秋田市文化創造館

インタビュー

秋田市文化創造館パートナー2021

2021年度、秋田市文化創造館は
7組のパートナーと一緒に活動を行っています。
パートナーとは、書類・プレゼンテーション審査を経た
「秋田のまちをおもしろくする企画」を実践する団体。
主婦、会社員、学生、自営業など
さまざまな立場の人たちが、
スタッフ(前田優子、齊藤夏帆、島崇)と
一緒に企画を磨き上げています。
日々どんな活動を行っているのか紹介します。

02 ストピリエゾン

ストピリエゾンの今井卓也さん(左)と鈴木太恵瑠さん(右)

街角や公共空間に設置されている、誰でも自由に弾くことができる「ストリートピアノ」。テレビのドキュメンタリー番組などでも取り上げられ、街の風景として浸透しつつあるようです。秋田県内には現在18ヶ所に設置されており、さらにこの秋2ヶ所増えて20ヶ所に。人口1人あたりのストリートピアノの数はなんと全国トップなのだとか!

2組目に紹介する秋田市文化創造館パートナー「ストピリエゾン」の今井卓也さんと鈴木太恵瑠さんのふたりは、ストリートピアノを活用したイベントや、YouTubeでストリートピアノにまつわる映像を制作・発信する活動を通して、ピアノとの出会いや集う人々のつながり、そしてピアノのある町の魅力を紹介しています。今回は、活動を始めようと思ったきっかけ、ストリートピアノをめぐるコミュニティの魅力について聞きました。

パートナー事業の募集を機に結成

今井 「ストピ」はストリートピアノの略、「リエゾン」はフランス語で「つながり」という意味で、そのふたつをくっつけた造語です。ピアノと人をつなげる、ピアノとピアノをつなげる。秋田にはこんなにたくさんストリートピアノがあるということを知ってほしいという思いから名付けました。

ストピリエゾンのロゴマーク。
ストリートピアノを通じて人と人、地域と人、地域と地域がつながる活動をしていきたい、という思いが込められています。

鈴木 ストリートピアノを利用する人同士のつながりもそうですが、この活動を通じて、(ピアノが設置されている)場所同士のつながりも生まれるといいなという願いもこめています。今井さんはSNSも駆使して、遠くの人ともつながって、ピアノだけではなく、その周辺の魅力も伝えていきたいという思いがあります。私はSNSをほとんどやっていないので、たとえ一期一会でもその場でのやりとりを大事にしたいと心がけています。異なるアプローチですが、「ピアノで人とつながりたい」という同じ思いでつながっています。

今井 ストピリエゾン結成のきっかけは、昨年(2020年)11月の文化創造館のプレ事業「カルチャカイ」です。

前田(スタッフ) 「カルチャカイ」は、様々なアイデアを「かたる」「あそぶ」コミュニケーションプログラムで、現在も開催していますが、今井さんが参加してくださった回は、第1回で、パートナー事業の募集説明会も兼ねていました。文化創造館やまちなかで「いつか実現してみたいアイデア」や「モヤモヤしていること」などを市民の方が持ち寄って、自由に発表してもらう機会でしたね。

今井さんのプレゼンはとても印象に残っています。パワーポイントの資料を準備してこられていて、たくさんのアイデアをお話しされていました。思いが溢れて止まらない!という感じでした。

今井 前から考えていた「ストリートピアノの魅力を伝える活動」についてプレゼンさせていただいたことで弾みがつきました。一緒にイベントを企画したこともある鈴木さんに声をかけて結成し、パートナー事業に応募しました。

3月21日「みんなの企画プレゼンテーション〜つくるがはじまる」での、今井さんによるプレゼンテーションの様子。審査員からは「ストリートピアノの活用というシンプルなテーマから無限にアイデアが生まれ、可能性がどこまでも広がっていくのを感じる」とのコメントが。

パートナー事業を通しての変化
ストリートピアノの魅力を映像で伝える


前田(スタッフ) ストピリエゾンは、パートナー事業があったから結成したユニットなんですよね。ところで、鈴木さんと今井さん、ストリートピアノとの出会いはいつだったんですか?

