秋田市文化創造館

インタビュー

– チャレンジマーケット出店者を追いかけて –

「ワクワクをカタチに。鋳物屋によるホットサンド提供の挑戦」

有限会社 武藤工芸鋳物 武藤元貴むとうげんきさん(第1回目出店)

2024年2月24日(土)開催|第1回チャレンジマーケット 武藤工芸鋳物さんの出店ブースの様子

秋田市文化創造館では"やってみたいことに気軽にチャレンジする"「チャレンジマーケット」を開催しています。これまで、2024年2月24日(土)、25日(日)に第1回目、2024年9月23日(月・祝)に第2回目を開催し、出店経験がある人、ない人による、様々なチャレンジブースが集まりました。

2024年9月23日(月・休)開催|第2回チャレンジマーケットの様子

「チャレンジマーケット出店者を追いかけて」では、"やってみたいことにチャレンジした"後に、続けていることや、今後の展望について出店者の方にお話を伺います。

第1回目は"鋳物技術を活用したホットサンドの提供と焼き印体験"を実施した、有限会社 武藤工芸鋳物の武藤元貴さんにお話を伺いました。


チャレンジマーケットへの出店理由について

ーーー出店してみようと思った理由をお聞きしたいです。

武藤:もともとは、オーダーメイドで、オリジナルロゴを焼き入れる直火式のホットサンドメーカーをつくるプロジェクトとして、クラウドファンディングを行なっていました。いろいろと反響があり、サービスのブラッシュアップを重ねましたが欲しい人の意見しか拾えない。むしろ欲しくない人の意見も知りたかったんです。そんな中「電気式も作れませんか?」と問い合わせをいただきました。
チャレンジマーケットに出店することで、新商品やサービスに対して生の声が聞けること、小売として飲食の経験も得られるなと思い、今回はホットサンド屋として電気式ホットサンドメーカーを用意し出店しました。

―――ホットサンドメーカーを開発するきっかけはなんですか。

武藤:開発のきっかけは、2020年に参加した株式会社なんで・なんでが主催するプログラム事業「あなたラボ」でした。グループワークの際、当時話題だったサンドイッチの「萌え断※」をヒントに、「自社の鋳物で焼印をして、ホットサンドにオリジナルロゴマークが入れられるといいよね。」とアイデアが出たことでした。
『萌え断』:サンドイッチや巻き寿司などの食べ物を切った際の断面が、カラフルで美しいことを楽しむこと。

2022年にクラウドファンディングにてオーダーメイド・ホットサンドメーカーのプロジェクトが開始、現在はネットにて販売中

ホットサンドメーカーの販売は普通だけど、オーダーを受けて作るサービスはあまりない、あるとしても高すぎる。自社だともう少し安くできるので、開発してみることになりました。

ホットサンドの良さは、具材のバリエーションが豊富にできること。和風ではきんぴらごぼうとか。チーズ、トマト、レタスを入れても美味しく作れるし、あんこやバターなどのデザート風にもできる。幅広くメニューを作れるのがいいですね。

武藤元貴さん|お話しは2024年12月19日に有限会社 武藤工芸鋳物にて伺いました。

普段のお仕事について

武藤:普段は「鋳物※(いもの)」という金属製品を作っています。
※『鋳物』:高温で溶かした金属を砂の型などに流し込み、冷やして固めて作る金属製品
主に、橋やトンネルについている銘板(めいばん)や看板・表札を製造・販売することが多いです。

実際に作っている銘板を見せていただきました。

銘板の文字は凸文字で作るのですが、彫って凹んだ文字よりも風化に強く、100年経っても文字が残ります。あとは社名に「工芸」と付いているように、工芸品の小物や銅像なども制作しています。

ーーー銅像といえば、文化創造館にある東海林太郎像も作られていますね。

武藤:なかなか大変な仕事でした。あの像は自社の製造規模のギリギリの重量だったんです。鋳物は制作するものの重量よりも多い金属を溶かす必要があります。金属を溶かす能力が会社の生産能力に直結するんです。

