秋田市文化創造館

レポート

クリエイター・イン・レジデンス
「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」リサーチ記録①

箕づくり職人・田口召平さんを訪ねて

2022年9月13日

クリエイター・イン・レジデンスにて滞在中の美術作家・臼井仁美による「原木採集のリサーチ」の記録を公開します。
▶︎ リサーチ記録①「箕づくり職人・田口召平さんを訪ねて」
▶︎ リサーチ記録②「樺はぎ」の同行で山へ

これまでも木や植物を素材として制作をしている臼井は、素材についての関心を一貫して持ち続けています。歴史として記録の残らない時代には「木器時代」があったのではないかと想像し、物事の成り立ちや起源を植物と人間の営みの中に見つめることを作品制作のコンセプトとしています。

秋田での取り組み「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」では、昨年冬から度々秋田を訪れ、秋田の文化の中に見られるケズリカケの様相や、人間の営みの中に溶け込んでしまっている自然素材や、人と森と関わりに目を向けました。


秋田市太平黒沢地区にて、60年以上太平箕(おいだらみ/おえだらみ)を作り続けている田口召平さん。太平箕は、秋田のイタヤ箕製作技術として国の無形民俗文化財に登録されています。材料は主にイタヤカエデ、フジヅル、根曲がり竹、山桜の樹皮です。

そのイタヤカエデの山を、田口さんに案内して頂きました。


箕づくり職人 田口召平さん
「イタヤカエデの山」

あなたが山と言うとき、それは私が山と言うときと同じものでしょうか。

小学生くらいの頃、そんな心配を始終していたことがあります。山に限らず他のものについても、詳しく説明して同じかどうかはっきりさせたいけれど、色や形で説明する方法しか思いつかなくて、その色や形を表す言葉さえ同じものを指している保証はありませんでした。

そのうちそんな心配は身を潜め、山といえば山しかないと思えるようになっていました。

それでも最近やはり、あなたが言う山も、私が言う山も同じはずはないと、それはよろこびのような新たな形として確かにそう思っています。

箕作り職人の田口召平さんは、2月にSPACE LABOでの秋田市リサーチ滞在の機会に初めてご自宅と工房をお訪ねし、雪が溶けたらまたいらっしゃいという言葉に導かれ、9月の滞在制作中に再訪、今回は箕作りの材料となるイタヤカエデの林も案内して頂きました。

この時、田口さんが見ていたその林は、私が見ることのできる林とはまるで異なるものでした。
辺りの植生を見れば、木の柔らかさまで感じることのできる田口さんの広く深い視界を心から尊く思いました。

同じように見える木々の連なりからイタヤカエデを教えて頂いた時の、木がイタヤカエデになったあの瞬間の、神経と神経の連結に立ち会ったような鮮やかな感覚。
「これでイタヤカエデはわかるようになったね」
と言う田口さん。
ささやかなことのようでいて、これは壮大なよろこびです。

木々の中にイタヤカエデを見つけることができるということ、この木を伐って割って削って編んで箕を作ることができることを思い描けることは、私が言う山をこれまでよりも多彩なものにさせることを意味しています。

そうする?3号 掲載
田口召平さんを訪ねて
2022年9月13日

撮影 鄭伽倻/小宇宙感光
文章 臼井仁美


※写真の一部は、秋田市文化創造館ウェブサイト『秋田の人々』「箕づくり職人_ 田口召平さん」より
( 取材: 佐藤春菜、撮影: 鄭伽倻/ 小宇宙感光)


Profile

臼井 仁美 /美術作家
1980年東京都生まれ。 海洋生物資源科学科を専攻した大学を卒業後、2004年東京藝術大学入学、2010年同大学大学院を修了。
作品は主に木を素材とし、先史時代には木器時代があったことを想像しながら、人間の自然への眼差しに焦点をあて思考、制作をしている。
物事の成り立ちや起源を人間の植物との営みの中に見つめ、対象の分解、見立てや置換によって、国境や世代を超えることのできる解釈を探っている。

http://hitomiusui.tumblr.com/

Exhibition

展覧会「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」

日時|2022年12月7日(水)〜18日(日)9:00〜20:00
会場|秋田市文化創造館 1階コミュニティスペース
作家|臼井 仁美(美術作家)

デザイン|越後谷 洋徳 ・ イラスト|阪本 真千代
コーディネーター|岩根 裕子・齊藤 夏帆(秋田市文化創造館)
主催|秋田市文化創造館


◉まちなか展示も同時開催◉
期間  11月23日(水・祝)〜12月18日(日)
会場 秋田市中心市街地各所(交点、ココラボラトリー、高砂堂、08COFFEE、のはらむら)
※会場によって期間や営業時間が異なります。駐車場の有無など各店舗の営業情報をご確認ください。


「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」記録冊子発行のお知らせ

展覧会「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」の記録冊子を2023年3月に発行予定です。
2022年の春から度々秋田を訪れリサーチした記録と、展覧会終了後に持ち主の元に帰っていくケズリカケ作品たちの記録を1冊にまとめる予定です。
送付希望者に無料で郵送いたします。
希望者は下記のフォームにて、必要事項の入力をお願いします。

▶︎展覧会「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」
▶︎ギャラリートーク(臼井仁美×石倉敏明)