秋田市文化創造館

PARK – いきるとつくるのにわ

トーク・ワークショップ
「ほったらかしを活かす技術〜放置された柿の活用法から学ぶ〜

開催レポート

日時|2023年10月8日(日)14:00〜16:00

秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK-いきるとつくるのにわ」。

「出会う(新しい知識や技術と出会うトーク&ワークショップ)」の第7回として、秋田県内にある放置された柿を使い、ドライフルーツやお好み焼きのソースなどの製品活用に取り組む柿木崇誌さんが登壇。

ほったらかしにされたモノの価値とそれを活かすことの魅力について、廃材や使用されなくなったおもちゃで作品制作や空き家などの利活用を行う美術家であり、秋田市文化創造館館長(2024年3月31日まで)の藤浩志さんと共に語っていただきました。


柿木崇誌さん 事例紹介
“増え続ける空き家”と“伐採される柿の木”

柿木:皆さんこんにちは。“どうも、噂のカッキーです”。改めまして、柿木崇誌と申します。
広島出身で4年半ほど前に秋田県の能代市へ移住してきました。昨年の秋に民家の庭や畑に放置されている柿をリブランディングする「畑がない農家」という事業を始めています。

柿木 崇誌さん

昨年度は、主にドライフルーツに加工して販売をしていました。現在はクラフトビールやクラフトジン、リキュール・ワインといったお酒や、その他にもロールケーキ、柿カレーなど、様々なものへ加工し、「放置柿」を身近で親しみやすいものになるように努めています。

秋田県はご存じのとおり人口減少、少子高齢化が全国トップクラスどころか世界でも類を見ないスピードでどんどん加速しています。
それで空き家と共に「放置されている柿の木」が増加しており、柿の収穫量は右肩下がりとなっています。

皆さん、空き家は対処されるのですが、柿の木はそのままにしておけないということで、伐採して移住されます。その結果、ここ数年で収穫量が非常に激減している。

10年、20年、何十年と柿の実が成るにも関わらず、伐採してしまうのが非常にもったいないなということで、私がちょっと待った、と。

当日発表で用いたスライドより

“放置柿”の収穫・加工・体験観光、それらをひっくるめて生業にする

柿木:僕がちょっと待ったと立ち上がり、このような事業を始めたのですが、まさに大赤字でした。私一人で事業運営をしており、全然手が回らないんです。

昨年は“手売りしかしない”と決めていたので、売りに行くためにも時間がかかり、その間収穫はできず加工もできないので、事業が立ち行かない状態でした。昨年いろいろと浮き彫りになった課題を今年はどうにかして打破しようと、新たな取り組みをいくつか展開しています。

まず一つ目が“畑の柿”についてです。「無料で収穫します」という所は特に変わらないのですが、皆さんには「収穫したものを買い取りします」と大きい声でお伝えしております。

さらに“放置柿を収穫できる方”を掘り起こせないかとチャレンジしております。


その取り組みとして、今年の2月頃にクラウドファンディングを実施し、柿のビールを造りました。ビールについて、初めは皆さまに返礼品としてお渡ししていましたが、大変評判が良かったので「収穫した放置柿をクラフトビールと交換します」とお伝えしています。

柿木:次の取り組みは“放置柿の収穫体験”です。
僕が住んでいる秋田県能代市の二ツ井町はクマが結構出ます。そのため町役場の広報では、「クマが出てくるので放任樹(いわゆる柿とか栗実がなる木)を放置しないでくださいね」とお伝えしていました。そんな中、柿の木の所有者さまから町役場へ「どうしたらいいですか」と相談がありました。

町役場の担当の方には、“柿をどうにかしたい方”と“柿が欲しい方”として、所有者さまと僕をマッチングして頂き、さらに町の観光協会が収穫自体を“体験観光”にしたいということになり、皆さんで手を結び「じゃあこれは一つコンテンツにしよう」と企画が立ち上がりました。

“柿をどうにかしたい方”の問題解決、事業として柿の収穫効率がアップすること、観光協会さまの観光コンテンツの強化や実績づくりに繋がったとのことで、今年からは“放置柿の収穫体験”をメインにやっていくことを考えています。