文化創造館の東海林太郎像は自社で溶かせる金属量の100%以上の銅を使っています。
社長が引き受けて、どうやって作るか知恵を絞って誕生しました。当時、繁忙期と重なり普段の仕事を高速で回しながら制作した思い出が蘇ってきます。

東海林太郎(1898-1972)は秋田市出身の流行歌手。
2021年に創造館の敷地内へ直立不動像が設置されました。

鋳物を活用した新商品開発の想い

武藤:そもそも、"鋳物"という製品の認知度が低いんです。パッと分かる方は60代以上の方が多い。自社では受注生産が多いので、認知されないと依頼が来ません。
認知していただくために新商品の開発にチャレンジしたり、他社が取りこぼしていたり面倒でやらないことをするようにしています。

ーーー他の方が面倒と感じる部分について、武藤さんが思うところはありますか。

武藤:自分はお客さんと話すのが好きなんです。その上で鋳物という手仕事をやっているから、その掛け合わせは強みです。お客さんは作りたいもの、叶えたいことを持ち込んで来るので、鋳物の専門的な細かいやりとりが出てきますが、それが楽しい。

クラウドファンディングを行なうのも、商品づくりを通して世の中と繋がれるから。お客さんを通して鋳物の使い方に新発見があったり、他社はどうしているのかなど情報収集にもなります。いろいろチャレンジしていると、「武藤工芸鋳物ならオーダーに応えてくれそう」と認知が広がっていく実感があります。

鋳物製品のオーダーについて、全国を転々として自社にくることも度々あるんです。技術を残すのはもちろんのこと、チャレンジの仕方やそのマインド部分も継承していきたいです。

オフィスには、小型の銅像やオブジェ、表札などがたくさん並んでいました。

作った鋳物製品で"ホットサンド屋"をやってみる

ーーー普段は建築関連の鋳物製品や工芸品を作られているので、飲食提供の出店と聞いて驚きました。

武藤:マルシェには、その道のプロや経験がある方が出店すると思っていました。だけど「チャレンジマーケットでチャレンジしよう」なら、普段は鋳物屋をしていますが、作った鋳物を使って、ホットサンドを提供するチャレンジができるなと思いました。そうでないと鋳物のホットサンドメーカーを持っていって、見せるだけで終わってしまうので。

第1回チャレンジマーケット 出店ブースの様子

先ほどチャレンジマーケットで使用したホットサンドメーカーを引っ張り出してきたのですが、息子から「ホットサンド屋さん、またやるの!?」と声をかけられましたね(笑)

ーーーお子さんにとっても良い思い出だったのですね。電気式ホットサンドメーカーについてもう少し詳しくおしえてください。

武藤:電気式の場合、焼き物をするプレート(鋳物部分)が取り外せるんです。取り外してみた時に「オリジナルデザインのプレートでカスタマイズができそう」とアイデアが生まれました。サービスの考え方としてはサードパーティー製のスマホカバーですね。

プレート部分には秋田犬の顔や企業名の焼き色がつくように文字やイラストが彫られています。

ーーープレート部分をご自身で作ってみて、メーカーさんにメッセージを送られたとのことですが、どんな反応がありましたか。

武藤:コンタクトをとってみましたが返信はいただけませんでした。 今回、商品化を考えた時に壁となったのは、熱を扱う調理家電なので、発火や故障に伴い原因の所在が曖昧になることです。サードパーティとして関わる際の、リスク管理の難しさを痛感しています。

顧客へ届けたい気持ちと、不具合時の責任部分への対応の難しさが、チャレンジマーケット後にぶち当たった壁ですね。一度慎重になるために、電気式ホットサンドメーカーの商品化のアイデアは寝かせています。

チャレンジマーケットで使用した電気式ホットサンドメーカーは、アイリスオーヤマさんの製品で、1台6,000円ほどで購入できます。シンプルな構造だからメンテナンスがしやすくて惚れ込んでいます。同じ東北の会社なので、一緒にお仕事が出来たら嬉しいなと野望を持ちつつ取り組んでいました。

