秋田市文化創造館

レポート

「“みんなで”“バラして”“つくりかえる”ワークショップ」
開催レポート

日時|2026年1月31日(土)、2月1日(日)
会場|秋田市文化創造館

秋田市文化創造館は、市民の「やってみたい」という気持ちを形にする活動拠点として、2021年の開館から5年目を迎えます。開館当初から空間を支えてきた家具や什器を、次の5年に向けてアップデートしていくため、一度「素材」に戻して作りかえていく「“みんなで”“バラして”“つくりかえる”ワークショップ」を2日間にわたり開催しました。

監修には、「モノ・コト・ヒトのおもしろたのしい関係」を引き出す拠点づくりを手掛けるクリエイターユニット・岩沢兄弟の兄、岩沢仁(ひとし)さんと弟の卓(たかし)さん、施工マネージャーの土田誠(つちだまこと) さんを迎え、アドバイザーには文化創造館初代館長であり美術家の藤浩志(ふじひろし) さんにご参加いただきました。
さらに制作のサポーターとして、市内でアーティストとして活動する中村邦生(なかむらくにお)さんにもご参加いただきました。

左から、岩沢卓さん、岩沢仁さん、土田誠さん

【1日目|解体&分類】

ツッコミ待ちの"ボケた"什器と、実作業としての"ツッコミやすさ"

1日目のミッションは、文化創造館の什器・家具を"解体して素材に戻す"ことです。

文化創造館の什器・家具の一部は、藤浩志さんの「ボケとツッコミ」という思想のもと整備されています。完璧なものを作ると他者が介入する余地がなくなるとのことで、あえて未完成な"ボケた"状態にしておき、利用者が「自分ならこうできる」と手を加えるなど"ツッコミ(接点と介入)"が生まれるという考え方です。

藤さんによる什器・家具の解説のなかで、かつて瀬戸内海の豊島で、島にある廃材だけで空間づくりを行なった経験をもとに、"遠くのものより近くにあるもの"でつくる、自身の廃材活用の哲学も語られました。

什器へのツッコミの具体的な事例として、藤さんが市場でもらったトロ箱でチラシ台を作った際、使いにくいと感じたスタッフがゴム紐を付け足して改良したエピソードを挙げ、こうした「どんどん更新される工夫」を、想像力の連鎖として肯定的に捉えていると語りました。

鮭のトロ箱を活用したチラシラック
創造館の什器について利用者からのコメント

文化創造館の什器・家具の「ボケとツッコミ」という思想は、構造そのものにも反映されています。
その多くは、木材をビス(ネジ)のみで固定されていて、電動工具(インパクトドライバー)ひとつで簡単に解体したり組み替えられるようになっていることなど、物理的にもツッコミを入れやすい構造が追求されていました。

文化創造館初代館長であり美術家の藤浩志さん

文化創造館の開館5年目の節目に、既存の什器を解体し、利用者の方と一緒につくりかえていくワークショップ自体が、大規模な"ツッコミ(介入)"の試みとして位置づけられています。

藤浩志さんから参加者へ、解体する什器に残るビスの穴やゴムの跡といった"活用の痕跡"も楽しみながら作業してみてほしいとエールが送られました。


岩沢兄弟|活動紹介

そこら辺に転がっているものや廃材を活用し、プロジェクトにつなげる

岩沢卓さんからの活動紹介では、完璧な設計図を引く前に、まずは転がっている素材に触れてみて、組み合わせてみることで「設計のハードルを下げる」発想や日常の風景に"いたずら心"を仕掛けるような活動について語られました。また、今回の「解体から始めるワークショップ」を着想した背景として、祖母が営んでいた編み物教室で、編んだものを一度解いて「毛糸玉(材料)に戻す機械」で遊んでいたことが挙げられました。

弟:岩沢卓(いわさわたかし) さん

離島での活動: 東京都神津島でのアートプロジェクト。空き家の活用と島中のビール箱や台風用の窓板を集めた交流拠点づくりの様子。

産業廃棄物の転用: 染色工場のインクバケツを椅子やテーブルにしたり、スピーカーにしてDJライブを開催。

いたずら心と機能: スーパーの袋にLEDを仕込んでランタンにするなど、日常の風景に不思議な風景を作る手法。

「まずはこれでいいんだよね」と思えるカタチ


兄の岩沢仁さんからは、什器や家具は建物(動かないもの)に対し、"動かせる、変えられるもの"であり、利用者が自分の使いやすいように使い方を探して動かせることが、施設への愛着やコミュニケーションに繋がるとして、実際の作品を見ながら解説をしていただきました。

