開館記念BOOK 123 について
2021.07.22
秋田市文化創造館の開館(2021年3月21日)を記念した、開館記念 BOOK 123を期間限定でご希望の方にお届けいたします(部数に限りがございます)。
※8月22日で受付は終了しました
開館日に行ったオープニング・イベントにご参加いただきました皆様のほか、「秋田市文化創造館 フリー・オープン・デイ」期間にご来館された方々に、部数を限定して配布したものです。また、秋田市内外の文化施設等でも若干数配布協力をしていただきました。
開館記念BOOK1「写真:すてきなたてもの」
写真:瀧本幹也
文:林洋子「藤田嗣治-秋田の地への〈遺産〉と〈気配〉」
開館記念BOOK2「絵:あきたのハレとケ」
絵:渡邉良重
開館記念BOOK3「言葉:もっと知りたい」
言葉:石倉敏明「コンタクト・ゾーンとしての秋田ー『木村伊兵衛の秋田』をめぐって」
木村覚「暗黒舞踏を生んだ秋田と土方巽の目」
江上英樹「土田世紀の想い出」
ツレヅレハナコ「秋田の味」
最果タヒ「小町さんこんにちは」
石川直樹「白瀬矗と南極」
ブックデザイン:服部一成
●BOOK1について
今年の正月明けすぐ、写真家の瀧本幹也さんが秋田にいらして、秋田市文化創造館を撮影していただいたものを、小さな写真集としてまとめたものです。首都圏で緊急事態宣言が出される直前、また秋田市では観測史上タイ記録の大雪が降って多くの世帯が停電に見舞われた日の直前の3日間でした。
雪降りしきる中、大判のフィルムカメラを抱えて、ハイライダー(高所作業車)に乗り込み、建物の天辺に接近していく瀧本さん。特徴的な屋根の円窓を、様々な角度から念入りに活写します。(大きなフィルムだからワンカットにつきシャッターを切るのは一度だけ。)
巻末には『藤田嗣治 作品をひらく』をはじめ藤田にまつわる数多くの本を書かれている林洋子さんのエッセイも掲載されています。(以下、林さんの文より引用させていただきます。)
この旧館建築は、日本風の屋根とも評されるようだが、わたしにはかなり西欧風に思える。藤田は《秋田の行事》がそこで公開される前提に、いくつか提案したという。上方からの自然光を積極的に取り入れた礼拝堂のような空間にするという示唆は、まさに彼がランスで構想していた礼拝堂に向けたリサーチの反映と確信する。
藤田がこだわったという天井から注ぎ込む自然光が、そこにいる人、集う人々、作品をどのように見せるか、一度確認しにいらしてくださいね。
●BOOK2について
渡邉良重さんが、秋田のお祭りと日常をテーマに、28点の絵を描いてくださいました。取り上げたのは以下です。
秋田の小町芍薬、大日堂舞楽、刈和野の大綱引き、横手のかまくら、犬っこ祭り、きりたんぽ鍋・日本酒、六郷のカマクラ行事(竹うち)、小滝のチョウクライロ舞、ムラサキツメクサ、土崎神明社祭の曳山行事、秋田駒ヶ岳とタカネスミレ、ババヘラアイス、秋田竿燈まつり、大曲の花火、あきた伝統野菜、西馬音内の盆踊り、スチューベン、秋田銀線細工、曲げわっぱ弁当箱、スキー、秋田内陸縦貫鉄道、男鹿のナマハゲ、鶴の湯温泉、田沢湖とたつこ姫、秋田市文化創造館、秋田犬…
今年も、秋田竿燈まつりは中止となってしまいました。来年はあの夏の夜の熱気を取り戻せるでしょうか。ババヘラアイスは先日土崎港でいただきました。美味しかったです。
大曲の花火も中止が決まったようです。来年の花火、どんなにきれいでしょうね。
巻末に、それぞれの項の短い解説をつけました。渡邉さんの可憐で清澄な絵とともに、秋田の行事の入門篇としてもおすすめです。気に入りの絵本のように大事にしていただけたら幸いです。
●BOOK3について
BOOK3は、秋田に魅入られた人、秋田に生きた人をめぐる6つのエッセイを掲載しています。
