公募「SPACE LABO 2021」審査員総評を公開します
2022.04.08
クリエイティブな視点でまちなかを活用するプランを考える公募「SPACE LABO 2021」。58件の応募のうち、二次審査を通過した5組のクリエイターは秋田市中心市街地に滞在し、滞在での気づきを踏まえた「まちなか活動プラン」を最終審査会で発表しました。最終審査を経て、2022年度にプランを実施するクリエイター2組が決定しました!
3月21日に行われた最終審査会には、クリエイターのみなさんはオンラインで参加。会場には、クリエイターたちが秋田滞在中に出会った方々など、市民のみなさんが集まりプレゼンに耳を傾けるとともに、プランへの感想や質問など、関心高く多数のコメントを寄せていただきました。
審査員総評と、2組のプランを公開します。
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審査員総評
■川勝真一(建築リサーチャー、RAD)
刻み込まれる「秋田」
書類での一次審査を経て選ばれた5名が、現地での約1週間の滞在を通したリサーチによって、各自のプランを発展させ、二次審査に挑むというのが、このスペースラボの最大の特徴だ。個人的にはこの方法がとてもよかったのではないかと思っている。つまり各アーティストが「何をしたいか/できるか」ではなく、フィールドとなる秋田のまちと彼/彼女らの交換(交歓)の可能性、その過渡的な状態をこそ評価することができたからだ。
5名にとって秋田という場所は、扱うべき題材であり、作品の素材でもあるわけだが、それは操作する主体とされる対象という関係にとどまらない。よくその土地に根ざし生きる住民を「土の人」、短期間だけ滞在し日常に華やかな変化をもたらす旅人を「風の人」というが、水のように大地の起伏に合わせ自身の姿を変えながら、しかし流れの中で大地を侵食するような、そのような「水の人」を選びたいと思った。
そういう点で最終的に選ばれた臼井仁美とおおしまたくろうは、短い期間の中ではあったが、初めて遭遇する雪国の風景や人々との対話を通して、自身の経験や思考、身体が更新されていくような新鮮さがプレゼンテーションから感じられた。また、臼井の「木を削る」や、おおしまの「(路上の)リズムを刻む」という人類史的に普遍性を持った制作手法には、自分自身の認識や身体性の中にこの地の生を刻み込むという「水の人」としての営為と響き合うものが感じられた。
2人が滞在した期間は、決して活動しやすい季節だとはいえないが、結果的に、長い冬の雪と共にある暮らしの中で培われてきた秋田の人々の精神性や、暮らしの悲喜交々に触れることになったはずである。これからの1年間の活動を通して、彼女/彼の中にどのような「秋田」が刻まれるのか、楽しみである。
■高橋希(ユカリロ編集部)
SPACE LABO 2021の募集要項は「まちなか活動プラン」を考えて、秋田市中心市街地を拠点に滞在し「土地にふれて考える」こと。器が大きいお題のもと5名のクリエイターが秋田に滞在し、最終審査で選ばれたのはおおしまたくろうさんと臼井仁美さんのお二人だった。
私がこの2名を選んだのは、企画が実現されたときを想像すると素直に「わくわく」したからだ。アーツセンターから滞在時期に指定されたのは1月~3月。皆さんが予想していた以上に冬の秋田は雪深くて寒さも厳しかったことだろう。それをそのまま受け取ればネガティブな要素でしかないが「街にふれて考え」た結果、初案を軽やかに組み直し、想像していた以上の豊かな企画に膨らませてきてくれた。
たとえば、おおしまたくろうさん。一面雪に覆われている秋田でどうやってスケートボードを滑らせるのだろう? という心配は杞憂に終わり、自作楽器・滑琴(かっきん)の改良案を見つけて早くも試作をしていた。さらにまた冬にプロジェクトを開催したいと提案してくる圧倒的なポジティブさ!