鈴木 今井さんとは、 2019年の7月にはじめて出会いました。設置されて間もないエリアなかいち(秋田市)のストリートピアノを今井さんが弾いていて、たしかショパンのノクターンの「遺作」を練習中、だったのかな。「クラシック好きなのかな?」と思って、声をかけました。

今井 鈴木さんはそのとき、びっしりと曲名が書かれたルーズリーフを持っていました。そのリストの中から、「これ弾けますか?」ってリクエストしたら、ぱぱぱーっと弾き始めて。うわ、すごい人だな!と。そこから交流が始まり、その年の11月に、エリアなかいちでピアノのイベントを一緒に企画しました。

鈴木 ピアノは5歳の頃から地元(秋田市)のピアノ教室で習っていました。高校卒業を機に習うことはやめましたが、大学生や社会人になってからも、ポップスや歌謡曲などを耳コピしたり楽しみながら弾いていました。30代半ばくらいにもう一度クラシックをやりたいなと思うようになり、ショパンのエチュード(練習曲)などで技術の再養成をしながら、目標の曲へ向かっています。

ストリートピアノに興味をもったのは、車の中で何気なく聴いていたABSラジオ(ABS秋田放送)の番組で、パーソナリティの方が、当時設置されたばかりだったエリアなかいちのピアノを実際に弾きながら取材されていたのを聞いたことがきっかけです。

はじめて弾いたときは、ピアノを周りの人と「共有する」という点で、開放的でいい空間だなと思いました。そのときのことは今も鮮明に覚えています。
それまでは文化会館やホールで行われている「ピアノマラソン」(たくさんの参加者がホールにあるピアノをリレー式に弾きつないでいくイベント)に参加したりしていましたが、それ以外になかなかピアノ演奏を共有する機会がなかったのです。

2019年に今井さんと企画したエリアなかいちでのイベントで演奏する鈴木さん。ストリートピアノを維持するための募金も呼びかけ、集まった善意はメンテナンス費としてエリアなかいちに寄付しました。

今井  私は小学3年生から5年生までエレクトーンを習っていましたが、そのあとは独学です。2-3年前から、幼い頃にピアノを習っていた妻の勧めもあり、自宅のすぐそばにあるピアノ教室に通うようになりました。習い始めたらピアノがさらに好きになりました。
ストリートピアノの存在を知ったのは 電気屋さんのテレビです。紹介する番組を偶然見かけて、その後、一緒に番組を見た兄から「なかいちにストリートピアノが置かれたみたいだよ」ってメールをもらって、気になって行ってみました。そこで鈴木さんに出会ったのです。

家にあったのは電子ピアノだったので、生ピアノが弾けるという意味でもストリートピアノにはまっていきました。

ストリートピアノは、人前で弾く練習にもなります。ピアノ教室で発表会があるのですが、すごく緊張してしまうので、その緊張を少なくするために弾きに行っていました。そうしたらその場で出会った人と交流が生まれて、これがストリートピアノの魅力だということに気がつきました。

社会人になってからもバンドでキーボードを担当し、イベントに出演するなど、積極的に活動を続けていた今井さん。

前田(スタッフ) ストピリエゾンでは、ストリートピアノの魅力を伝えたいと、YouTubeで映像を配信していますね。

今井  ストリートピアノを通して出会った人を紹介する映像をつくっています。以前から構想は考えていたのですが、パートナー事業へ参加することで形にすることができました。前田さんが並走してくれて、自分たちだけで考えをまとめられないときに相談にのってもらえるので、とても心強いです。

YouTubeの収録風景。

今井 最初に紹介したのは、エリアなかいちのストリートピアノで出会った宮城県出身の大学生でした。野球部でピッチャーをしている遊佐さんは、楽器の経験はないのですが、自分で好きなビートルズの「Let it be」を弾いてみたくて独学でピアノを始めました。楽譜は読めないので、曲に合わせて鍵盤が光るYouTube動画を見ながら覚えていったという強者です。始めて1年ちょっとなのですが、とても上達が早いです。

