秋田市文化創造館

インタビュー

秋田市文化創造館パートナー2021

2021年度、秋田市文化創造館は
7組のパートナーと一緒に活動を行っています。
パートナーとは、書類・プレゼンテーション審査を経た
「秋田のまちをおもしろくする企画」を実践する団体。
主婦、会社員、学生、自営業など
さまざまな立場の人たちが、
スタッフ(前田優子、齊藤夏帆、島崇)と
一緒に企画を磨き上げています。
日々どんな活動を行っているのか紹介します。

03 NPO法人土方巽記念秋田舞踏会

主宰する『アジアトライAKITA千秋芸術祭2021』での舞踏家工藤丈輝さんによるパフォーマンス(写真:菅野証)。

3組目に紹介するパートナーは、「NPO法人土方巽記念秋田舞踏会」。

秋田市は、「舞踏」という身体表現を創造した土方巽(ひじかたたつみ)の出生地。舞踏は、海外では「BUTOH」として定着し、愛好家が多くいます。

2013年に設立されたNPO法人土方巽記念秋田舞踏会は、「舞踏家・土方巽」を生んだ秋田の風土を再評価するための研究や公演などを行う団体です。

代表の米山伸子さん(左)と演出の佐藤みつ子さん(右)。

秋田市文化創造館では、2021年12月に舞踏劇『イザベラ・バードの久保田紀行』の上演を予定。明治の初めに日本を訪れた冒険家イザベラ・バードの、秋田での足跡を舞踏で表現するオリジナルパフォーマンスです。

「近寄り難い」と感じてしまいがちな舞踏の魅力や、土方に影響を与えた秋田の風土について、代表の米山伸子さん、演出の佐藤みつ子さんに聞きました。

舞踏の魅力
不自由さが生む美しさ

米山 私は土方の親戚なのですが、「触れたくないな」と思って、ずっと距離を置いていました。
ところが2011年に、秋田で土方をテーマにした講演会がありまして、なぜかその日は「聞きにいかなければ」と思って会場に行ったんです。

佐藤 慶應義塾大学アート・センターが設立した「土方巽アーカイヴ」の森下隆さんの講演です。私も聞きに行っていました。

「集まってくる人たちと芸術的な会話ができる。こうしたつながりがあると心が豊かになります」と話す米山さん。現在は35名で活動し、交流は海外にまで広がります。

米山 私は絵を描くのですが、ちょうど具象から抽象に移った時期で、絵の師の言葉と土方の言葉がすごくリンクしました。

それで調べてみたくなって、講演を聞いた翌年に研究会、2013年に当会を結成しました。とにかく何かやってみようと、秋田市のALVE(アルヴェ)で舞踏を上演することにしたのです。

佐藤 私は観客として、ALVEに行っていました。

土方と舞踏は、若いときからどこか気になって引っかかっていましたが、秋田で暮らしていても、自分の交友関係で話題に出ることはまずありませんでした。

公演のチラシを偶然に見て、ぜひ観たいと思ったんです。

趣味でバレエを観たり、ジャズダンスを楽しんだこともありましたが、「何か違うな」と感じていたという佐藤さん。

パフォーマンスを実際に観て、もっと舞踏に関わりたいと思うようになりました。

「何のために生きているのか」とか、「これからどうしたらいいか」とか、茫漠とした何かどの人の心にも潜在している琴線に触れたのだと思います。

米山 土方は、不自由な状況に着目して、その美しさを表現した人物です。
バレエではできるだけ上に伸びようとしますが、舞踏では、手が上がらない状態で止めたり、手を縛って踊る方もいます。

佐藤 地に地に、向かっていくんですね。

米山 土方は、「五体が満足でありながら、しかも、不具者でありたい、いっそのこと自分は不具者に生まれついていたほうがよかったのだという願いをもつようになりますと、ようやく舞踏の第一歩が始まります」(『病める舞姫』,白水社)と著していますが、そこが、私が絵と共鳴すると感じたところです。

