秋田市文化創造館

PARK – いきるとつくるのにわ

アウトクロップ「この町、シネマ。」リサーチ報告・座談会 開催レポート

日時|2023年3月10日(金)

秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK – いきるとつくるのにわ」では、「観察する」「出会う」「育む」「残す」の4つのプログラムを通して、秋田の文化的土壌をたがやしていくことを試みます。

2022年、「観察する」の参加クリエイター・アウトクロップは、映画を語る空間を秋田市に復活させるプロジェクト「この町、シネマ。」を始動。「この町」において映画館が身近だった例として、1980年代頃の秋田市・有楽町の映画文化に焦点を当ててリサーチを実施しました。3月10日には県内外の小シネマに関する事例紹介や参加者が持つ映画についての記憶や未来の街の姿を話し合う座談会を開催しました。


アウトクロップによる報告

イベント前半は、アウトクロップの松本トラヴィスさん、栗原エミルさんからアウトクロップのこれまでの歩みやプロジェクト「この町、シネマ。」についての紹介、そして秋田県内外の地域と結びつく小シネマの事例についての報告がありました。

松本:前回行った「この町、シネマ。」の上映イベントでは、最後に「映画館が街にあることってどういうこと、映画を元にいろんな対話が生まれる場所ってどういう場所」ということを集まった人たちと考え、アイデアを出し合う座談会を開催しました。

参加者の皆さんと「こんな町の使い方をしてみたい」「映画にまつわるこんな体験があったら良い」というようないろんなアイデアを出し合い、秋田市の中で新しい映画文化を作っていけるかもしれないという期待感が持てる会になりました。

それと同時に、秋田にはかつてたくさんの映画館が営業していた時代があったので、その時代はどんなものだったのかを調べようと多い、今回リサーチを行いました。

発表で用いたスライドより

調べていくと、秋田には一番多い時で300館の映画館があったということや、秋田市内に住む人たちは平均して月に1度、映画館に足を運んでいたということがわかってきて、映画が町にとって重要なものだったと気付かされました。

また、県外の閉館してしまった映画館についても調べました。
ある方からは山形県酒田市にあった伝説の映画館グリーン・ハウスについてのドキュメンタリー映画を紹介していただいたり、岩手県洋野町にある昭和30年から営業されていた木造の映画館・善映館を訪問したりしました。

福島県の南相馬市には朝日座という110年前に開館し、閉館後も設備が維持されているという特殊な映画館もあります。

という、リサーチをしていたところ「来月、私の町の映画館がなくなる」という連絡を受けて、青森県八戸市のフォーラム八戸が閉館する最終日のイベントにも駆け込みました。

フォーラム八戸は一度倒産した後に市民の出資で再開して、市民の方々にも愛されていた場所でした。

ここからは現在も残っている映画館についてです。
岩手県盛岡市は東北で一番映画文化が充実していて、5つの映画館が並ぶ映画館通りという通りがあります。

各館は差別化を図りながらいろんな作品を上映していて、お客さんがそれぞれの館を周遊するような文化があることを知って驚きました。

1980年代の秋田の有楽町もそうだったんじゃないかと思います。
さらに全国で映画館を運営する人たちの集まる学会があって、日本全国そして国外の映画館の事例の情報交換がなされたりしていました。

「MORIOKA CINEMAS AND BOOKS」というイベントでは映画だけじゃなくいろんなアートを媒介に、様々な人と対話が生まれる場ができていて羨ましいと思いました。

今日のイベントや「この町、シネマ。」がそいういうきっかけになれば良いなと感じています。

他にも岩手県宮古市の映画館シネマ・デ・アエルは築100年の酒蔵を改修して映画館にした場所で、町の人たちが変わりばんこに好きな映画を流すという運営をしています。ビジネスとしての映画館ではなく、街の人たちが街の人たちのために運営している映画館があるということが刺激になりました。

秋田県大館市の御成座も上映ごとに掲げる看板を印刷ではなく地域の方が手書きしていて、秋田にも地域に愛されている映画館が残っているなと感じます。

今日、魁新報の朝刊に有楽町で映画文化が栄えた時代のシンボルだったプレイタウンビルが解体されるというニュースが載っていました。

発表で用いたスライドより

シンボルがなくなる発表のあったシンボリックな今日ですが、実際に有楽町に行ったことのある方、そして行ったことのない方からも、自分にとっての映画館や自分の住む街に映画館があることってどういうことなのか、ざっくばらんに話し合える時間にできたらと思います。

座談会

後半の座談会では、参加者の皆さんに映画についての記憶や「この町」の未来の姿について話し合ってもらいます。

まずは、今日のために資料を持ってきてくださった参加者の方々に、どんな資料をお持ちいただいたのかご紹介いただきました。

お一人目の方からは、1930年以降の秋田市の映画館の歴史を独自に調べ作ったというパンフレット「CINEMAD TOWN」についてのご紹介がありました。有楽町や駅前、中通り、大町・川反エリアの映画館の変遷が手書きの年表とマップで示されています。なんと10年ごとの住宅地図から映画館の位置関係を導き出したとのこと。

今回は試作品ということで今日のイベントを経て情報を更新したいという意気込みも伝えてくださいました。

お二人目はシアター・プレイタウンが閉館した後に管理者の方から声がかかり、館内に残された資料や上映器具やスクリーンを取り外しトラックに詰め込んで脱出したという経歴をお持ちの方。

その時に保管したフィルムや閉館した後の映画館内の写真をご紹介いただきました。館内に残された資料や器具は、有楽町の映画文化の財産だから残すべきだと思ったのだそう。

最後は有楽町の映画館で映写技師として働いていた方。当時の映画ファンが集った喫茶店の紹介記事や映画制作に熱量を注ぐ若者のインタビューなどがまとめられたスクラップブックをお貸しいただきました。

映写技師をやっているとどこの映画館でも顔パスで映画が見られたというお話や友人たちと映画を自主制作し、映画について唾を飛ばすほど熱く語った時代があったということ。有楽町の映画館がなくなり、秋田の映画文化もなくなるんじゃなんかという心配が募るという想いも話してくださいました。

その後、参加者の皆さんには自由に感想や意見を伝え合っていただきます。参加者個々に持っている映画館についてのエピソードや町にはどんな拠点が必要なのかなど熱心に話し合う様子が伺えました。

座談会の最後にはこれまでのお話を踏まえ、「この町にあってほしい場所」について考え、発表をしていただきました。

「映画や音楽、文学、食が混ざり合う複合施設」や「日替わりオーナー制のイベントペース」「夜21時以降に上映される映画館」「学校外の学び舎」「情報や感想が交換できる溜まり場」「お客さんと映画館が共同で発行するかわらばん」などワクワクするアイデアが集まりました。

プロジェクト「この町、シネマ。」では2023年度も引き続き、秋田県内外で暮らす様々な人たちに参加いただきながら、秋田市に映画を語り合う空間を復活させるべく、「この町」と「映画」にまつわるリサーチや活動を展開していきます。ぜひご注目ください。

参加者との集合写真

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Profile

アウトクロップ(映像プロダクション・ミニシアター)
秋田市を拠点に国内外で活動する映像会社。ドキュメンタリー映画の制作の他、地域プロモーション や企業ブランディング、TV・WEBコマーシャルの受注制作などを行っている。また、秋田市駅前エリア の古民家をリノベーションした小さな映画館『アウトクロップ・シネマ』も運営している。
https://outcropstudios.com/

テキスト|藤本悠里子(NPO法人アーツセンターあきた)
撮影|坂口聖英

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