クリエイター・イン・レジデンス
「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」リサーチ記録②
「樺はぎ」の同行で山へ
2022年9月28日
クリエイター・イン・レジデンスにて滞在中の美術作家・臼井仁美による「原木採集のリサーチ」の記録を公開します。
▶︎ リサーチ記録①「箕づくり職人・田口召平さんを訪ねて」
▶︎ リサーチ記録②「樺はぎ」の同行で山へ
これまでも木や植物を素材として制作をしている臼井は、素材についての関心を一貫して持ち続けています。歴史として記録の残らない時代には「木器時代」があったのではないかと想像し、物事の成り立ちや起源を植物と人間の営みの中に見つめることを作品制作のコンセプトとしています。
秋田での取り組み「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」では、昨年冬から度々秋田を訪れ、秋田の文化の中に見られるケズリカケの様相や、人間の営みの中に溶け込んでしまっている自然素材や、人と森と関わりに目を向けました。
明治9年創創業以来、樺細工の製造販売業を営まれる八柳。
樺細工は山桜の樹皮を用いた工芸です。
その素材を求め山に入り、山桜の樹皮をはぐ作業は「樺はぎ」と呼ばれ、現在八柳では社員総出で行われているそうです。
同行の記録を発表します。
角館樺細工製造販売元 八柳
「樺はぎ」
梅雨が明けて夏が終わるまでの、ほんの80日間くらい。 決して雨ではない日、仕事なので平日が良いはず、お祭りは最優先、山の持ち主の意向も重要、そんな日を静かに待つ夏でした。
本当に夏の終わり9月の最後の週、秋田の山にその日は訪れました。
熊鈴を鳴らして双眼鏡を覗く背中、梯子と背負籠を担いだ頼もしい背中、
足手纏いにならないようにだけ気をつけて追いかけます。
—–
体も心も山にあった
それは心と体が同時に反応するよろこび
その山の中、山桜の黑い木肌に
熊がのぼる
人がのぼる
蔦がのぼる
熊の跡、樹皮の裏側にのこされる
人の跡、樺細工にのこされる
蔦の跡、山にのこされる
樹皮のはぎあと、樹体の形成層の色
その色を表すことばは見つからない
一時も留まらず変わり続ける⻩色と⻩緑の重なりの色
その色から溢れる樹液に、このあと起こるかもしれない虫の集合を思う
15000本の中の1000本に
35年目の一本に交わす約束
3枚の約束
45cmの具合の良さ
木肌に立てる道具は刃物ではない
はぎ始めは欲しい面の裏側
人の目を持ってこの山に入った
人の痛み
木の痛み
それぞれに癒しながら続く営みを知る
森も人も熊も蔦も私さえも
手の仕事であれば
手の仕事があれば
—–
いつの間にか背負籠にいっぱいになっていた山桜の樹皮。
束ねて2,3年は乾燥のため保管され、その後樺細工に使われるそうです。
明治9年に創業された八柳さん、昭和の高度成⻑期に秋田市内のデパート「木内百貨店」に納品されていた樺下駄は独自の商品で、年間 1万足を届けていたそうです。
NHK朝の連続テレビ小説「雲のじゅうたん」(1976)の放送は角館の知名度を高め、樺細工の売り上げ上昇にも一役買ったこと、⺠藝運動のこと、樺細工と人の生活と密接さ、それが樺細工であること、伝統工芸と現代の生活の関わり方、むずかしさ、樺はぎを終えてからお聞きしました。
東北6県に育まれる山桜の樹皮を素材としている樺細工、2011年東日本大震災により発生した福島第一原子力発電所の事故によって起こった福島県内の入山規制は大きな影響を与え転機にもなったそうです。 良質な山桜の枯渇や樺はぎを専門とする職人の減少も課題となっていて、素材の調達は重要な問題です。山桜の植樹に取り組まれ、樺はぎも現在は社員総出で行われているそうです。
お話を伺っていた私の視界には八柳商店の開店時刻を気にする慶子さんが映ります。
そろそろ時間です。 八柳のみなさんが作ってくださった時間に感謝しています。
ありがとうございます。
お店を切り盛りする慶子さんが発信される言葉や企画に、いつもわくわくしています。
街の中にあるりりしくたおやかな構えの八柳商店をお訪ねしてから、角館を後にしました。
撮影 中島悠二
文章 臼井仁美
information
「直営店|八柳商店」
住所 | 秋田県仙北市角館町下中町2 TEL : 0187-53-2653 角館駅より徒歩10分/車で5分 |
営業情報 | OPEN : 9:00〜16:00 月・火曜日 定休 |
駐車場 | 近隣駐車場あり。 詳しい場所はお尋ねください。 |
Web | 樺細工 八柳 http://www.yatuyanagi.net/ 八柳商店 https://yatu8.thebase.in/ instagram https://www.instagram.com/yatu8000/ |
Profile
臼井 仁美 /美術作家
1980年東京都生まれ。 海洋生物資源科学科を専攻した大学を卒業後、2004年東京藝術大学入学、2010年同大学大学院を修了。
作品は主に木を素材とし、先史時代には木器時代があったことを想像しながら、人間の自然への眼差しに焦点をあて思考、制作をしている。
物事の成り立ちや起源を人間の植物との営みの中に見つめ、対象の分解、見立てや置換によって、国境や世代を超えることのできる解釈を探っている。
Exhibition
展覧会「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」
日時|2022年12月7日(水)〜18日(日)9:00〜20:00
会場|秋田市文化創造館 1階コミュニティスペース
作家|臼井 仁美(美術作家)
デザイン|越後谷 洋徳 ・ イラスト|阪本 真千代
コーディネーター|岩根 裕子・齊藤 夏帆(秋田市文化創造館)
主催|秋田市文化創造館
◉まちなか展示も同時開催◉
期間 11月23日(水・祝)〜12月18日(日)
会場 秋田市中心市街地各所(交点、ココラボラトリー、高砂堂、08COFFEE、のはらむら)
※会場によって期間や営業時間が異なります。駐車場の有無など各店舗の営業情報をご確認ください。
「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」記録冊子発行のお知らせ
展覧会「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」の記録冊子を2023年3月に発行予定です。
2022年の春から度々秋田を訪れリサーチした記録と、展覧会終了後に持ち主の元に帰っていくケズリカケ作品たちの記録を1冊にまとめる予定です。
送付希望者に無料で郵送いたします。
希望者は下記のフォームにて、必要事項の入力をお願いします。