佐藤 たとえば、侘び寂びね。

米山 そうね。安土桃山時代に、千利休は歪んだりゴツゴツしたり、何でもない素朴なものに美を見出したわけですが、それを土方は自分の肉体で表現しようとしました。

美というものが、いわゆるきれいな色、きれいな形をしたものにだけではなく、見過ごすようなもの、土塊の中にもあるという美意識ですね。

主宰する『アジアトライAKITA千秋芸術祭2021』での舞踏家工藤丈輝さんによるパフォーマンス(写真:菅野証)。

『疱瘡譚(ほうそうたん)』というパフォーマンスでは、ハンセン病を患い、ボロボロの着物を纏って、立つことができない人を表現しました。

乞食みたいなおじいさんがヨタヨタと動いている。それが美しいと思えるかどうか。

表情も「変な顔」ばかりするのですが、それに見慣れて、おもしろいと思ってしまうと、「普通のきれいな顔」のパフォーマンスを観てもおもしろくないと思ってしまうのよ。

佐藤 演じる側と、観る側とに、同じ美意識があってはじめて成立するものですよね。

舞台にキラキラと美しいものを求める人もいれば、そうではないところを求める人もいますね。舞踏の動きは、誰の中にもある、本当は出したくない心根に触れるのではないかと思います。

米山 普通は目を背けるようなものに焦点を当てて、感動的な舞台をつくってしまう。精神性も深くて、それが世界中で舞踏が愛好されている要因だと思います。

土方を生んだ秋田の風土

米山 土方を生んだ土地でありながら、秋田には舞踏家がいないのです。

だから私たちで伝えていかなくてはならない。

当会では、土方が著した『病める舞姫』の読み解きに力を入れてきました。
土方の少年期と秋田市の情景が個性的な表現で綴られた自伝的著作です。

佐藤 現代詩の羅列のような、難解な文章ですが、読み解いていくと不自由な人への優しい眼差しを感じます。

たとえば、一生懸命農作業をしている、その「かたち」は何かと考えると、土方が表した動きに自然となるのだなということがわかってきました。

米山 舞踏家を秋田に招き、『病める舞姫』を題材にした公演も重ねてきました。

2014-15年には、男鹿市の廃校になった小学校や真山神社など、劇場ではない場所で、2016年には秋田市の秋田公立美術大学アトリエももさだと、さきがけホールで。舞踏家とのワークショップも行いました。

アトリエももさだ公演のチラシ。

佐藤 アトリエももさだでの、舞踏家の和栗由紀夫さんによるパフォーマンスには、みなさん感激していましたね。

米山 ボロボロの衣装を着て、病み衰えた舞姫が死んでいくわけです。

死んでいくのだけれど、亡くなった後に何か蘇りが見えるのね。

それにみんな涙した。

その感動は、きれいな楽しい踊りだけでは絶対に伝わらない。のたうちまわる舞姫の踊りを観た後で、何か崇高なすごく尊いような蘇りを感じる。

そういう感動を味わった人は舞踏から離れられなくなります。

“東北歌舞伎計画秋田公演”

佐藤 アトリエももさだ公演の翌日に、写真集『土方巽原作「病める舞姫」東北歌舞伎計画秋田公演』の撮影を行いました。タイトルに、意味があるのですよね。

『土方巽原作「病める舞姫」東北歌舞伎計画秋田公演』(カイロン出版、写真:谷口雅彦)書影。

米山 土方は晩年、『東北歌舞伎計画』という公演で東北を周りましたが、秋田にだけ来なかったのね。

東京での公演中に亡くなってしまって、きっと最後に秋田に来るつもりだったのだろうと、幻の秋田公演を、写真集の副題に掲げました。

名だたる舞踏家たちが秋田に揃ったので、「これが『東北歌舞伎計画秋田公演』だ」と土方に捧げるために秋田の地で踊ってもらい、写真家の谷口雅彦さんに撮影をお願いしました。

