オンライントーク
「まちと出会いなおす」(ゲスト:影山裕樹)レポート
日時|2024年9月28日(土) 15:00-16:15
秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK – いきるとつくるのにわ」。「観察する」「出会う」「育む」「残す」の4つのプログラムを通して、秋田の文化的土壌をたがやしていくことを試みます。
「出会う」では、さまざまなゲストを招いたイベントを通して、新しい視点や風景と出会うことを目的に、今年度はこれまでトークイベントや秋田市中心市街地でのパフォーマンスフェスティバルを行ってきました。
本イベント「まちと出会いなおす」では、”異なるコミュニティをつなぐ”をミッションとして掲げる「千十一編集室」の代表を務める編集者の影山裕樹さんを迎え、まちをよく観察し出会いなおす方法について、これまでのご活動をもとにお話いただきました。
「千十一編集室」について
私は「千十一編集室」という編集プロダクションを運営しておりまして、「まちを編集する出版社」をテーマに掲げて活動しています。もともとは東京の出版社で働いていたのですが、2010年頃に独立し、その後はフリーランスとして全国の芸術祭のプログラムに編集者として関わるようになりました。
最初に関わったのは「十和田奥入瀬芸術祭」というもので、そこで本を作ったり言葉周りを考案したり、さまざまな編集業務を担当しました。ちょうど10年前頃、全国に芸術祭が広がりつつある時期だったので、その頃からローカルに関わる機会が増えていきました。このように、基本的には編集の仕事を中心とし、イベント運営や人材育成、自治体や企業のメディアコンサルティングなども手掛けています。
関係の編集
2022年に『新世エディターズファイル』という本を出版しました。この本では全国の編集プロダクションを取り上げているんですが、いわゆる紙のメディアやウェブサイトなどの平面のメディアを作るだけでなく、街づくりにも関わるような編集プロダクションを取り上げています。
その際、編集者の定義として、「人/歴史/産品/知/土地といった文化資源を複合させて、新たな価値を生み出す人々」を挙げています。地域の人々の関係性や歴史、自然などの資源を組み合わせてイノベーションを生み出すのが、新世代の編集者だと考えています。
そういった中で、私が考えているのは情報の編集から「関係の編集」へということです。情報の編集というのは言葉を組み合わせて雑誌を作るとか本を作るとかということです。これは情報、二次元の編集なんですよね。それに対してこれからの時代の編集者というのは、「関係の編集」ですね。雑誌とかメディアがない状態、空中に絵を描くような行為ですよね。
例えば、都市からやってくる若者と地元にいる人々と、そういった人たちの対立みたいなものが問題になっているとします、その時に対立をそのままにしてくと地域って衰退していくんですよね。そうではなくて普段あんまり会ったことないんだけど、会わせたら面白いんじゃないかみたいな人たちを繋げてしまい、その結果何かしらのイノベーションを地域にもたらすことが僕は関係の編集じゃないかなと思っています。地域の外/内を含めた意外な人と人をつなぐことで新しい価値を生み出す、コミュニティを形成するということを僕は関係の編集と名づけています。
テレビや新聞のように情報を一方的に届けるのではなく、絶えずコミュニケーションを生み出すようなツール性を持ったメディアが増えれば、さまざまな分断が解決されるのではないかなと思っています。
マスメディアの衰退と編集のスキル
現在マスメディアが衰退しているという現実があります。2013年のデータでは、世界の新聞発行部数ランキングで日本の新聞が上位を独占していました。かつては、マスメディアは非常に強力な影響力を持っていたのです。しかし、今ではその時代は終わり、特に若い世代ではインターネットの利用時間が増えています。
出版業界も同じ状況です。私もそうしたメディア業界の状況の中でこのままでは食っていけないと感じ2010年に独立しました。とはいえ、編集という仕事自体は非常に面白く、さまざまな可能性を秘めていると思っています。なので、フリーランスとして編集のスキルを活かしながら活動し、ローカルメディアにも興味を持つようになりました。
メディアは基本的に情報を発信する媒体であって、発信者と受信者がいるというオーソドックスな図式がこれまでの古いマスメディアの図式ですね。著者がいて発信者がいて読者がいると。その間がブラックボックスになっていてこのブラックボックスを組み替えながらより効果的に読者に届けるっていうのがこれまでの編集の仕事だったんですよ。例えば電話なんかも声がそのまま相手に届くわけじゃなくて機械で加工してますよね。加工するっていうのが編集とかメディアの仕事なんですよ。だけど今の時代、テレビも見ないし新聞も読まないし雑誌も読まないんでどれだけいいコンテンツを読者に届けても誰も読んでくれないと。そうするとただ単に情報を一方的に届けるだけじゃだめでどういう風に届ければ良いか考えないといけないんですよね。