イベント出店後どんな反応・展開があったか

武藤:「マルシェにも出てみませんか?」と由利本荘市の岩城インター付近で活動されているDOGUさんに声をかけていただきました。普段なら躊躇するところですが、チャレンジマーケットの経験が出店を後押ししてくれました。小売の経験が浅いので、出店時にどんなサービスが必要かなど、イベント終了後にコメントもいただくことができました。このチャレンジを見て、秋田の方やどこかのカフェで「自分のところでも使ってみたい」と思ってもらえたら面白いし嬉しいなと思います。

"挑戦する"時に考えていること

ーーーやってみたいことを形にする"ここぞという時"の感覚についてお話しください。

武藤:ワクワクしてきて「もう、いくぞ!」と思った時に動いています。チャレンジマーケットに応募した時もそうでした。
自分で物を作れるようになると、アイデアをカタチにできます。今の時代、"誰かに具現化"してもらう必要が多いと思います。自分はものづくりのサイクルが、自分のなかで完結しているから、思い立ったらすぐ行動できることが大きい。自分が欲しい、誰かが欲しているから作る、を基準にまずは作ってみます。応募時も「考えたことが世にリリースされたら、どんな面白いことが起きるだろう」とワクワクして、「じゃあ、やってみよう」と気持ちを高めていきました。

ーーーワクワク部分をどう醸成するか重要ですね。武藤さんは常にワクワクしているように見えるのですが、怖気付くことはありますか

武藤:今現在、電気式ホットサンドメーカーの商品化については、リスク管理との向き合い方で大きな壁にぶち当たっているので怖気付いています。商品化前は、自分のポケットマネーでどこまで支出できるか決めながら取り組んでいます。お金や時間を投資したいと思えるか、思えなかったら投資しないようにしています。それが自分のリスク管理です。

ただ、形にしたモックアップやアイデアは行き詰まったら捨てるのではなく、一旦寝かせるようにしています。自分が成長したり、技術が磨かれたり、新たな人と出会えた時に、別の道が開かれると考えていて、その時に再び動き出せるようにしています。

電気式ホットサンドメーカーに取り付けた鋳物プレートの型が保管されています。

今後の挑戦について

ーーー2025年5月に「チャレンジマーケット」第3回目を開催予定です。
もし出店されるなら次の展開を伺いたいです。

武藤:前回は「カレー+チーズ」味でチャレンジしましたが、次はもっと具材にこだわりたいです。料理の部分で一緒に組みたい方がいるので、中身のアイデアをお願いして出店を面白くしたいと思っています。

チャレンジマーケットに興味がある方へ

武藤:文化創造館で実施する「チャレンジマーケット」というだけあって、コミュニケーションをとってお互い擦り合わせながら、商売だけでないチャレンジも出来るし、新しい出会いもあります。チャレンジをする時、上手くいかないかもと不安があるかもしれませんが、文化創造館という場所や空気感が不安を払拭してくれる気がします。

最近は高校生の起業体験や小中学生の販売イベントも増えていますね。個人的には小さいうちから商売の体験をしてもいいのではと思っています。上手くいったことも上手くいかなかったことも文化創造館の雰囲気なら包み込んでくれる。 最初に何かにチャレンジするなら、「文化創造館のチャレンジマーケットはいいぞ!」と言いたいですね。


取材後、普段の仕事場を見せていただきました。数々の表札の型やモックアップなどが並んでいました。
金属を溶かす鋳造場も見せていただきました。

第3回チャレンジマーケットの開催について

開催日程については、2025年5月6日(火・祝)を予定しています。
"やってみたいことに気軽にチャレンジする"「チャレンジマーケット」は、物品の販売はもちろん、パフォーマンス、ワークショップなどもOK。通常のマーケットではできないことも大歓迎です。みなさんのご出店をお待ちしております!

【エントリー締め切り】《3月31日(月)20:00まで》


取材・テキスト|勝谷 俊樹(当館スタッフ)
撮影|白田 佐輔(当館スタッフ)

記事

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