鈴木 今日は、ケイコさんという高齢の女性の取材をしてきました。コロナの影響もあって最近あまり会えていなかったのですが、連絡してみたら撮影を快諾してくれて、ひさしぶりにお会いできました。

ケイコさんとは、今井さんと一緒に開催した2019年のエリアなかいちのピアノのイベントで出会いました。

イベントの終盤に、集まってくれたみなさんにある方が「みんなで歌おう!」と呼び掛けたのですが、こちらに「365歩のマーチを伴奏して!」とリクエストして場を引っ張っていったのがケイコさんでした。周りにいた方たちがみんな歌ってくれたのですが、そのときに、意外にも高齢の方が多く参加されているということに気がつきました。退職後にピアノを始められて第二の人生を楽しまれているパワフルな方がたくさんいるのだということを知ることができたのは、大きな発見でした。ストリートピアノは、普段の生活ではなかなか出会うことのない幅広い年代の人たちとの交流の場にもなっています。

パートナー事業2021を経てこれから

前田(スタッフ) 今年の秋には、エリアなかいちだけではなく、北秋田市の「オープンガーデン 森のテラス」と、田沢湖町の「思い出の潟分校」でイベントを予定されていますね。

今井 はい。9月から月1回くらいのペースで開催する計画を立てていました。

「森のテラス」は、窓がなく、風通しの良い開放的な空間で、川の流れや虫のなき声、木々の揺れ…そんな音を聞きながらピアノを弾けるという楽しみがあります。

「思い出の潟分校」は、田沢湖のすぐそばにあって、施設全体の雰囲気が素晴らしい。どこを切り取っても絵になるような場所です。

「森のテラス」でのイベントは、北秋田市の地域おこし協力隊の阿部さんの協力もあり、地元のお店によるマルシェイベントとのコラボレーションなど、楽しい展開になっていたのですが、コロナの影響で残念ながら無期延期になってしまいました。この後の企画もどうなるか未定です。こういう状況なので、たくさん人を集めなくてもできる活動をしていこうと思っています。

秋田県内のストリートピアノをめぐる映像制作も続けていきます。できれば20カ所全部。動画を通して、ストリートピアノを知ってもらい、ピアノとの距離を縮めてもらいたいと思っています。そして、「場所」の魅力も伝えていきたいです。そのピアノが置いてあるその場所に行ってみたいと思えるような情報を盛り込んでいきたいと思います。

鈴木 ストリートピアノのある空間は、「生の音楽」がある空間です。
チケットを買うハードルもなく、弾く側、聴く側が同じ目線で気軽に生の音楽に触れることができるのが、魅力のひとつだと思います。
ステージやライブハウスとはまた違う開かれた空間で、流行りの曲だけではなくジャズやクラシックなどさまざまなジャンルのピアノを弾く人たちともつながっていけたらいいなと思っています。

5月に潟上市で開催されたストリートピアノ・イベントの様子(主催:未来へ繋ぐピアノ)。老若男女さまざまな年代の人が集い、ただ演奏することを楽しむだけではなく、そこで出会った人たち同士で即席セッションが始まったり、和やかに交流している様子がとても印象的でした。

今井 「秋田のストリートピアノを弾きに行きたい」というお話が全国から届きます。コロナの影響で今は行き来が難しいですが、今のうちに秋田県内のストリートピアノを極めたいです。いつかみなさんを案内できるように。
12月には秋田市文化創造館でもイベントを予定しています。また、YouTubeでは、県内各地のストリートピアノを紹介する映像を随時発信していますので、ぜひご覧ください。

(取材:前田優子 写真:ストピリエゾン/秋田市文化創造館)

information

秋田市文化創造館パートナー2021
02 ストピリエゾン

活動内容
秋田のストリートピアノの存在をもっと沢山の人に知ってもらいたい。
そして、ピアノを弾く人がもっと増えてほしい。
そんな願いを込め、秋田のストリートピアノを弾く皆さんにインタビューをしてドキュメントムービーを制作したり、初めてさん(ピアノ初心者)を対象としたワークショップを行ったり、県内各地に散らばるストリートピアノをつなぐリレーコンサートキャラバンを計画しています。

●YouTube
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