秋田市文化創造館

PARK – いきるとつくるのにわ

展示・滞在制作「山を手に取るは 山のホームセンターのはじまり」開催レポート


秋田市文化創造館展示期間:1月20日〜28日
秋田市民市場展示期間:1月20日〜21日
市場行商イベント:1月21日11:30〜13:30

秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK – いきるとつくるのにわ」。「観察する」「出会う」「育む」「残す」の4つのプログラムを通して、秋田の文化的土壌をたがやしていくことを試みます。

「観察する(クリエイターによるリサーチと表現)」参加クリエイターの〈身体0ベース運用法(安藤隆一郎)〉は夏、秋と秋田県内を周り秋田の民具や民芸を中心にリサーチを重ねてきました。そのなかで、豆を打ったり、芋をついたりすることに使用していた木の岐に注目し、制作を進めています。秋田市文化創造館と秋田市民市場で実施した「山を手に取るは 山のホームセンターのはじまり」では、秋田でのリサーチ内容や木の岐に焦点を当てた展示、行商イベントを実施しました。

▶︎展示・滞在制作「山を手に取るは山のホームセンターのはじまり」について


木の岐とは、豆を打ったり(殻から豆を取り出す)、芋や米をつく道具として、使われていた二岐、三岐に別れた木の枝のことを言います。かつて、山に入った際に道具になりそうな枝を見つけ、枝の形から想像し、さまざまな生活道具に使いました。

採取した木の岐

秋田市文化創造館での展示

1/20〜28の間、秋田市文化創造館では、油谷満夫の生活文化財コレクション所有の木の岐を〈身体0ベース運用法〉の視点で分類したものや、現代に木の岐を使ったらどんな使い方ができるかなどの、木の岐の空想イラストが展示されました。また、秋田の山々で採取した様々な木の岐も展示され、木の岐の形から、どんな道具に使えるか想像を膨らませることができる空間となりました。

木の岐の分類イラスト
展示風景

秋田市民市場での展示

1/20(金)〜21(土)の二日間、秋田市民市場のなんでも広場で展示を実施しました。市場では、夏、秋にリサーチで知ったことや、驚いたことをイラストにし展示しました。21日には、行商人に扮した〈身体0ベース運用法〉が文化創造館から市場までの道のりを手製の木のソリを押し、木の岐を運ぶパフォーマンスを実施しました。市場に到着後は木の岐の行商人としてお店を開き、木の岐の制作をしながら、市場を訪れた人たちに木の岐の紹介や、いままでのリサーチした内容をお話ししました。

手製の木ソリ

訪れた人の中には、木の岐でチリトリやランプシェードを作ってもいいのではとアイディアを出すかたや、かつて実際に農家さんが木の岐を使って豆を打っていたことを知っているかたもおり、木の岐を通して過去を思い返したり、道具を想像したりなどさまざまな会話が生まれました。展示してあった木の岐を見て、自分も何か作りたいという少年もあらわれ、木の岐をプレゼントしました。

市場のなんでも広場で行商を行う〈身体0ベース運用法〉
木の岐をプレゼント

木の岐をプレゼントした少年は後日、パチンコを作って文化創造館まで見せにきてくれました!

パチンコを作って持ってきてくれた少年(スタッフ撮影)

作家の制作お手伝い、イベント運営をお手伝いいただいたインターンの小野愛実さん(国際教養大学1年生)は、今回のイベントを振り返り、以下のようにコメントをしてくれました。

イベント準備の過程に関わらせていただく中で、安藤さんのつくる作品に身近に触れ、想像力に沢山の刺激をいただくことができました。また、「山を手に取るは 山のホームセンターのはじまり」では、幅広い年齢層やバックグラウンドを持つ方たちが木の岐を実際に手にして、昔の生活について想いを馳せていたり、木の岐がどんなものに活用できるかなど想像したりして楽しそうにお話されていたのが印象的でした。木の岐には様々な人たちのこれまでの、そしてこれからのストーリーが詰まっているんだなと感じることができました。

今回は木の岐を通して来場者の記憶遡ったり、想像ふくらませるようなイベントとなりました。今後も〈身体0ベース運用法〉の活動は引き続きつづきます。来年度はさらに木の岐の調査、制作を進めていきますので、〈身体0ベース運用法(安藤隆一郎)〉の活動の展開にご注目ください。