兄:岩沢仁(いわさわひとし)さん

ジョイント(接点)のデザイン:
ゼロから全てを作るのではなく、既製品と廃材を繋ぐ"ジョイント"の部分に注目。例えば、IKEAのライトスタンドに子どもの古いおもちゃを組み合わせるなど、最小限の加工で新しい機能を持たせている。

寄生する家具:
既存の空間や道具に新しい機能を"寄生"させる考え方。何もないところに新しく作るのではなく、すでにあるものに寄り添い、工夫を付け加えるアプローチ。

秋田でのリサーチとチャーミングな工夫の発見

また、ワークショップ前日に秋田市内の工場を見学して見つけた、職人たちの"名もなき工夫"への感動も語られました。

秋田プライウッド株式会社: フォークリフトの爪を入れるために合板の切れ端で作られた「転がし(台)」の、実用的でありながらチャーミングな姿に注目。

吉田ビニール株式会社: 塩ビ加工の際に出る端材を使い、職人たちが自分たち専用の「書類立て」や「道具入れ」を自作している様子について「素晴らしい工夫」として紹介。


「解体&分類」|"レシピを逆走して素材に戻す

ワークショップの企画にあたり、岩沢兄弟から提案があったのは通常のものづくりとは逆に、"既存の什器をバラバラにして素材に戻す"ことでした。「バラすことは、料理のレシピを逆走して材料に戻すような作業」として参加者にイメージを共有します。

完成された什器の状態では手が出しにくくても、材料として目の前に木材が並ぶことで「これで何を作ろうかな」という意欲を湧かせ、制作や設計の心理的ハードルが下がるとのこと。

解体&分類の実践では、4〜5つのチームに分かれて作業を行います。
まずは什器をよく観察するためにポンチ絵(スケッチ)を描き、各部位の寸法を測りました。

観察して計測した後、インパクトドライバーを手に解体作業を開始。 什器は次々と素材へと戻っていきます。

– あらかじめ3Dスキャンした什器と解体後の姿を一緒に合成したAR写真 –

作業を終えて、初めて電動工具に触れた方からは「解体から始めることで工具の扱い方に集中でき、作業が終わる頃には慣れてきた」との声がありました。文化創造館の什器・家具が思いのほか簡単な方法で組まれていたことや使い勝手のよい寸法で制作されていたことに改めて気付きを得る1日目となりました。


【2日目|設計】

2日目は、文化創造館が抱える"困りごと"を解決するための家具やアイデアの設計を行います。
岩沢兄弟からはこれまでの内装空間の施工事例をもとに"動かす・入れ替える"要素を持つ什器や"既存のものを活用した空間"の事例が紹介されました。
その他にも、街にあるものを活用して三角コーンをテーブルにしてみたり、オフィスによくあるホワイトボードを活用してバーカウンターにするなど、"見立て"のアイデアや空間に対する"仕掛け"を入れる活動についてもご紹介いただきました。

設計のお題|文化創造館の5つの困りごと

設計に向けて、創造館のスタッフからは実際に館内で直面している課題が共有されました。

アイデアワーク|使用する人を思い浮かべて、描いてみる

参加者と一緒に館内を見て周り、「誰が使う家具なのか」を想像しながら、困りごとを解決するアイデアをワークシートに記入していきます。

発表|困りごとに対するユニークな設計アイデア

参加者から13個の設計アイデアが提案されました。その中の一部をご紹介します。

1. 心理的仕掛けと遊び心を取り入れた案

ゴミ箱に「顔」をつける
清掃用具の場所を分かりやすくするため、ゴミ箱に磁石で動かせる「顔」のパーツをつけ、その日の感情(怒り、悲しみ、笑顔など)を表現できるようにするアイデア。
岩沢兄弟|ゴミ箱を透明にして溜まっていくとお腹がいっぱいになった表情になったり、行動を促すユニークな仕掛けとして発展できそうと感じました。特定のゴミ箱でリアクションがあるなどコミュニケーションが生まれそうで面白いですね。

