秋田市文化創造館

PARK – いきるとつくるのにわ

「観察する」プロジェクト
身体0ベース運用法 11月滞在レポート

リサーチ期間:2022年11月22日〜11月28日

秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK – いきるとつくるのにわ」。「観察する」「出会う」「育む」「残す」の4つのプログラムを通して、秋田の文化的土壌をたがやしていくことを試みます。

「観察する(クリエイターによるリサーチと表現)」ではつくることを日々実践し、日常の暮らしをユニークな視点で観察しつづけるクリエイター・アーティストが秋田市中心市街地を拠点としたプロジェクトを展開します。11月22日〜11月28日には、参加クリエイターの〈身体0ベース運用法(安藤隆一郎)〉が秋田県内を周り、秋田の民藝や木の岐という民具を中心にリサーチを行いました。今回はその滞在をレポートします。


11/22 大阪→秋田へ到着。仙北市立角館樺細工伝承館→民芸イタヤ工房→角館イタヤ工芸を訪問

早朝秋田空港に到着。そのまま角館へ移動しました。仙北市立角館樺細工伝承館を訪問。午後からはイタヤ細工職人の菅原清澄さんの工房を訪れました。イタヤの木の採取方法をDVDを見ながらご丁寧に解説いただきました。その後、菅原さんの親族も近くに別のイタヤ工房を営んでいるということで、突然でしたが「角館イタヤ工芸」の佐藤定雄さんと本庄あずささんの工房を訪れました。いきなりの来訪にもかかわらず、今回は佐藤定雄さんの奥様と本庄さんにご対応いただき、イタヤ細工やぶどうのつるのカゴ、樹皮細工についてお聞きすることができました。本庄さんは自身でもイタヤの採取に挑戦し始めたそうで、来年あたり一緒に同行できないかお願いしました。

菅原清澄さんの工房の様子
仙北市立角館樺細工伝承館
菅原清澄さん
佐藤定雄さんの奥様と本庄あずささん

11/23(水)「油谷これくしょん訪問→大滝自然公園周辺の林道(秋田市管理)で素材収取」

夏にも訪れた油谷これくしょんの油谷滿夫さんを訪ねました。今回は木の岐(きのまた)を中心に聞き込み。それぞれの木の岐の年代や使い方などを解説いただきました。囲炉裏で使っていた木の岐やいもや米を潰す料理に使っていた木の岐、さまざまな木の岐をご紹介いただいきました。

木の岐を説明する油谷滿夫さん

その後、秋田市管理の森林で素材採取の許可を得て、実際に木の岐作りをするために大滝自然公園周辺の林道にやってきました。二股に分かれた枝やねじれた面白いつるを見つけてたら、木登りもしながらノコギリで切って採取しました。
※秋田市の許可を得て秋田市管理の森林で素材採取を実施しています。

採取した木の岐

11/24(木)「秋田木材流通センター訪問→文化創造館で集めた素材を加工」

秋田木材流通センターへ伺い、丸太素材の入手方法を相談をしました。一部商品にならない杉の木があるということで、そちらを切り出させていただきました。また、木の岐にできそうな枝付きの丸太が手に入らないかどうかも相談し、今後の様子をみて連絡をいただくことに。

商品にならない杉の木を切り出し

秋田で流通している木はほとんどが杉だそうです。彫刻に向いている広葉樹は、水分がぬけた冬の時期(11〜3月まで)しか伐採できないようで、現在は杉に加え広葉樹も伐採するため、林業界は繁忙期だそうです。

杉の木を切り出し

午後からは、文化創造館で素材で集めた素材の加工を行いました。コミュニティスペースに作業場を作り、来館者とお話しながら作業を行いました。

来館者との交流
木の岐の加工

11/25(金)「健康の森→八柳訪問」

午前中、秋田市下浜で健康の森を運営されている佐藤清太郎さんを訪ねました。
佐藤さんの森では子どもたちが遊びにやってきます。大人と違い、子どもたちの森での遊び方は大人の体の使い方とは異なっているそうです。新しい道を作ったり、面白い場所を探すのも得意で、森の中で新しい遊び場が確立されていくのだとか。