今やメディア専門の企業だけじゃなくて普通の会社やメーカー、自治体、個人、誰もが情報発信している時代です。そこへどういう風に届ければより理想的な届け方ができるかってことを一生懸命考え抜くということが重要視されていています。
その工夫がいっぱい詰まっているのがローカルメディアだと思っていて、ローカルメディアに関するワークショップも全国でおこなっています。
例えば、2017年に京都でおこなったワークショップ「CIRCULATION KYOTO」では、オーバーツーリズムが深刻な洛中ではなくいわゆる洛外に注目するワークショップを行いました。例えば山科区を舞台としたチームは、普段乗り換えにもあまり使われない駅のロッカーの中に山科の歴史やお店、人のことが書かれているローカルメディアを作り、途中下車を促すような仕組みを試みました。
異なるコミュニティをつなぐ
都市には複数のコミュニティが並存しているわけですが、対話によりお互いの歪んだ認識や敵意などの誤解をなくしていくことが公共性において非常に大事だと思います。ローカルメディアもその点において重要です。例えば、都会の人と地方の人、観光客と地元の人といった、普段出会うことのない立場にいる人たちをつぐためのツールとしてローカルメディアがあると思います。
公共空間の活用も、普段出会わない人たちが、お花見や音楽フェスといったイベントで集まり、「なんかこのまち、素敵だよね」と感じるような経験をすることができる面白い活用法が全国に増えています。こうした取り組みをどんどん増やしていかないとコミュニティ間の分断が解消されていかないのではないかと感じています。そういう意味で千十一編集室では異なるコミュニティを繋ぐということをミッションとして掲げメディアや事業を作っています。
質疑応答
参加者:秋田の駅前エリアでもコミュニティは分断していて、飲み屋街はサラリーマン、自習室は高校生、フリースペースは高齢者と分かれているように感じます。一番ミックスしているのは郊外のイオンモール…。秋田駅はいろんな人が行き交うから可能性がある場所かなと思いました。
影山:本当にその通りだと思います。さまざまな人たちが集まる場って、(秋田だと)竿燈祭りくらいなのではないでしょうか。お祭りって昔から、コミュニティを混ぜ合わせるような効果があったと思うんです。ただ、日常でそういう場所があるかというと、なかなか難しいように感じます。だからこそ、そういった機会や場所を作っていく必要があるんだろうなと感じました。
参加者:まちづくりといったときの”まち”は”つくる”訳なのでそれまでにあった”まち”とは何かが違うはずですが、まちづくりという言葉を使うときの”まち”は、それまでにあったまちと異なるのは何ですか。
影山:本当に重要な点だと思います。まちづくりの主体は誰なのかという問題は地域によっても異なると思います。例えば、地元の商工会議所がまちづくりを頑張っているところもあれば、外から来た人たちが中心となって動いているところもあります。
ただ、私が思うのは、元々その地域にあるコミュニティで考え続けるということが非常に重要だということです。これまでの街づくりや地域運営のあり方って、地元の意見が強くて、外から来る人を受け入れにくい傾向があったと思うんですよね。しかし、今や人口減少や財政難といった状況に加えて、自治体自体が消滅する時代にもなってきています。そうなると、地元の人たちだけでまちづくりを続けるのは限界があると思うんです。
地域は、ずっと同じ人たちだけで成り立っているわけではなく、時代によって住む人々が変わりながら更新されていくものです。よそ者が入ることで地域は確実に変わりますし、その変化をどこまで地域のコミュニティが受け入れられるかが重要だと思います。なんでも受け入れるべきだとは思いませんが、変わらざるを得ないという前提がある中で、外から来た人たちとの関係を柔軟に考えていく必要があると思います。
昔は生まれてから死ぬまで同じ土地で過ごす人もいたかもしれませんが、今ではほとんどの人が一度地元を出て、自分の生まれ育ったまち以外の価値観も知っている人が多くなっています。
そうした時代に、地域と外の価値観をうまくつなげる人がより重要になると思っています。地域の課題に応じて、たとえば若者を呼び込むために大学や高校を作る、あるいは専門人材を連れてくるといった選択肢を考えることも必要でしょう。その地域に必要なよそ者は誰かを、その地域ごとに考えることが大切です。まちはそこに住む人たちのものでもありますが、住人は常に更新されていくもので、変わらないまちというものは現代にはほとんど存在しないのではないかと思っています。
質問者:将来、紙媒体での書籍の良さを伝える仕事がしたいと考えています。相手の興味を引くような届け方として、どのようなものが効果的だと思いますか?