事業のコンセプトとして、「エネルギーと食材の地産地消」を掲げています。
食材はもちろん、その土地のもの。エネルギーに関しても、その地で浴びる太陽光をソーラーパネルで集めて、変換した電力でお好み焼きを調理しています。結構、無茶なことをしているため、生産性が低過ぎて儲かりません。

会場:(一同笑い)

柿木:ケータリングやワークショップも実施しているので、ぜひ僕を呼んでください。
“秋田風お好み焼き”という名目で、広島のお好み焼きを秋田の食材で再現していますので、ぜひお誘いください。


藤浩志さん 事例紹介
“ほったらかさない”、しくみづくり

藤:僕自身は、両親が奄美大島生まれによる鹿児島生まれ育ちで、自宅は福岡県の糸島にあります。秋田には9年くらい前に来ていますが、その前は青森県十和田市にいました。
僕自身がやっていることは、美術活動のようなことのなかで、まさに“ほったらかしにできない”タイプのものがあります。放置されているものに何かしらの仕組みをつくり、新しい活動が発生するという活動をやってきました。

藤 浩志さん

いろいろなプロジェクトを実施したなかで、この20年間続いている「かえっこ」というプロジェクトがあります。これは、“要らなくなったおもちゃを集めて、子どもたちが好きなおもちゃに交換していく”仕組みです。

会場には銀行員みたいな人がいて、要らなくなったおもちゃを仕入れます。その仕入れたおもちゃに子どもたちが値段を付けます。
良いおもちゃは“3ポイント”、駄目なおもちゃは“1ポイント”、どっちつかずなものは“2ポイント”。1、2、3と数えるようにしていて、それ以外のものは“いっぱい”という数え方をしています。

引き取ったものに子どもたちがシールを貼り、それをおもちゃ屋さんに並べて、“おもちゃ屋さん遊び”をやる仕組みです。

要らなくなったおもちゃ等を利用しながらどのようにその循環をつくっていくのか、子どもたちが楽しい遊びをどうやって手に入れていくのか、という仕組みづくりです。
「かえっこカード」というツールを作り、それにポイントを押して「子ども通貨」として子どもたちは欲しいおもちゃを買い取っていきます。

例えば、柿の皮むきをするとか、柿を収穫するとか、掃除をするとか、いろんなお手伝いやワークショップを行うことでもポイントがもらえます。
このプロジェクトを2000年からやり始めて、全国各地にて仕組みをつくり、それを皆さんに使ってもらう取り組みをしていました。

藤:その他には、豊島という瀬戸内海の島で行った仕事で、つぶれゆく空き家自体に手を入れて、作品化する「藤島八十郎さんをつくる」というプロジェクトがあります。

これは、空き家に対して藤島八十郎さんという実態のない架空の人をつくり、“皆で藤島八十郎さんをつくりましょう”というプロジェクトです。

実在しない人なので、誰もが藤島八十郎さんになれます。だから誰もが空き家に来て「私が藤島八十郎さんを手伝います」というと、主体(藤島八十郎)が存在しないことから、“誰しもが主体になれる”というものです。空き家を活用しながら島の中で、さまざまな照明や棚・畑を作ったり、庭にあった木でタワーを作ってみたりする活動をやってました。

今の柿木さんが行う活動は、現状に対して新しい仕組みづくりをする上で、今までの経済の仕組みや価値の在り方のほかに、手を入れていくこととしても、すごく重要な活動だと思います。
人口が減って、税収が減って公共事業が無くなった時、どうやって解決したらよいか。“みんながそれぞれで、つくれる人になっていければいいよね”という話だと思いました。

極端な話ですが、みんなが道路もつくれるし、畑もつくれる。みんなが家もつくれるし、暮らしをつくれるという、もともとつくってきた生活、そこにみんなで協力し合うような地域社会というのが実現できていくと、ある意味で、皆さんで余裕を持った生活や幸せな生活ができるんじゃないかな、みたいなことも考えられると思います。


