秋田市文化創造館

レポート

「SPACE LABO 2021」椎木彩子さん滞在レポート

2022.3.5

クリエイティブな視点でまちなかを活用するプランを考える公募「SPACE LABO 2021」。1月下旬から、二次審査を通過したクリエイター5名が秋田市中心市街地に滞在し、リサーチやワークショップなどの活動を行いました。今回は椎木彩子さんの滞在をレポートします。

クリエイターの皆さんは、この滞在での経験をふまえて「まちなか活動プラン」を作成。3月21日(月・祝)に開催の公開プレゼンを経て選ばれた1〜2名が、春以降にプランを実施します。

椎木彩子さんは、イラストレーターとして本の挿画などを手がける傍ら、生活の中の素朴な言葉を集めて作品を作るプロジェクトを展開しています。
今回の滞在が秋田初訪問となる椎木さんのリサーチは、秋田の歴史・文化を博物館や図書館で探るのではなく、暮らす人々の中に息づく思いを、詩や手紙として書いてもらったり、対話の中ですくいとってゆくという日々でした。まだまだ厳しい寒さの続く時期ということで、文化創造館館内やカフェ、アートスペースなどに「愛の詩」のカードとポストを設置してもらい、滞在前から言葉集めをしました。

2月21日(月)

前夜からの猛吹雪の影響で遅れている新幹線の中から送られてきたメール。
雪模様の隙間から言葉が透けて見えるカードの写真が、椎木さんより一足先に到着しました。
簡単な打ち合わせと、滞在中の拠点となるコミュニティスペースの設営をしてこの日は早めに終了。

2月22日(火)

2日目は、一日かけてゆっくり文化創造館の近隣のまちを歩きました。

(訪問先)
・秋田市民俗芸能伝承館「ねぶりながし館」・旧金子家住宅
・高砂堂 
・葡蘭馳 
・みきょう 
・秋田市民市場
・赤居文庫

喫茶店巡りが好きという椎木さん。ランチに立ち寄ったのは中通の老舗喫茶店「葡蘭馳」。
日替わりランチをいただいたあと、店員さんがお皿を下げながら「ここのあんみつはおすすめですよ。手作りの寒天は歯触りが絶妙です」と話しかけてくれました。…それは、いただかないわけにはいかないでしょう!
おいしくいただきながらオーナーさんに「秋田の中で好きな場所はどこですか?」と椎木さんが話しかけると「うーん、海岸の風景かなあ…」と。でも、日々のほとんどの時間を過ごしておられるこのお店が、本当は一番好きな場所なのでは? と水を向けてみると、生き生きとしたお話がどんどん伺えました。
お店の45年の歴史、お料理へのこだわり(ハンバーグのソースやマヨネーズまですべてが手作り)、一緒にお店を始めた今は亡きご主人のお話、などなど…
「まわりの風景はどんどん変わっていくけれど、この店は変わらない」とおっしゃるその声の力強さが印象に残りました。

2月23日(水)

3日目は、秋田市のまちなかに生まれ育ったコーディネーター・島の案内で、ココラボラトリーの後藤さんにお話を聞きに行きました。

ココラボラトリーの後藤さんと。

印象的だったのは、後藤さんの「旅人はハコである」というお話。普段の人間関係では話せないようなことも旅人には打ち明けることができる。そして旅人はさまざまなモノを他の土地に運ぶ媒介でもある、と。
椎木さんが秋田を訪れる前からお話しされていた「旅人としての視点」ということについて、あらためて考える機会にもなったのではないかと思います。

(訪問先)
・杉本珈琲店
・山下金物店
・交点
・ココラボラトリー
・パンプルムウス

夜は、川反のアートスペース&スナック喫茶「ルーム巣」へ。
ママの虻川彩花さんは、「SPACE LABO 2019」のグランプリを受賞したアーティストです。
まるで虻川さんの作品そのもののような「ルーム巣」で、夜遅くまで会話が続いていました。

2月24日(木)

4日目と5日目は文化創造館を拠点に、言葉を集めるワークショップを行いましたが、「秋田の個性的な方々とゆっくりじっくり対話を重ねる中で感じたのは、皆さんの秋田愛の深さ。ここまでに出会った人たちにもう一度会いに行って話して来たい」と、時間を見つけては出かけていました。

夕方からは、前日に秋田入りした滞在クリエイター・臼井仁美さんと合同交流会を開催。
「ワークショップをやっていて常々感じているのは、参加してくれるお客さんの感受性の強さ、言葉の鋭さ。
自分の力だけで作品を作り上げていくのではなく、出会った人や誰かの書いた言葉や文章と対話をするように絵を描いていきたい」と椎木さん。
Twitterで椎木さんの名前を偶然見つけて会いに来た、という、学生時代のお友達との思いがけない再会も。秋田で活動する歌人の富樫由美子さんも駆けつけてくださり、賑やかに時が過ぎて行きました。

