秋田市文化創造館

開館によせて

小野小町の歌を現代語訳+解説

小町さんこんにちは

最果タヒ

小野小町は平安前期9世紀頃の歌人、
六歌仙の一人。
伝承によると生誕地は秋田県湯沢市、
晩年も同地で過ごしました。
恋をたくさんした、
男の人をふりまわした
絶世の美女といわれていますが、
いま彼女の歌をあらためて読むことで
違う顔が見えてきました。
これは詩人の最果タヒさんが、
小野小町の歌を詩の言葉で現代語訳し、
解説を付した、開館までの特別短期連載です。

うたた寝に恋しき人を見てしより 夢てふものは頼みそめてき

あなたがいた、昼のうたた寝、
わたしの瞼は閉じていて、
そのなかであなたに会っていた、
夢と呼ぶもの、だれかが 
夢と呼んでいるもの

わたしの心は、現実のものです 
けれどあなたの瞼に触れる、
あのわたしの指先は
夢のものかもしれません 
けっして重なりきることのない、
わたしとあなたは、現実のもの 
肌が目覚めて わたしは、
夢というものを信じ始めていました

解説:
相手が自分に恋をしているとき、その人は自分の夢に現れる、という考え方や、また、その人に夢で会えたのなら現実でも会えるのではないか、というような、夢に対する期待の仕方は当時多くあったようだけれど、小野小町はそれを単純に自分の価値観に引用するのではなくて、少し距離を置いて見ている人。この歌には「夢てふものは頼みそめてき(夢というものを信じ始めた)」という冷静で、当たり前に自らを価値観の中心に添えられる、凛、としか言えない表現がなされている。

Profile

Tahi Saihate○1986年生まれ。2006年、現代詩手帖賞受賞。2007年、第一詩集『グッドモーニング』(思潮社)刊行、同作で中原中也賞受賞。2014年、詩集『死んでしまう系のぼくらに』刊行、同作で現代詩花椿賞受賞。2016年、詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』刊行、同作は2017年に映画化された(監督:石井裕也)。最新詩集『夜景座生まれ』。また、清川あさみとの共著『千年後の百人一首』では、百人一首を詩のかたちで現代語訳する試みを行った。エッセイ集に『百人一首という感情』ほか。小説に『星か獣になる季節』、絵本に『ここは』(絵・及川賢治)。詩の展覧会「われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。」が福岡、東京を経て、名古屋(〜2/28 パルコギャラリー)、大阪(3/5〜21パルコイベントホール)にて全国巡回中。