佐藤 土方が生まれた秋田市の保戸野八丁や、出身校の秋田工業周辺、港のある土崎などで撮影しましたね。

土方を被写体にした細江英公さんの写真集『鎌鼬(かまいたち)』が世界的に評価されたので、舞台になった羽後町が土方の聖地になっているのですが、この写真集では、秋田市にこだわりました。

(写真:谷口雅彦)

米山 土方は秋田市で生まれ、秋田市で育ち、20歳で東京に行くまで秋田市で過ごした。20歳というと、ほとんど人間ができあがっていますよね。

それだけ秋田市と関わった土方が、ここで何を得たのかを調べたいというのが私たちの研究です。

佐藤 秋田市は港町なので、上方や異国の文化が入りやすい土地でした。

米山 石油や生糸の産業も盛んで、地主が当時全国で2番目に多く、彼らは非常に高度な芸術や文化を嗜んでいた。

佐藤 庶民にもその余波が広がっていたのだと想像できます。

(写真:谷口雅彦)

米山 土方の家は蕎麦屋で、2階に秋田高校で学ぶ生徒が下宿していました。当時の秋田は県外からも学生が集まる教育都市でもあったんですね。

土方は彼らからも影響を受けてたくさん本を読んだ。花街や映画館、芝居小屋も近くにあり、外国人墓地や教会もあって、異文化にも触れていた。

土方に「文化都市」であった秋田の要素が入り込んでいたからこそ舞踏は生まれたのだと思います。

佐藤 2017年には、秋田市に、世界各地の舞踏家、舞踊家、民俗芸能の伝承者など総勢約100名が集う『アジアトライAKITA千秋芸術祭』を初開催しました。

米山 舞踏家にとって、土方は神様的な存在です。舞踏も民族舞踊も、一種のシャーマニズム、大地や自然に対する畏敬の念が込められているので共通するものがあると言われます。

インドネシアで15年前に始まった国際ダンスフェスティバル『Asia Tri Jogja』を、土方の生地で開催したいと思ってくれて、声がかかった。第1回目が成功して、以来秋田市と共催しています。

今年も9月に、無観客で開催しました。コロナ禍のため緊張と不自由を強いられましたが、ライブ配信を通じて秋田から世界へ感動の輪が広がったイベントだったと思います。

『アジアトライAKITA千秋芸術祭2021』でのヒグマ春夫さんによる映像アート(写真:菅野証)。感染症対策のための透明な幕をインスタレーションとして使ったり、来県できない舞踏家の映像とリアルな出演者が共演する演出に挑戦しました。「ソーシャルディスタンスをアートするという考えです。公演を中止することは簡単ですが、こういうアクシデントがないと思い切った試みもできないのでね」と米山さん。

パートナー事業として
秋田市文化創造館での公演

前田(スタッフ) パートナー事業としては、12月に『イザベラ・バードの久保田紀行』を文化創造館で上演しますね。

舞踏はまだまだ遠い世界に感じている市民の方も多いと思いますが、パートナーとして活動することで、土方や舞踏に出会ったことがない人と接点をつくるお手伝いができればと思っています。

米山 本作の構想のきっかけは、バードが旅した羽州街道をテーマにしたイベント(羽州街道歴史まつり、主催:秋田市)で上演の話がもちあがったことですが、舞踏は日本ではマニアックで、まして秋田では、土方も舞踏も知っているけれども、親しみやすく考えられていない。なんとか舞踏に触れてもらいたいという思いで構成を考えました。

『アジアトライAKITA千秋芸術祭2021』で『イザベラ・バードの久保田紀行』を上演した様子(写真:菅野証)。

佐藤 3幕構成で、第3幕には土方の直弟子である舞踏家の小林嵯峨さんが登場します。第1・2幕は、過去のワークショップの経験を元に、私たちで舞台づくりに挑戦しました。