石倉敏明さんの「コンタクト・ゾーンとしての秋田ー『木村伊兵衛の秋田』をめぐって」では、江戸後期の紀行家・菅江真澄にはじまり、明治以降秋田を旅して新たな世界像を見出した民俗学者、美術作家などを丁寧になぞっていきます。
「コンタクト・ゾーン」とは「接触領域」のこと。図絵・絵画の時代から1950年代を契機に写真の時代に突入し、土門拳、濱谷浩、細江英公など名だたる写真家が秋田をこぞって訪れました。木村伊兵衛の傑作写真集『秋田』に見られる特徴を石倉さんは、被写体を肯定する「恐ろしいほどの優しさ」と言います。
木村覚さんは「暗黒舞踏を生んだ秋田と土方巽の目」において、20年ほど土方を研究してきた木村さんにとって秋田は「憧れの聖地」、なぜなら「秋田が土方にとって前衛的な身体表現である舞踏を創作する際の霊感源となる場所」だからと。
土方はここで「舞踏家」を「人間復権業」と言い換えています。彼にとってダンスは単なる踊りではないのです。「ぼくの舞踏は、資本主義社会の『労働の疎外』に対する、ひとつの抗議でもあり得るはずだ」とも口にする彼のなかには、経済合理性に支配されている「生産性社会」に向けたアンチの意思が燃えさかっています。
(中略)
このような舞踏のアイディアを、土方は幼少期の秋田で見たものに力を得て練り上げています。私はそのことをとても興味深いと思っているんです。土方にこうした霊感を授ける秋田とは一体どのような地なのだろうという思いが湧いてきます。
私たちはもう土方の生の舞踏を見ることはできませんが、今の秋田を「不思議な屈折」をもって見つめ表現するヒントを、土方は自らの本にも潜ませたかもしれません。
江上英樹さんは「週刊ビッグコミックスピリッツ」で土田世紀の初期の傑作漫画『俺節』を担当した編集者。江上さんが忘れられないという『俺節』最終話の扉絵も特別に掲載させていただいています。「なんであんな光景がイメージできるのだろう?」と江上さんはおっしゃるけれど、私には土田世紀が通った高校のある秋田市新屋の景色のようだ、と感じました。
『俺節』というタイトル。これは僕が推したものだが、その時、ツッチーは『東京節』というタイトルに拘った。僕は直感的に、「東京」では狭い。「俺」の方が遥かに広い。「東京節」はあり得ない。ーーそう説得したが、今思えば、東京近郊でずっと暮らしている僕などにはわからないレベルで、ツッチーの中には「東京」という存在が厳然とあり、北の地から、それを睨みつけながら、口ずさもうとしたフレーズ(節)があったのかもしれない。
「東京」では狭い。「俺」の方が遥かに広い。「東京節」はあり得ない。
なんてことを作家に断言する編集者、かっこいいですね…。『俺節』もめちゃめちゃかっこいいので、未読の方はぜひ読んでみてください。演歌歌手の主人公が秋田弁です。原画もいつか見てみたいです。
そしてツレヅレハナコさんの「秋田の味」。何度読んでも読んでも、泣いてしまいます。秋田出身の旦那さまとの出会い、お義母さまとの大切な思い出についてご執筆くださいました。
秋田から冷蔵便で届く段ボールの中には、いつも新聞紙で包まれた密閉料理がぎっしり。味のしみた身欠きにしんと姫竹の煮もの、色とりどりの漬ものやしそ巻き、ハタハタの「味どうらく」漬けや三五八漬け、もちもちの山菜おこわ、時には本格的なビーフシチューや、衣までついて揚げるだけのクリームコロッケ、シナモン風味のかぼちゃプリンなど手間のかかる洋食も入っていた。(略)「現地へ行けば、もっといろいろ食べられるのでは」と、図々しく彼の実家におじゃまするまでは、そう長くは掛からなかった。
付き合っていた頃の旦那さまのマンションに毎週届く、お義母さまの手料理の美味しそうなこと!