身体0ベース運用法(安藤隆一郎)からのコメント

私は木の岐のことを考えるとよく重ねて思い出すものがあります。それはデザインリサーチャー井上耕一さんが名付けた「あの坐り方」と言うものです。「あの坐り方」は西洋的な高い椅子を必要とせず、両足の裏を地面につけたまま腰を下ろし、両膝を立ててしゃがむ姿勢で、いわゆる私たちに馴染みの深い「うんこ坐り」や「ヤンキー坐り」と呼ばれるあの坐り方です。床座文化の日本でも古くから日常的に使われてきたものですが、正座や胡座などと違って正式な呼び名がありません。他の国でもくつろぐ、食事をする、料理をする、ものづくりをする、舟をこぐ、勉強をするなど、生活の様々なシーンで当たり前のように使われているにも関わらず、同じように坐り方の名前がありません。

生活の中で極めて重要な役割があるにも関わらず、当たり前すぎて呼び名がない「あの坐り方」と「木の岐」に私は共通のものを感じます。「あの坐り方」は現代の生活用様式では活躍の場がなくなってしまったものの、椅子座とは違って手足が近づくことで両方を組み合わせたり、また身体の重心を使うことができるなど、人間本来の身体技法が詰まっています。そして、「木の岐」も同じく物で溢れた現代には必要とされなくないものですが、自然の形に用途を見出し身体や目的に合った道具を自ら作ると言う点で、かつて人が当たり前に行っていた物の捉え方や創造力が詰まっています。そして、何よりも両者ともにその人の扱い次第で如何様にも自由に使えるということです。

今、「木の岐」について知っている人や目を向けている人は少ないでしょう。私も秋田に来るまで他では見聞きする機会もなく知りませんでした。半年のリサーチを終え、締めくくりとして実施した「山を手に取るは山のホームセンターのはじまり」では展示だけでなく、行商を行いました。かつての行商人のように物だけでなく、私が見聞きしてきた話をも届けることで、人々に「木の岐」の文化を共有し、思い出しまた知ってもらう機会としました。そして、その中でこの「木の岐」を私なりにどのように展開していくかを探っていきました。

行商の地、秋田市民市場ではもう前日の準備している段階から市場のおじさんたちが集まってきて「んだ、んだ。」と昔子供の頃パチンコを作った話などで盛り上がったり、当日には子供の頃使っているのを見た「木の岐」が家にまだあるかもしれないという人やなんだか自分も作ってみたくなって「これは売っているのですか?」とお母さんと声をかけてくれました少年。「木の岐」を知っている人も知らない人も何か惹かれて近寄ってくれました。今回は行商と言いながらも販売はしていなかったので、少年には気に入った「木の岐」(未加工)をプレゼントしました。その後どんなものを作ってくれたのか楽しみにしいます。 「木の岐」とは不思議なもので、どこにでもあるような2又、3又の枝を人が選んで切り取ってきて並べると不思議な物質の力を帯びます。そしてそこからさらに目的のある道具になり、使われ人の手垢がつくと更に鉱石のような輝きを纏います。その輝きが人(私)を惹きつけるのですが、やはり本当に魅力的はというと田口さんの言うような「感動」は自分で選び、採取し、道具に作り変えて使っていくことにあると思います。次年度に引き続く「木の岐」のリサーチと活動はこの採取からはじまる「木の岐」づくりをみなさんにすすめ、実際に行ってもらうための方法づくりを行い、「木の岐のある暮らし」を提案していきたいと思っています。どんな形になるかはこれからですが、きっと楽しいものにしたいと思いますので、今後の活動も楽しみにしていただけたらと思います。

〈身体0ベース運用法(安藤隆一郎)〉


Profile

身体0ベース運用法(安藤隆一郎)

2016 年より染色作家 安藤隆一郎が始動した「ものづくりの視点」から考える身体論。「身体」と「もの」との関わりから生まれる感覚、運動、機能を「0」から見直し、人間が本来持っている「身体」の運用法を見出す。その「身体」とは医学やスポーツといった専門的なものではなく、私たちの身の回りにある「身体」のこと。身体0ベース運用法はアートが持つ多様なツールを使ってそれを翻訳し、伝えることで、「身体」の消えゆく未来へ向けてその可能性を問い直す。これまでに体験型インスタレーションの制作、発表やワークショップなどをおこなう。2021 年より、京都府亀岡市を拠点に不要民具を救出し、活用するプロジェクト「民具BANK」を立ち上げ、地域に伝わってきた「身体」を見出すことを試みる。安藤は1984 年京都生まれ、大阪在住。2009 年京都市立芸術大学大学院工芸科染織専攻修了。現在、同大学染織専攻講師。(撮影:松見拓也 提供:京都市立芸術大学)

写真| 坂口聖英 Photo : Masahide Sakaguchi
テキスト|山本美里(PARK – いきるとつくるのにわ プログラム・コーディネーター)
協力|油谷満夫の生活文化財コレクション

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