秋田市文化創造館

連載

「かえるくんのどうする!?ラジオ」第5回 
-藤浩志×東海林諭宣-

収録日:2022年3月20日(日)
主催:秋田市文化創造館

秋田市文化創造館館長の藤浩志(かえるくん)が、キニナル人とトークを繰り広げるラジオ的プログラム「かえるくんのどうする!?ラジオ」。これからの文化創造館どうする!?をゲストと一緒に考えます。第5回目のゲストは、株式会社See Visionsの東海林諭宣さん。 最近では、株式会社スパイラル・エーを設立し、文化創造館1Fの「センシューテラス」を運営する事業パートナーです。

-藤浩志×東海林諭宣

 文化創造館の藤と申します。東海林さんとこうやって話をするのははじめてですね。仕事の打ち合わせはありますけれど。まずは自己紹介をお願いします。

東海林 東海林と申します。今44歳になっていて、高校を卒業してから東京の大学に進学して……

 大学では何を学んでいたの?

東海林 経済です。

 それはいいですね。経済をちゃんと勉強している。

東海林 経済を学びながら、叔父が経営しているプロモーションビデオをつくる会社で、アルバイトでグラフィックをやったりして、ちょっとデザインかじっていた。
その後、全国に約360店舗展開している際コーポレーションという会社で店舗、看板、内装、サインなどのデザインを3年ほどやりました。それからフリーランスになって、秋田にお仕事をもらいに来たら、某総合結婚式場の社長から戻るつもりないのかと言われて……

 もともと秋田出身なんだよね。

東海林 美郷町出身です。それで、総合結婚式場のデザインの仕事をいただけるようになって、東京と秋田の二拠点生活を2004年〜2005年くらいにして、2006年にSee Visionsをひとりで始めました。

 始めた頃はどうでしたか。

東海林 秋田は老舗と言われた会社がたくさんあったイメージでしたね。若いフリーランスとか若手の企業があまりなかったのと、デザインでお金をもらうということが浸透していない時代だったと思います。

藤 バブルが終わって、リノベーションが始まりつつあったのかな?

東海林 まだリノベーションという言葉に市民権はなかったのですが、際コーポレーションが、住宅を店舗にしたり、医療関係の建物を旅館にしたりと、おもしろいことをしていた会社で……

藤 リノベーションの視点はそこで学んだんですね。秋田は素材の宝庫じゃないですか。ゾワゾワしますよね。

東海林 空き家の方がゾワゾワするんですよね。

 See Visionsではどのくらいの現場を抱えているんですか。

東海林 動いているプロジェクトは100とか。ほとんどが自社事業ではないですから、単発で終わるものから1年かけるものもありますし、私の場合は自社事業で長期のものがあったりしますけれども。

 どんなものが。

東海林 たとえばグラフィックはどちらかというと短い期間。

 ポスター、チラシとか。

東海林 中型だとウェブデザインが3ヶ月〜半年。プロモーションムービーやCMなど映像もつくりますし、内装のデザインとか、ファサードと呼ばれるお店の入り口のデザイン、『JUU』という注文住宅の雑誌、あとは各店舗の運営と、ヤマキウ南倉庫ですね。

ヤマキウ南倉庫外観
ヤマキウ南倉庫内観

お店がまちをおもしろくする

 デザイン会社でお店の運営をするのは少ないんじゃないですか。

東海林 なかなかないですね。手を出しちゃいけないところだと思うので。

 でもやっちゃう。

東海林 私は「お店がまちをつくっている」と思っていて、飲食店とか、雑貨屋さんとか、お店が1Fの部分を入ることによって、まちがどんどん形成されていく。コンテンツがたくさんあるお店の方がリピーターとしても来やすいし、お客さんの流れもできる。私たちがそこの部分をやらなければならないのかなと思ってやっています。

 そこなんだよね。まちをおもしろくしようとしているけれど、まちの中にあるお店がおもしろくないと、そこで売られているものがおもしろくないと、まちはそんなにおもしろくならない。
美術館も、作品がおもしろくないと、おもしろくないし、作品よりも作家がおもしろくないと、おもしろくない。 美術館の商品開発をするようなところが美大かもしれない。デザイナーもそうだけれど、商品を新しくつくれる人を育てないと、まちそのものがおもしろくなくなってくるよね。