対談

司会:柿木さんから藤さんのお話に何か質問やコメントはありますか。

柿木さん
「賛同者や仲間づくりをどのようにおこなったか。

柿木:さまざまな仕組み化をされているなかで、新しいプロジェクトを立ち上げるたびに、恐らく賛同者が現れないと進められないことも多いと思います。
その際に、どのように仲間を集めたり「みんなでやろうぜ」と進めていったのか、ヒントを頂きたいです。初めてやることに対して「大丈夫?」とか、「怖いので自分は何もしたくない」という方が多いと思います。

藤「あえてほったらかしてみる。やりたいことがある人とやる。

あまりヒントにならないかもしれませんが、“自分からやっていない”というのがあり、“誰とやるか”をすごく大切にしています。実は、この文化創造館もそうなんですけども、“何かやりたいことがある人に対して寄り添っていく”、それを“一緒につくっていく”というスタンスを続けています。

「こんなイメージがあるよね、こんなやり方あるよね」と話になるけども、意外と“ほったらかし状態”にします。すると、“やりたい人が現れてくる”。それらを待つ感じです。
昔から自分が一生懸命やっていくよりも、“面白く、楽しく、一緒にやっていく”というのがすごく重要だと思っています。
何かやるときは僕もすごく楽しくやるんですけども、でもそれを人にやらせないというか、やってくれる人が主体的に出てくるのを待つみたいな感じですかね。そうすると一緒に動いていく。

「”巻き込む力”を生み出す、“楽しむ”という視点」

藤:学生時代に演劇をやり始めたときも、隣にいた男の子が“何かをやりたい”というのに対して僕はサポートしていきました。僕のスタンスは、そんなところからやっているので、どうやったらこれが広がるかを意外と考えていなくて。例えば「かえっこ」は、なるべく広がらないでと思ってるぐらいです。

ただ、“求めているものは何だろう”というのは考えますよね。
もしかしたら、柿木さんのこれまでの活動について、農家さんで山を持っている人とか、古い空き家を持っている人からすると切実な問題だと思うので、そこに対してどう寄り添っていくのかという視点じゃないかなと思います。

柿木:ご回答ありがとうございます。

藤:(活動をみていると)やっていて、すごく楽しそうじゃないですか。見せ方もそうだし、加工の仕方も、すごくデザインされているなという気がします。デザインするのが好きなのだろうなと思います。

柿木:楽しいだけです。(笑) 特に人がしてないことが好きなので、そこを自分なりにつくっていくのは好きですね。

藤:それが、巻き込んでいく力になっていくのかなって気もします。柿の木に注目する前って他に注目していたことってありますか?

柿木:全くないですね。自由に遊んでいたっていうだけで。本当、好きなことだけをしていたという。

藤:でも、なんで柿の木に注目していったのでしょうね。

柿木:移住してきた時、放置されている柿を見て、「これ何なの」という視点から「もったいない」となり、「これドライフルーツにしたら活用できるのでは」という話になりました。この話に友人がサポートしてくれて、僕が好きでやる形で活動が進みました。

藤:“誰かと一緒にやる”という価値観はすごく重要な気がします。誰とやるかということで物事の価値が変わるなと思っていて。その考え方で結構楽しくなるし、地域の人たちも“一緒につくる人”がいれば乗ってくれる気がします。

柿木:そうですね。みんな喜んで。

会場からのコメント

参加者:柿が有名な所は、農薬を使って作っていると聞いて、そんなに農薬が必要ないものなのに、おいしくするためにやっている。だけど秋田のほったらかし柿は無農薬で天日干しというか、体にもいいと思うので、それをアピールしてもいいかなとは思いました。

柿木:おっしゃるとおりです。僕が販売しているドライフルーツも、「無添加で甘くなるんですよ」と伝えていますが、法律上「完全に無農薬ですよ」とは謳えないことになっています。口頭で「完全無農薬の自然栽培です」ということと、「農薬使ってないので本当自然に優しいですよ」ということをお伝えしています。お子さまとかのおやつとかで結構人気です。アドバイスありがとうございます。