ゴミ箱に「顔」をつけるアイデア


投げたくなる「高いゴミ箱」
ゴミを投げ入れたくなる「高い位置にあるゴミ箱」のアイデア。
岩沢兄弟|「投げたくなる」ような高い位置への設置といった、ついゴミを拾って入れたくなったり、回転させるといった「遊びたくなる・触りたくなる」行動の仕掛けが良いと感じました。

投げたくなる「高いゴミ箱」


2. 空間の境界線を「動的」に解決する案

テーブルを跨ぐ「動くトンネル」
テーブルの譲り合いのアイデアとして、魚のトロ箱(木箱)にキャスターをつけ、テーブルを跨ぐように設置するアイデア。
岩沢兄弟|利用者が自分のスペース(幅)を自由に決められるという可動性と内側に荷物を置くこともできる機能的なパーティションである点が面白いと思いました。

テーブルを跨ぐ「動くトンネル」

「相席歓迎」の意思表示
自分の苗字(嶋)から着想を得た山型の仕切りに、「相席歓迎」の札を立てるアイデア。
岩沢兄弟|海外のカフェで「話しかけてほしい」という意思表示にカードを使う事例と同様に、ハード(家具)によってソフト(コミュニケーション)のハードルを下げる試みや会話の起点となる素敵なアイデアだと思いました。

「相席歓迎」の意思表示


3. 素材の特性や視点を活かした案

紙袋を「吊るす」収納
ソウゾウカンラボの素材棚を使いやすくする案として、紙袋をあえてフックに吊るして見せるアイデア。
岩沢兄弟|素材棚を「お店」のようにおしゃれな雰囲気にすることで、利用者が家にある袋を持ってきて補充・引き換えしやすくなるなど、素材が循環する仕組みに繋がるユニークな点だと感じました。

紙袋を「吊るす」収納


子ども目線のチラシラック
背の低い子供でも手が届くよう、チラシラックの最下段に子ども向けのものを置くアイデア。
岩沢兄弟|単なる収納に留まらず、「コミュニケーションの起点」として子どもだけの接点を作るアイデアが面白いと感じました。大人にバレないようにシール交換などができる「秘密のポスト」などあっても良いですね。

子ども目線のチラシラック

今回の「”みんなで””バラして””つくりかえる”ワークショップ」では、70代の木工経験のある方から小学4年生まで参加し、工具の使い方を教え合ったり、互いにスケッチやアイデア出しで意見交換が行われるなど、多世代の方がグループワークを通して、自然と関わり合う光景が生まれていました。

設計アイデアでは、岩沢兄弟の作品や事例紹介を受けて、見立てや仕掛けが盛り込まれたアイデアがいくつも提案されました。多様な利用や幅広い年齢層の方が来館する文化創造館ならではの空間・什器・家具を改めて考える機会となり、ワークショップにご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

什器・家具のアップデートは、今回のワークショップで完了ではなく、利用者のみなさんと一緒に「解体から始めること」、「みんなで手を動かすこと」、「ツッコミを入れてつくりかえていくこと」で、文化創造館の使いやすさや楽しさを育んでいくプロセスとして、今後も続いていきます。什器・家具を通して、文化創造館が「単に利用する場所」以上の存在となり、愛着を持ち続けてもらえる場所になることを願っています。



「ソウゾウカンラボ」拡大月間にて、設計アイデアをカタチにする「文化創造館の家具を試作する日」/「みんなで、バラす、ワークショップ」を開催

⚫︎「ソウゾウカンラボ」拡大月間
日時|2026年3月7日(土)〜4月6日(月) 10:00〜18:00 ※火曜休館
会場|秋田市文化創造館 2階スタジオA2
【入場無料】
▶︎詳細はこちら


ワークショップ講師(一緒に考えるひと)
|岩沢兄弟(有限会社バッタネイション)、土田誠
協力
秋田プライウッド株式会社
吉田ビニール株式会社
株式会社藤スタジオ 藤浩志(美術家 / 秋田市文化創造館 初代館長)
中村邦生(アーティスト)
協賛
|明治安田生命保険相互会社 秋田支社

撮影
星野慧
編集
|勝谷俊樹(NPO法人アーツセンターあきた コーディネーター)

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