東海林 「自分が住んでいる場所をおもしろくしたい」という思いもあって、2013年に「酒場カメバル」から運営をスタートするのですが、そもそもで言うと、自分でお店やろうと思っていなくてですね、お店をつくりたいというクライアントが何人かいて、その方々を、亀の町の、暗い、狸小路と言われる長屋が連なっている場所に連れて行って、「ここでお店を始めたらおもしろいですよ」と紹介していたんですよ。でもそこで始める人がいなくて、じゃあ自分でやってみようかということで始めました。

 東海林さんにはキラキラ見えていたけれど、連れて行った人にとっては暗いところだな、中心部でもないし、繁華街の川反の方が良いんじゃないかと思ったかもしれないし、イメージが違ったんだろうね。

東海林 暗いところにカメバルができたときはニュースになったんだと思うんです。今まで来ないような若い人たちが集まって連日にぎやかな状態が2年くらい続いて、亀の町というエリアがおもしろいかもしれないと思われるようになった。これが「使われなくなった、見放された地域」での、はじめての活動です。

 そこが今日の一番のポイントになるよね。エリアリノベーションというかね、亀の町はあまり注目されていなかったエリアなんですよね。

東海林 秋田市では、中心市街地活性化区域で空き店舗を活用すると、補助が出るのですが、亀の町のところだけ、ぽこっと外されていて、住宅街の入り口ですし、商業としては発達しないだろうと思われていたところに私たちが始めた。

 なぜそこに興味をもっていったのでしょう。

東海林 あまのじゃくかもしれないですが、外されていたのもおもしろさかなと思ったし、観光目的でお店をつくるのではなく、そこに住んでいる方に、毎日のように、日常的に来ていただけるような場所をつくりたいなと思っていたので、古い住宅街の中に染み込むような形で入れるバルをつくる場所としては良いのかなと思ったんですよね。

 東京や大阪の都市部でひとつのお店をつくったからといって、まちがそんなに変わることってないと思うんですよね。しかもまちの中で浮き上がることってないと思う。秋田という状況の中でできたことによって人が集まり注目度が高まっていく。それが次の連鎖を生み出していく。

東海林 お店も連続的にオープンしました。

 それは意図したの?

東海林 意図しました。自分たちのお店は3店舗までと決めていたんですよ。クライアントさんのものをデザインするのが本業ですし。
だけど、古くて使われなくなった、みなさんから見放されてしまったような建物を活用することって楽しいよねということを知っていただきたいので、それがいずれは仕事につながっていけばいいなと思って、スペインバル「酒場カメバル」の半径50mのところに、「カメバール」というイタリアンバールと、「亀の町ストア」というカフェをつくった。
そうすると、私たちが関わらなくても、周辺でお店をつくりたいという方々も増えて来て、当時日経新聞で取り上げていただいたので言うと、2013年の土地の取引件数というのが4件だったらしいのですが、2016年には16件になって、空き店舗がないエリアになった。 中心市街地という家賃が高いエリアに対して、スタートアップしやすい場所になっているのかなと思います。

縁側をつくる

 文化創造館の1Fにセンシューテラスとして入っていただいていますが、こうなったらもっとおもしろくなるのにと感じていることはありますか。

東海林 文化創造館に入らせていただくためのプレゼンテーションでも話しましたが、文化施設は市民にとって敷居が高いイメージがある。そんななかで、コーヒー1杯買うことによって、いても良い空間をつくれるのは、商業の役割だと思っています。
共有地をつくるというか、縁側をつくるようなイメージだと思っていて、日常的にいても良い場所がたくさん増えていくと町に人も出ていくし、自分の居場所が家だけではなくて、まちの中にたくさんあったらいいなと。 イメージは、行きつけの居酒屋さんのような、そこに行くと知り合いがいるような環境がセンシューテラスにもできれば、文化施設とはいえ、入るハードルが低くなるのかなと。

センシューテラス外観
センシューテラスメニューの一部

 外のテラスにくつろげるスペースができていけば良いなと思うし、ミルハスがオープンしたら外の空間は心地の良い空間になりますよね。駅前から文化創造館に繋がるお店に何か仕掛ける予定はないのですか。