確かにもともと彼からの猛アタックで付き合うようになったとはいえ、私だってこれほど早く結婚するとは思いもせず……。「作戦勝ちだね」と彼に言うと、「これだ!と思ったからさ」とニヤリと笑った。
ツレヅレさんと秋田で食い倒れるのが私の夢です。
「小町さんこんにちは」の最果タヒさんには、開館前のWEBの短期連載で、小野小町4首の詩の言葉による現代語訳と解説をご執筆いただきました。
見るめなきわが身を浦としらねばや かれなで海人の足たゆくくる
さて、最果さんはどう訳したのでしょうか。
豊かな海は私ではない、
豊かな逢瀬は私にはない、
何もなく、淡水が満ちていく、
海藻などなく枯れ果てた、ただ枯れ果てた、
波音ばかりがする、浦が、私そのものであり、
この人生などなんの希望もみえないと、
ただ心音ばかりがする、体が、私そのものであり、
あなたはそれにきづけない海人のように、
絶え間なくここへやってくる、足が動かなくなる日まで。
この冊子では、4首をより丁寧に読み解きながら、小野小町を先日まで隣にいた女性のようにその人柄を想像し、最果さんは最後に「この千年前の女性が、私はとても好きだと思う」と言います。どういうことでしょうか。
美しい故の高慢さがあるのでは、とか、言われているのを時々見かけ、でも彼女の歌に触れれば触れるほど、そこにはとても普遍的な痛みがあって、そして、他者の価値観や考えに自分を委ねてしまわない、とても物静かな凛とした姿勢があり、美しさというものが彼女の人生の全てなんかではなく、ひとりの人間として、とてもシンプルでいてはっきりとした心で、生きてきたことが想像できる。
ちなみに古今和歌集に収められた小町の以下の歌、最果さんならなんて訳すかな。
いとせめて恋しき時はむばたまの 夜の衣をかへしてぞ着る
(どうしようもないほど恋しいと思うときには、夜の衣を裏返しにして着るのです。)
石川直樹さんは、当時未踏だった南極探検家、現にかほ市出身の白瀬中尉について。この「白瀬矗と南極」では、いつになくメランコリーな石川さん。南極の地点を一歩一歩目指すごとく、文章の終わりをイメージしながら、言葉一つ一つを選んでいく石川さん。命懸けの探検に焦がれた白瀬の深い苦悩を、ぼくなら理解できる、と言っているかのようです。
白瀬の生き様自体は、なんら色あせることなく、一〇〇年後の今も屹立している。残された言葉によって彼の足跡をたどりながら、ぼく自身の南極点を生きているあいだに見出したい。それが白瀬への最大の弔いになると信じて。
石川さん、白瀬についての文章、そして石川さんの旅の写真を、また楽しみにしています。秋田をきっと、撮ってくださいね。
BOOK3の皆様には「秋田市文化創造館に期待すること」のお言葉もいただきました。どうぞ読んでみてください。
この3冊を、1つずつでも、ゆっくり時間をかけてお楽しみいただけたら、これほど嬉しいことはありません。
(担当:熊谷)
発行:秋田市(2021年3月21日)
企画:NPO法人アーツセンターあきた
ご希望の方は、以下のフォームに必要事項をご記入の上、送信ボタンを押してください。
※受付は終了しました
【受付期間:2021年8月22日(日)、配布・送付期間:9月26日(日)まで】
※ご来館された際のお渡しが可能です。また国内に限定して、ゆうメールの着払いでご送付します(236円程度、受付後1-2週間程度お時間を頂戴する場合があります)。
※先着順のため、在庫状況によりご希望に添えない場合がございます。
【お問い合わせ】秋田市文化創造館
電話:018-893-5656(9:00~21:00/ 毎週火曜休館)
メール:info@akitacc.jp