ワークショップ

対談後、イベント参加の方には 秋田市内で収穫した”放置柿”を使って、「干し柿をつくる」ワークショップに参加していただきました。

干し柿のレシピを見ながら、参加者と加工をしていきます。
・柿の皮を剥く。
・ヘタのまわりを切り、ヘタに紐を結び。
・度数の高いアルコールで拭き、揉んで消毒をする。(WS終了後、煮沸消毒も行っています。)

昨年から続くPARKの「育む」では、市民の方と共に、文化創造館の屋外で野菜を育てたり、育てた野菜を調理・加工する活動を実施してきました。

そんななか、参加メンバーから「放置された柿や栗で干し柿をつくったり、何かしらの料理に活用したらどうか」と提案があり、収穫させていただける放置柿と栗を募ったところ、多方から収穫して欲しいとのご連絡を頂き、今回のイベントにつながっています。

ワークショップ後には、創造館の1階コミュニティスペースに柿を吊るし、2週間後には「干し柿」が完成。イベント参加者や創造館を訪れた来館者によって受け取り・活用されました。

今回のトークでは共通して、“おもしろくやる”、“楽しくやる”という「楽しむ視点」が挙げられていました。「楽しむ視点」は“人を巻き込む力”として、活動を大きくすることや長く続けることにも役立つ視点なのかもしれません。「ほったらかしを活用する」こと通して、“日常をさらに楽しむこと”を考える機会となったのではないでしょうか。

「育む」レシピを見ながら作業開始
柿の皮を剥く
ヘタに紐を結び、当館の吊りバトンに吊るし、アルコールで拭く

創造館の1Fコミュニティスペースに場所を移し、1週間に一度アルコールで揉む

2週間後には干し柿が完成。WS参加者をはじめ、通りがかりの来館者も持ち帰りました

Profile

柿木崇誌(畑がない農家)

1987年広島生まれ。10年ほど日本全国を旅した後、秋田県能代市へ移住。2022年秋から、放置されている柿を収穫し加工販売する「畑がない農家」として活動。放置柿が原因で引き起こす鳥害や獣害といった地域課題の解決とともに、地域資源の有効活用を図る。 現在はメイン商品であるドライフルーツの他にビールやワイン、カレーなど様々な商品を開発中。 また、収穫期以外は「加工できない柿」と「廃棄するいぶりがっこの漬け汁」をベースにしたソースで「お好み焼きカッキー」のキッチンカー事業を展開。「エネルギーと食材の地産地消」をテーマに、ソーラーパネルで集めた太陽光を電力に地元食材を調理する「完全地産地消」を目指す。 趣味であるスノーボードは上級者レベルで、現在もオリンピアや有名YouTuber、インフルエンサーと交友を持っている。

Profile

藤浩志(美術家 / 秋田市文化創造館 前館長)

1960年鹿児島生まれ。京都市立芸術大学在学中演劇に没頭した後、公共空間での表現を模索。同大学院修了後パプアニューギニア国立芸術学校に勤務し原初表現と人類学に出会う。バブル崩壊期の土地再開発業者・都市計画事務所勤務を経て土地と都市を学ぶ。「地域資源・適性技術・協力関係」を活用し地域社会に介入するプロジェクト型の美術表現を実践。取り壊される家の柱で作られた「101匹のヤセ犬」、給料一ヶ月分のお米から始まる「お米のカエル物語」、家庭廃材を蓄積する「Vinyl Plastics Connection」、不要のおもちゃを活用した「Kaekko」「イザ!カエルキャラバン!」「Jurassic Plastic」、架空のキーパーソンを作る「藤島八十郎」、部室を作る「部室ビルダー」等。十和田市現代美術館館長を経て秋田公立美術大学教授、NPO法人プラスアーツ副理事長、NPO法人アーツセンターあきた 理事長、秋田市文化創造館 前館長


テキスト|勝谷俊樹(NPO法人アーツセンターあきた)
撮影|安藤陽夏里