東海林 今はないですね。

 なんでないのだろうね。もっとなきゃいけないと思っていて。駅前から文化創造館までどうつないでいけるかというのが重要で、間、間に、おもしろさの滲み出る唯一しかないというところがあっていいよねという感じがあるんだよね。

東海林 グランドデザインと言われる、1Fの部分に良いコンテンツのお店がたくさんあるとまちは歩きやすくなりますね。私はまずは亀の町をがんばって、みなさんに来ていただけるような場所にしていければなと思っていますが。

 センシューテラスは?ここを中心としてもっと広がりができたら……

東海林 ミルハスもできれば、そこにも商業は入りますし、その連携だったり、お堀の前の商業の方々との連携だったりとか、公共空間との使い方だったりを、みんなで考えていくのはおもしろそうだと思います。

デザインどうする!?

 東海林さんに相談したいのは、文化創造館が必要なのは、実はデザインだと思っているんですよ。文化創造館は、デザインしていない状態にしているんです。ロゴもそうだし、ネーミングもそうだし、チラシもそうだし、デザインというものを考え直そうよと。
たとえば、ロゴのあり方にしても、ひとつの形をつくるのがロゴじゃないよねと思っているし、ブランディングにしても、どう信頼をつくっていくかの態度の問題だと思っていて、それをどうデザインに落とすかという手法は、すごく難しくて深いと思うんですよね。
それを色々試みることができる。文化創造館は、実験ができて、チャレンジができるところであってほしいし、まちに接点をつくるとすれば、起業して町を変えて行こうとする人たちが実験できるような現場じゃなきゃいけないなと思っているので。

……これをどうやったら共有できるかなというのが大きな課題のような気がするんですよ。今ほとんど共有できていない気がしていて。
私はデザイン思考をもっていないから、デザインに憧れるし、デザインってもっと違うあり方があるって思っちゃうんですよね。どうすればいいですかね?東海林さんだったらどうする?

東海林 すごく難しいですが、今お話を聞いてしっくりきたのですが、デザインをしない考え方、それ自体もデザインなのかなと思っていて、いろいろな考え方があると思うんですよ。文化創造館を「旧県美」という方はまだたくさんいますし、いろいろな思い出のある建物なので、ある意味一方向を向くようなデザインをつくらないというのもデザインかもしれない。人それぞれの思いが、見た目というか、色となるようなものをそれぞれもつような取り組みも、ひとつあるのかもしれないなと思いますね。

 関わりができる、ある種オルタナティブな空間でもあり、何にでもできるような存在をどうつくっていくか。でもそれって私は良いのだけれど、「あそこは何なのかわからん」って現場はつつかれるんですよね。
だからある種、明確に見せつつ、いろいろな読みかえができるデザインみたいなことがおそらく必要なんだろうなという気はするんですよね。

東海林 私たちのやり方だと、コンセプトをつくるために目的とターゲットをはっきり決めないとデザインまで落とし込めないので、その部分に注力するのですが、文化創造館はいろいろな使い方がある場所だと思うので、そういったものを視覚的に見せていくというのをしっかりつくっていかないとならない。そうなるとまた考え方も違うのかなと思いますね。

 目的とターゲットというと、通常は、今現在のどこかの誰かを想定するじゃないですか。それが、私の中では、変なアーティスト気質があるんだと思うんだよね。未来の、3年後に登場する、見えないある人をターゲットにして、その人が使う目的は3年後くらいに新しいことに利用される場所でありたいの。ターゲットは明確に見えない人だと思っちゃったりするんだよね。だから良くないんだよね。

東海林 いや、それでいいんじゃないかと思いますけどね。

 そういうデザインを共有したいんですよ。これをどうつくるのかということを共有できる人と話をしたい。形にはしていくんだろうけどね。変化しつつあるもの、不安定な状態なもの、決まらないものをどうコントロールしていくのかというデザイン。