もう一人選出された臼井仁美さん。「蔵」にあるどの「原木」を差し出し「ケズリカケ」で戻ってきたら驚くだろうと考えるとわくわくするし、いろんな「ケズリカケ」が見られる日がいまから待ち遠しい。
自分だけで完結する企画や世界。それはそれで楽しいけれど、第三者が入る「余地」があると自分ごとが増えて立体的になり、きっともっと楽しい。私たちが入る余地をもうけてくれたお二人への再会がとにかく楽しみである。
■三谷葵(ユカリロ編集部)
今回のSPACE LABOの募集要項は幾通りにも読める内容でした。私が応募する側だったら何を試されているのかわからない怖さにひるんだかもしれません。
滞在クリエイター5名のリサーチは、地元の人にとって誰にも隠されていないのに見えなくなっている場所や物事について多くの気づきをもたらしてくれました。最終的にはシンプルな手法だからこそ深さ・強さ・越境する力を持つ、しなやかで楽しい2プランが採択されました。まちのもつ地域性にも凡庸さにも素直に反応し、ときにクリエイター自身も変容をいとわない勇気と、プランのもつユーモア、その向こうにかいま見える切実さが決め手だったように感じます。
2022年度はぜひ、臼井さんとおおしまさんに会いに秋田市文化創造館に足を運んでください。お二人のチャーミングさ、おもしろさに、みなさんもきっとファンになるはずです。
アートプロジェクトは作品ができていく過程も醍醐味です。参加しないともったいない! というわけで、私たちユカリロ編集部の “文化創造館がよい”は2022年度も続きそうです。
■藤浩志(美術家、秋田公立美術大学大学院教授、秋田市文化創造館館長)
秋田のまちなかの多種多様な空間へアプローチを試みるこの事業、その手法は一切限定されていません。僕の本心はすべての試みを実施してほしい。それを前のめりでサポートできる運営団体であってほしい。今の段階でそれができないことが悔しく、力不足で申し訳ないと感じています。
応募段階から様々な角度からの興味深い提案がありました。必ずしもアウトプットの完成度を求める取り組みではないし、先端性や特異性だけを求めているわけでもありません。多種多様な活動の試みが試されることが大切で、それを作ろうとする態度が重要だと信じています。
書類審査で選ばれた5名の方に短期間の滞在でしたが、関心の高い現場をそれぞれの方法でリサーチしてもらいました。そのユニークな視点と手法に深く共感し、全ての提案の展開を心から望みました。三本木さんにはアウトプットを気にすることなく長期間に渡り関心の連鎖を深めていただきたいと思いましたし、椎木さんとは常設の言の葉の集積場を一緒につくってみたいと思いました。秋田市内の各所で、福井さんの演劇を浸透させる演劇祭のような事業の開催をのぞみましたし、おおしまさんの開発したツールと言葉で若い人が面白い活動を実践するまちに仕掛けたいと思いました。また臼井さんの技術=マジックでまちに潜在する蔵が原木の眠る森となり、多くの発芽が秋田に新しい文化を創造することになるのではないかという妄想も抱くことができました。地元にいる人もいろいろな活動のアイデアや種を持っています。しかしなぜ実現しづらいのか。実現しているものはあっても、なぜうねりのようにつながってゆかないのか。何が抑圧、邪魔しているのか。それを打ち崩す小さな試みの積み重ねがこのプログラムの延長にあるのではないかと思います。採用されたプログラムのみならず、それに刺激を受け、湧き出てくるプログラムにも期待しています。「まちはつまらない」とは言わせたくないのです。
審査員
川勝真一
建築リサーチャー、RAD
建築に関する展覧会のキュレーションや出版、市民参加型の改修ワークショップの企画運営、行政への都市利用提案などの実践を通じ、 建築と社会の関わり方、そして建築家の役割についてのリサーチをおこなっている。
https://radlab.info/
ユカリロ編集部(高橋希・三谷葵)
「ふつうの人のふつうの暮らし」をテーマにした小冊子「ユカリロ」を発行する。2014年活動スタート。メンバーはカメラマンの高橋希と編集者の三谷葵。現在は地元紙での責任編集ページの編集や、秋田市文化創造館内での物販など活動の幅を広げている。
https://yukariro.jimdofree.com/
藤浩志
美術家、秋田公立美術大学大学院教授、秋田市文化創造館館長
京都市立芸術大学大学院美術研究科修了後、パプアニューギニア国立芸術学校講師、都市計画事務所勤務を経て美術家として活動。東北と九州を拠点に様々なフィールドで新しいプロジェクトを模索する。https://www.fujistudio.co/
採用プラン
■臼井仁美/アーティスト「やまは蔵、まちの原木、ケズリカケの木々」
○滞在での気づきと活動プラン
秋田に向かう新幹線から見間違えた景色が、滞在での重要な視点を暗示していました。車窓から見えた広大な白い湖は雪に覆われた田んぼであり、白い湖に浮かぶ群島のように思えたものは点在する集落や墓地でした。見間違いを見立てとして解釈することが、今回のリサーチそれぞれを繋げる助けとなりました。
藤浩志さんの素材で溢れた蔵は、オエダラ箕制作者の田口さんがイタヤカエデを採集する山と重なります。渡邉幸四郎邸の踏み抜きそうな2 階と生き物の気配は、樺細工の素材となるヤマザクラを採集する森のようです。役割を終えて家屋で保管される木製の家具や道具は、葉を落として森で春を待つ広葉樹のようにも見えます。他のものに見立てなぞらえることは、異なる立場や環境を想像し理解しようとすることになりうると感じました。
人間と植物の関係がもう少し近い距離にありオエダラ箕が年間幾万点と制作されていた頃やボンデンコがお祭りで売られていた頃を想像することは、地域を超え世代や国境を問わないコミュニケーションのきっかけになるとも考えます。まちなかで対象をそれ以外のものに見立てることがこのプランのはじまりとなります。