影山:現在、紙の本が全然売れなくなっているんですね。本屋さんもどんどんなくなっています。編集者の仲俣暁生さんが重工業、軽工業のように「重出版」と「軽出版」という言い方をしていました。かつての重たい出版は厳しい時代になってきていますが、実は今、すごく軽い出版が流行っています。
現在、全国に広がっている文学フリマには、ものすごい数の人が出品していて、お客さんもたくさん来ています。みんな本をあまり読まないはずなのに、どうしてこんなに多くの人が本を作って読んでいるのかという状況になっています。「軽出版」、つまりZINEやフリーペーパーなどの形式が流行っているのです。そうしたものをもっと多くの人に作ってもらいたいし、さまざまな人の作品が集まる場所を作るということは届け方としても効果的だと思っています。
Local Book Shelf™️でも、そういった場所を皆さんと一緒に作りたいと思っています。皆さんと作る本がどんどん増えていくことで、秋田に来ないと見れない本棚ができるのではないかと思っています。
今回オンライントークでは、いわゆる「編集」という枠にとらわれない新しい射程を含む編集者の仕事について、影山さんのこれまでの活動を振り返りながらお話しいただきました。さまざまな問題や分断が地域ごとに浮かび上がる昨今、それでも自分達の居場所を楽しくしようとする術を編集するという視点を用いて考えていけるのではないでしょうか。まちの問題を自分ごととして考える、出会い直して考えてみることは自分達の居場所を、ひいてはまちを変えていくきっかけになるのかもしれません。
影山さんには、今回のオンライントークイベントだけでなく日常をプレイする連続演習「プロジェクト・コモンズ!」の第1回目、「Local Book Shelf™️を作ろう」へも講師として参加いただきました。
「Local Book Shelf™️を作ろう」では日々過ごす日常をよく観察し、自分達の暮らす場所をより面白くするにはどのような目が必要かということを、ZINE制作を通して探りました。
制作されたZINEは文化創造館内のLocal Book Shelf™️でご覧いただけます。皆様もぜひ覗きにきてください!
Profile
影山裕樹(編集者、千十一編集室 代表)
1982年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。編集者、メディアコンサルタント。”まちを編集する出版社”千十一編集室 代表。アート・カルチャー書の出版プロデュース、ウェブ制作、著述活動の他、「十和田奥入瀬芸術祭」(2013、エディトリアル・ディレクター)、「CIRCULATION KYOTO」(2017、プロジェクト・ディレクター)など、紙やウェブといった枠を超え様々な地域プロジェクトのディレクションに携わっている。地域×クリエイティブ ワークショップ「LOCAL MEME Projects」の企画・運営、ウェブマガジン「EDIT LOCAL」の企画制作、オンラインコミュニティ「EDIT LOCAL LABORATORY」の企画運営なども。著書に『ローカルメディアのつくりかた』、編著に『あたらしい「路上」のつくり方』、共編著に『新世代エディターズファイル』など。大正大学表現学部専任講師。
トークゲスト|影山裕樹(編集者、千十一編集室 代表)
編集|武田彩莉(PARK – いきるとつくるのにわ プログラム・コーディネーター)
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