東海林 「余白」みたいなもの、「空き」とか「使われていない」、「使い方も自由だ」みたいなものが、藤さんも私も楽しいじゃないですか、考え方として。

 余白を私たちだけが楽しんでいるんじゃなくて……

東海林 共有するかどうか。

 どうしても仕上げようとすると仕上げちゃうからね。 

東海林 いる人たち、使う人たちが、とにかく楽しそうに、どう表現していくのかが重要なのかもしれませんね。

 それを名称とかロゴとかでどう表す……

東海林 いろいろなタイプがあっていいんじゃないかなと思いますね。 

 研究会も含めて、考え続ける態度を見せ続けるというのも重要かな。

東海林 私もそう思いました。みんなでずっと考えていくことが重要。

 利用者が違うイメージをもってきてポンと見せちゃうのもおもしろいよね。
鹿児島のある建物で、利用者さんが建てた看板が目立って、さも入居者の看板のように見えてしまうということがあって。建物その物自体はもしかしたらどうでも良くて、建物に入る何か機能が、そのまま見え方として見えていくみたいなね。
もっと話を飛ばすと、建物自体が広告になっていく。液晶でできている建物は、色も変わるし、場合によっては形も変化していくような建物になるとすれば、建築そのものが器じゃなくてその時々のメディアになっていく。そういう場所にもなるのかな。

東海林 建物は、ノスタルジーというか、風景・景色として残っているものがあるので、建物自体が広告になるというのはあると思います。

 そうだよね、文化創造館は、この形態が残っていること自体がひとつの広告で良いのかもしれない。だからやっぱりいいんだよ、屋根と丸の絵で。これですという記号で。

東海林 ただ、文化創造館を何と呼べばいいのかなというのはありますね。あだ名というか呼び名がもう少しあればいいなと思います。

 それもデザインかな。

東海林 だと思いますね。

 ……最後に、ひと言お願いします。

東海林 ここは文化創造館なのでセンシューテラスの話をできればと思いますが、何度か試みてもいるのですが、文化創造館のイベントや展示とコラボレーションしたオリジナルメニューをつくっていければと思っています。ドーナツとかディップとか。文化創造館に来る目的をどんどんつくっていきたい。

 その延長で何かできていくかもね。円窓のプロジェクトがあったみたいに。商品企画のコラボとか、キッチンを使って何かやるとか。

東海林 そうするとみなさんに文化創造館を使ってもらうイメージができてくると思いますので。縁側をつくるという、我々の役割を全うしていきたいと思っています。

(text 佐藤春菜 photo 三輪卓護)

「かえるくんのどうする!?ラジオ」第5回 -藤浩志×東海林諭宣

収録日2022年3月20日(日)
会場秋田市文化創造館 1F コミュニティスペース
登壇者ゲスト|東海林諭宣(株式会社See Visions)
パーソナリティ|藤 浩志(秋田市文化創造館 館長)
Profile

東海林 諭宣 -Akihiro Shoji-
株式会社See Visions

1977年秋田県美郷町出身。2006年に株式会社See Visionsを設立。店舗、グラフィック、ウェブのデザインや、編集・出版・企画などを手がける。近年では株式会社スパイラル・エーを設立し、飲食店「酒場カメバル」、「亀の町ストア」、「センシューテラス」等を運営。自社が入居するヤマキウビルリノベーション事業や2019年6月「ヤマキウ南倉庫」など、エリアの価値を上げる活動を手がける。

Profile

藤 浩志 -Hiroshi Fuji-
秋田市文化創造館 館長

1960年鹿児島生まれ。京都市立芸術大学在学中演劇に没頭した後、公共空間での表現を模索。同大学院修了後パプアニューギニア国立芸術学校に勤務し原初表現と人類学に出会う。バブル崩壊期の土地再開発業者・都市計画事務所勤務を経て土地と都市を学ぶ。「地域資源・適性技術・協力関係」を活用し地域社会に介入するプロジェクト型の美術表現を実践。取り壊される家の柱で作られた「101匹のヤセ犬」、給料一ヶ月分のお米から始まる「お米のカエル物語」、家庭廃材を蓄積する「Vinyl Plastics Connection」、不要のおもちゃを活用した「Kaekko」「イザ!カエルキャラバン!」「Jurassic Plastic」、架空のキーパーソンを作る「藤島八十郎」、部室を作る「部室ビルダー」等。十和田市現代美術館館長を経て秋田公立美術大学教授、NPO法人プラスアーツ副理事長、NPO法人アーツセンターあきた 理事長、秋田市文化創造館 館長 
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