰かのものになる。そうやって少しずつ私の現実と誰かの現実が拡張された先に、「.oO」は浮かぶのかもしれない。

現実の中に漂うみえない未来や世界の気配を手繰り寄せ、出会うはずのなかった出来事に出会っていくこと。CHIKA,MIWO,&MOREがこのプロジェクトを通して起こしていったことを言葉にすると、そう言えるのではないかと思う。なんだか大げさな言い方だけれど、おそらくそういう力のことを「創造力」と、どこかの世界では言うのではないだろうか。

Music「bunka bunka」
by CHIKA, MIWO, YUKO, & RITSU

プロジェクト「.oO」の続報は秋田市文化創造館のウェブサイトにてお知らせいたします。

(レポート:藤本悠里子)

▶︎活動の様子はこちらのInstagramからもご覧いただけます。
▶︎クリエイター・イン・レジデンス「.oO」の開催情報ついてはこちら

Profile

CHIKA, MIWO, & MORE
「耳のないマウス」(2015 年結成)のメンバー、松田朕佳・雨宮澪によるユニット。
松田 朕佳・現代美術家。2010 年アリゾナ大学大学院Fine Arts 修了。国内外のレジデンスを経て現在長野県在住。おもに立体造形を制作。
雨宮 澪・ファシリテーター、プロセス&コミュニケーションデザイナー。個人と組織の変容プロセスの伴走者。千葉県在住。