原木採集:
通常の原木の採集場所は山や森ですが、まちなかを採集場所とします。秋田市内の蔵、家屋のリサーチを行い問い合わせ、木で仕事がされているものでケズリカケても構わないもののご提供を市民の方へ呼びかけます。原木の対象は鉛筆から家屋まで。
ケズリカケ制作:
提供者の方の希望も伺いながらケズリカケを制作します。
ケズリカケの木々があらわれる:
ケズリカケを制作した作品を採集場所である自宅、蔵などに返却し、元の場所で展示をして頂けるようお願いします。
企画全体を取り込んだ見立てのまちなか地図を作り、作品のある各所で展示公開を行います。
原木がケズリカケ作品になって返却された姿を撮影し記録集を作ります。
公開ができない場所のケズリカケ作品は、本体のみまたは写真を別の会場に展示します。
その後ケズリカケ作品は戻った場所で、欠片を落としたりしながらそれぞれの環境の中へ戻っていきます。
Profile
臼井仁美
1980年東京都生まれ。 日本大学海洋生物資源科学科卒業後、2004年東京藝術大学入学、2010年同大学大学院を修了。
作品は主に木を素材とし、先史時代には木器時代があったことを想像しながら、人間の自然への眼差しに焦点をあて思考、制作をしている。
物事の成り立ちや起源を人間の植物との営みの中に見つめ、対象の分解、見立てや置換によって、国境や世代を超えることのできる解釈を探っている。
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■おおしまたくろう/サウンドマン「滑琴狂走曲 in 秋田!(カッキンラプソディー・イン・アキタ)」
※「滑琴」…スケートボードにエレキギターの弦・ピックアップを取り付けた自作楽器
○滞在での気づきと活動プラン
冬の秋田市は、積雪により車道と歩道などの境界線が曖昧になっていた。一方で、融雪歩道の整備の有無によってエリア別の優先度のようなものが視覚化されていた。雪は街の境界線を隠すこともあれば明らかにすることもある。ルート譜を作曲することは街の境界線を意識的に操作することであり、演走してマッピング譜として記述することは新たな線を引き直すことのように思えた。
パフォーマンスイベント「滑琴狂走曲 in 秋田」の中で、「雪中演走」と「室内道楽」という2つの新曲を発表する。
雪中演走(Rhapsody in Snow)は、冬の秋田市を舞台に作曲したルート譜を演走する配信プログラムである。滞在中、雪により街の境界線が引き直されていることへの気づきが発想のきっかけとなった。雪道でも走行できるように、ダートウィールを使用したり、スノーボートをヒントとした機構を考案して雪上専用の滑琴を開発する。これまでの滑琴の活動で意識してきた「パブリック&ステルス(公共の場でこっそりと)」を、冬の秋田市と関連づけたパフォーマンスである。
室内道楽(Street Chamber Music)は、地元のスケーターN氏の滑琴の試乗を経て考案された「室内での演走」を意味する造語である。野外での演走に比べてステージパフォーマンスとしての側面が強く、大きな音量でのスペクタクルな演走を目指す。室内楽の形式に則り、地元のスケーターにご協力いただき、複数名での演走を行う。また室内道楽の空間を構成するにあたり、スケートボードのセクション(障害物)でありながらギターアンプとしての機能を持つ音響装置を開発する。
新曲発表のほかにも、トークや滑琴の滑琴の体験会を実施する。滞在中の交流会ではスケートボードに触れたことがない人が多い印象だったので、滑琴を通してスケートボードへの理解を深めていただき、スケーターと住民の共生の一歩となることを目指す。
スケートボードは五輪競技に選ばれるほど人気の高いアーバンスポーツであるにも関わらず、街では排除の対象(ノイズ)となっている。わたしはこれまで、ノイズをユーモアに変換して社会に向けて表現してきた。本プランは音楽や楽器の名を借りた、市民とスケーターの対話の最初の一歩となるだろう。いずれは真面目な議論の場も必要だが、最初の一歩は「ジョイフル」を大切にして、スケートボードの喜びや街の線を引き直すことの面白さを目一杯表現したい。
Profile
おおしまたくろう
PLAY A DAYをテーマに、身近な道具を改変した楽器の制作と、それらを組み合わせた少し不思議なパフ ォーマンスを行う。音楽や楽器の名を借りた遊びやユーモアによって社会の不寛容さをマッサージする。
第23回学生CGコンテスト:アート部門優秀賞(2018)、2019年度創造活動助成 for U30採択(2019)、 The Medium Is The Massage LIVE!!!!(DOMMUNE,2017)、サウンドパフォーマンス・プラットフォーム 2018(愛知県芸術劇場)、Skateboard meets Electronic Guitar おおしまたくろう楽器展 #1 滑琴(かっきん)(FIGYA,2019)、ホリデーパフォーマンスvol.5:おおしまたくろう(ロームシアター京都,2020)、 みなと A GO GO!2021(港まちポットラックビル)
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お問い合わせ
秋田市文化創造館(担当:岩根・石山・藤本)
TEL::018-893-5656
E-Mail:program@akitacc.jp
〒010-0875 秋田県秋田市千秋明徳町3-16
開館時間:9:00〜21:00
休館日:火曜日(休日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日