米山 指導者不在でパフォーマンスをつくるわけですが、これがおもしろいのです。

佐藤 バードが著した『日本奥地紀行』(平凡社、金坂清則訳注)から、秋田に入って秋田を出るまでを読み込み、脚気(かっけ)に悩まされる農村部や、庭園や生垣が整備された文化的な久保田(現在の秋田市)の風景とともに、バードと通訳の伊藤鶴吉の葛藤を描きます。

米山 これまで舞踏を上演してきた秋田市の旧金子家住宅や赤れんが郷土館は、場の雰囲気を活かした舞台づくりができましたが、文化創造館のようなシンプルな空間での公演は挑戦です。照明やインスタレーションを駆使して舞台をつくり上げたいと思います。

旧県立美術館の閉館が決まった際、建物の保存運動に参加した米山さん。だからこそ文化創造館への思いは強いといいます。旧県立美術館の喫茶室に勤めていた佐藤さんにとっても、この場所はホームグラウンド。「ここで舞踏を上演したい」とずっと思っていたのだそう。

土方も、踊りだけではなく舞台をつくり上げる名人でした。

背景美術からポスターや案内状まで手掛けて、総合芸術と呼ばれた。土方が起用した若手がみんな有名になっていきました。横尾忠則、中西夏之、唐十郎、寺山修司……

佐藤 影響を与えたり与えられたりして自分のものをつくっていった独特な時代ですよね。

米山 戦後、日本のものは全部否定されて、みんな夢中になって欧米のものまねをしていました。

その中で土方が、新しい芸術ということで非常に特殊な、日本的なものを打ち出してきた。

みんな驚愕して、特にフランスで喝采を浴びて広がっていきました。そこに新しいものに敏感な人たちが集まってきた。三島由紀夫も石原慎太郎もそうですね。いわゆる梁山泊になっていた。

佐藤 当会で土方の交友関係図をつくってみたら、多種多様なジャンルの人が関わっていることが可視化されました。舞踏は何にでも通じるので、世界を広げてくれますね。

米山 文化創造館での公演の際は、そういった資料も展示しますので、ぜひ見ていただければと思います。

佐藤 今回の公演が、舞踏を観たことがない方や知らない方の入り口になってほしいです。

舞踏劇『イザベラ・バードの久保田紀行』は、2021年12月4日(土)、文化創造館の2FのスタジオA1で上演します。観覧は有料です。詳しくは、NPO法人土方巽記念秋田舞踏会(090-9033-8022:米山/hijikata-akita@live.jp)までお問い合わせください。

(取材:佐藤春菜 撮影:秋田市文化創造館)

information

秋田市文化創造館パートナー2021
03 NPO法人土方巽記念秋田舞踏会

活動内容

●舞踏劇『イザベラ・バードの久保田紀行』1幕・2幕・3幕公演
日時 2021年12月4日(土)13:30〜14:50(開場13:00〜)
会場 秋田市文化創造館 スタジオA1
入場料 一般1500円、小〜大学生 700円(要事前予約/当日精算)※未就学児 無料
●特別上映 「アジアトライAKITA千秋芸術祭2021 DVD上映会」
日時 2021年12月4日(日)15:00〜17:00 ※舞踏公演終演10分後〜
会場 秋田市文化創造館 スタジオA1
入場料 無料
●写真展 写真家 菅野 証の視点「アジアトライAKITA千秋芸術祭2021」
/舞踏の原風景「病める舞姫」散歩
日時 2021年11月28日(日)〜12月6日(月)10:00〜20:00 ※最終日〜17:00
会場 秋田市文化創造館 スタジオA3
入場料 無料
web https://akitacc.jp/event-project/211204
申込・問合せ NPO法人土方巽記念秋田舞踏会
電話 090-9033-8022(米山)
メール hijikata-akita@live.jp