学生時代の友人との思いがけない再会!
子どもたちが書いてくれた「愛の詩」

2月25日(金)

この日は、土方巽記念秋田舞踏会の米山さん、高橋さん、加賀谷さん、
そして「秋田市民話の会」の皆さんが文化創造館を訪ねてくださいました。
椎木さんは普段の活動の中で舞踏や演劇のパフォーマーとの交流が多いということで「舞踏の源流」についての話で盛り上がっていました。

「秋田市民話の会」の皆さんには、「昔話との出会い」をお一人ずつ伺ったり、実際に昔話を聞かせていただきました。

「幼い頃に聞いた昔っこは不思議と忘れない」と、民話の会の傳さん。

語っていただいた昔っこ(昔話)は「ねずみのもちつき」と「猿いっぱ雉いっぱ」。
どちらの話も、大筋は絵本やテレビで聞いたことのあるストーリーなのですが、秋田ならではの生活の風景が織り込まれ変化しています。

「秋田弁、聞き取れましたか? 意味わかりましたか?」と笑う皆さんに、椎木さんは
「ときどき聞き取れる単語から予測変換しながら聞いていました。意味が全部分かったかと言うと難しいけど、外国語を聞くように、響きそのものを楽しんでいました。意味や説明から離れて、お話の持つ雰囲気や感覚が伝わってくるところが面白いです」と答えていました。
「秋田の方言は、短い言葉の中に思いがぎっしり詰まっている言葉だと思う。人に接する時の柔らかさや優しさが抑揚にも込められている。大事に語っていきたいです」と民話の会の伊藤さん。

もう一つ印象的だったのは、「昔っこ」の約束(ルール)のお話。
昔っこを語る時は、
自分の育った土地の言葉で語ること。
昔の人たちが着ていたものを身につけること。
そしてホックとケックを必ず言うこと…発句と結句、つまり昔話の最初と最後に決まり文句をつけること。
昔々、あるところに… っていいますよね。それが発句。
秋田の昔っこは「むがーし、むがーし」と始まります。
そして結句は、「めでたし、めでたし」というのがよく聞かれますが、秋田県内で地域によって異なるそう。
たとえば秋田市は「とっぴんぱらりのぷ」。海沿いの南の町では「ぺんこぺんこ」、県南の中山間部では「どんとはれ」「どっとはらえ」などと言うそうです。
発句と結句は、フィクションの世界と現実の結界に接する呪文のような言葉なのだそうです。

さらに、寸暇を惜しんでまち歩きも… 濃密な日々が過ぎていきます。
(訪問先)
・千秋マート
・ココラボラトリー
・のら珈琲

2月26日(土)

滞在最終日。
前日の夜から、集まった愛の詩のカードを貼り付けた大きな模造紙に描き始めていた絵が完成。


秋田市の地図をなぞったシルエットがけものの横顔のように描かれ、その胴に愛の詩が纏われている、そんな絵です。
午後からはワークショップ「拝啓、秋田市〜秋田市へおくるラブレター」を開催しました。
秋田市の身近な人・もの・ことにあてたお手紙をもちより、色紙やクレヨン、色鉛筆などをつかってメッセージカードを仕立てます。私たちスタッフも参加者に混じって体験してみました。

ワークショップの様子


携帯電話やSNSでのコミュニケーションが生活の中に溶け込んでいる今、
「手書きの便り」ましてや「ラブレター」って、まどろっこしさもあるし、気恥ずかしいし。
でもそんな先入観にとらわれないで自由に思いを巡らせ、書いてみる。描いてみる。そうすると、気持ちの奥にかくれていたものが現れてきたり、いつもとすこし時間のスピードが違って感じたり。とても新鮮な体験でした。


「まちなか活動プラン」発表は3月21日(月・祝)の公開プレゼンで!
クリエイターのみなさんはオンライン参加になりますが、プレゼンの様子は文化創造館でご覧いただけます(要申込)。
日時|2022年3月21日(月・祝)14:00〜16:30
会場|秋田市文化創造館 2階スタジオB
定員|25名
申込方法|電話(018-893-5656)または下記フォーム
https://forms.gle/NUT3yrhszs7VsbxZ8

【新型コロナウィルスの感染予防・拡大防止対策のお願い】
イベント参加の際には、次の事項についてご協力をお願いいたします。
・手指の消毒にご協力ください
・マスクの着用をお願いいたします
・咳エチケットにご協力ください
・発熱、咳込みなどの症状がある方は参加をお控えください。

お問い合わせ

秋田市文化創造館(担当:岩根・石山・藤本)
TEL::018-893-5656 
E-Mail:program@akitacc.jp
〒010-0875 秋田県秋田市千秋明徳町3-16
開館時間:9:00〜21:00
休館日:火曜日(休日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日