秋田市文化創造館

PARK – いきるとつくるのにわ

「観察する」身体0ベース運用法/安藤隆一郎
2023年 夏期滞在レポート


日時|2023年8月15日〜8月22日

秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK – いきるとつくるのにわ」。「観察する」「出会う」「育む」「残す」の4つのプログラムを通して、秋田の文化的土壌をたがやしていくことを試みます。

「観察する(クリエイターによるリサーチと表現)」参加クリエイターの〈身体0ベース運用法(安藤隆一郎)〉は、昨年の8月から秋田県内のリサーチをはじめ、今回で5回目の滞在リサーチを8月15日〜22日まで実施しました。「木の岐」の情報を求めて秋田市河辺岩見温泉交流センターでや、雄和地域で一軒一軒聞き込みを行いました。


木の岐とは

「木の岐」とは、豆を打ったり(殻から豆を取り出す)、芋や米をつく道具として、使われていた二股、三股に別れた木の枝のことを言います。場合にあよっては枝付きの木の幹を加工したものもあり2mを超える「木の岐」もあります。庭木や山で道具になりそうな枝を見つけ、枝の形から想像し、さまざまな生活道具に使用していました。

油谷満夫さんのコレクションの「木の岐」

8月16日 雄和ふるさと温泉ユアシスの展示回収と町中探索

8月16日は雄和ふるさと温泉ユアシスに設置していた「木の岐」お話し募集の展示の撤去と町中を少し探索しました。ユアシスから秋田市文化創造館への道中、気になる鳩小屋を発見しました。

雄和ふるさと温泉ユアシス
鳩小屋

8月17日 秋田市河辺岩見温泉交流センター、旧川辺農林漁業資料館、鵜養地域での聞き込み

午前中は秋田市河辺岩見温泉交流センターに伺い、「木の岐」の情報を求めて滞在されているお客さんや職員さんに聞き込みを行いました。滞在中、岩見三内地区町内会長の備後正義さんにお越しいただき、幼い頃の「木の岐」の思い出をお聞きしました。こどもの頃にお祖母様が「木の岐」を使う様子を見て、その道具が何か質問をしたことがあるそうです。
河辺岩見温泉交流センターには12時まで滞在し、訪れていたお客様に聞き込みを行いましたが、なかなか情報が集まらず調査は難航しました。

その後、近くの旧川辺農林漁業資料館に民具が展示されているとお聞きし、秋田市役所職員に特別に見学させていただきました。見学後、さらに「木の岐」の情報を求めて秋田市河辺岩見温泉交流センターに戻り、職員の方に古くからある農家さんをご紹介いただきました。

ご紹介いただいた鵜養地区の農家さんに倉庫の見学を快諾していただき、古い農具をみせていただきました。多くの農具が残されていましたが、「木の岐」は見たことがないそうで、なかなか「木の岐」の情報が得られませんでした。鵜養地区の農家さんに鵜養と同じくらい雄和萱ヶ沢にも古い農家さんがいるのではないかとお聞きし、後日はそちらへ伺うことにしました。

秋田市河辺岩見温泉交流センターでの聞き込み
左:備後正義さん
旧川辺農林漁業資料館
鵜養の農家さん

8月20日雄和萱ヶ沢地区での聞き込み

前回の鵜養の農家さんに伺った情報をもとに雄和萱ヶ沢地区のお宅を一軒一軒訪問し、聞き込みを行いました。 家の管理者が代替わりし、倉庫を潰してしまっていたり、捨ててしまっていたものも多かったですが、山に囲まれる雄和萱ヶ沢では、旦那さんが拾ってきた枝をフックがわりに使っていたものや、木ソリを引っ張るときに使う「木の岐」など、いくつかの「木の岐」を発見することができました。

木の枝をフックとして柱に固定
雪ソリ用の木の岐を発見。ソリを引っ張るために使う木の岐。
何に使われていたか不明の木の岐を発見

8月21日油谷満夫さんへの聞き込み

秋田市で数多く「木の岐」をコレクションされておられる油谷満夫さんに、それぞれの「木の岐」についてお話しをお聞きしました。油谷さんは、コレクションするなら何かの世界一を目指したいと「木の岐」の世界一のコレククターを目指したそうです。牛の糞を掻き出すための「木の岐」や藁を干すための「木の岐」などさまざまな「木の岐」の使い方やエピソードをお聞きしました。

左:油谷満夫さん
木の岐の使い方をレクチャー

 

「木の岐」のエピソードや実物探しは難航しましたが、実際に一軒一軒聞き込みを行うことで、倉庫に眠っている「木の岐」を発見することができました。あまりにも自然に溶け込みすぎていて「木の岐」と言われてもピンとこない方がほとんど。しかしそこに生活の知恵や工夫が詰まっているようにも思いました。
家の所有者が代わり、捨ててしまっていたり、覚えていない見たことがないという方が多く、調査は難航しています。引き続き、「木の岐」の情報は収集していますので、「木の岐」を見たことがある、持っているなどの情報をお寄せください。

10月28日(土)は山などで素材採集することの面白さや、採集する際に得る副産物に関するトークイベント「山のホームセンター入門編〜素材採集の土産〜、10月29日(日)は「木の岐」を作るために山へ行き素材採取を行うワークショップ「山のホームセンター実践編〜素材採集の土産〜」を実施します。ぜひご参加ください。

トークイベント「山のホームセンター入門編〜素材採集の土産〜
日時|10月28日(土) 14:00-16:00
会場|秋田市文化創造館 スタジオA1
登壇者|吉田勝信(デザイナー)、安藤隆一郎(染色作家)
※吉田勝信さんの吉の字は土に口

ワークショップ「山のホームセンター実践編〜素材採集の土産〜」
日時|10月29日(日)10:00-13:00
講師|安藤隆一郎 / 身体0ベース運用法(染色作家)
会場|健康の森 (秋田市内/お申し込み後、集合場所の住所をお知らせいたします。)
定員|5名 (小学生以上。小学生の方は保護者同伴であること)

▶︎木の岐の情報はこちらまでお寄せください。

▶︎PARKの身体0ベース運用法(安藤隆一郎)はこちら


Profile

身体0ベース運用法(安藤隆一郎)

2016 年より染色作家 安藤隆一郎が始動した「ものづくりの視点」から考える身体論。「身体」と「もの」との関わりから生まれる感覚、運動、機能を「0」から見直し、人間が本来持っている「身体」の運用法を見出す。その「身体」とは医学やスポーツといった専門的なものではなく、私たちの身の回りにある「身体」のこと。身体0ベース運用法はアートが持つ多様なツールを使ってそれを翻訳し、伝えることで、「身体」の消えゆく未来へ向けてその可能性を問い直す。これまでに体験型インスタレーションの制作、発表やワークショップなどをおこなう。2021 年より、京都府亀岡市を拠点に不要民具を救出し、活用するプロジェクト「民具BANK」を立ち上げ、地域に伝わってきた「身体」を見出すことを試みる。安藤は1984 年京都生まれ、京都在住。2009 年京都市立芸術大学大学院工芸科染織専攻修了。現在、同大学染織専攻講師。(撮影:松見拓也 提供:京都市立芸術大学)

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テキスト|山本美里(PARK – いきるとつくるのにわ プログラム・コーディネーター)
協力|油谷満夫の生活文化財コレクション

▶︎「PARK – いきるとつくるのにわ」についてはこちら