今回は素材採取も目的だったので、木の解説をしていただきながら枝を切らせていただきました。たくさん採取させていただきました。

「健康の森」を運営している佐藤清太郎さん
健康の森で素材採取の様子

午後からは角館に移動し、樺細工の製造販売をされている八柳にお伺いしました。樺細工の材料採取の方法から、加工方法まで教えていただきとても実りのある1日となりました。実際の道具を使って、樺の削り方も教えていただきました。

八柳商店で樺削り体験。
樺細工の道具。鍛冶屋さんで特注しているそうです。

11/26(土)「健康の森訪問→秋田市文化創造館で作業→秋田駅前で下見」

前日に引き続き、佐藤清太郎さんが運営している健康の森を訪ねました。この日は前日とは別のルートで森を散策し、自生するミズバショウを見せていただいたり、さまざまな木の素材を採取しました。人が手を入れすぎると自然は育たないこと、自身の失敗例や植林の手法についても教えていただき、ほどよい自然との関係について考えさせられました。また帰り道にお土産に天然なめこが自生する場所を三散策し、突然のなめこ採りに。たくさん自生していたので、創造館のスタッフ分もいただきました。
午後は文化創造館に戻り、なめこの下処理とイベント開催場所の下見に秋田駅前を散策しました。

佐藤さんと枝を切りおとしました。
天然なめこ採り

11/27 国見山林道沿いで制作用の枝を採取

1月のワークショップに向けて使用する木の岐を探しに国見山林道沿いにいきました。岐がたくさん分かれているものや二岐の枝など、気になった木の枝をいくつか採取しました。
※秋田市の許可を得て秋田市管理の森林で素材採取を実施しています。

11/28秋田市文化創造館で尾花賢一さんインタビュー、材料整理、大阪への帰路へ

午前中は、「博覧強記・油谷満夫の木の岐(きのまた)展」を担当した秋田公立美術大学の尾花賢一さんに当時、担当されていた時のことをお聞きしました。午後は採取した枝や荷物を整理したのち、秋田空港から大阪への帰路へつきました。

お話しをお伺いした尾花さん

「山に入り、素材を採取して道具をつくる」。今回は入門編としてその入り口に立ち、その先にあるであろう箕づくり職人の田口召平さんの言う「感動」に近づくために、木の岐をテーマに、秋田の山で採取から道具として使用することを想像することまでを実践することにしました。自然の形を用いる木の岐はイタヤ細工や樺細工のように高度な作り手の技術を必要とはしないが、やってみると感じたのは、そこらじゅうにある木の岐から選ぶ目利き力とそれが道具になることを想像することの難しさ。日常生活において生活に必要なもの、提案されたものから選ぶことに慣れ、自ら想像してつくる思考を失った現代人にとって、これはとてつもなく難しい。

 

今回再び油谷満夫さん(油谷これくしょん)を訪ね、木の岐についてさらに話を聞いていきましたが、その際に見せてもらった小さな2本の枝を利用したすりこぎ棒の発想には脱帽しました。この発想はおそらく今のような卓上作業ではなく、恐らく地面(または近いところ)で作業をする暮らしがあったからではないかとも思う。必要とされることから生まれる発想恐るべしと、感服しました。

訪れた先で聞いた話を思いながら、山に入り、木の岐を探す。そんなことだけで多くのことを考え気付かされました。「民芸イタヤ工房」の職人菅原清澄さんに聞いた菅原さんのお父さんが採取のために山に入る時の歩き方。「角館イタヤ工芸」の本庄あずささんが教えてくれた紅葉の色の違いからイタヤカエデを見分ける方法。そして、桜の開花時期に合わせて色づく花を見て山桜を探すが、現在では山の所有者がわからず、素材を手に入れることが難しくなってきたという樺細工八柳の八柳浩太郎さんの話。

自然から素材をいただき、ものをつくるという人がこれまで行ってきた当たり前の生活。人々の近くにあったその営みが時代とともに人々の目の前から離れてしまったことで、大量工業生産に慣れてしまった私たちはものづくりと自然との関係を想像できなくなってしまったのかもしれません。それにより作り手の方々が向き合っているものづくりの現状に目を向けることがなくなっているのではないかと感じました。

1月には木の岐の行商になり、採取した木の岐やそれから作った道具などを携えて文化創造館や街中を出歩く予定にしています。かつて行商人が土地土地に情報をも運んでいたように、私が秋田で見聞きして木の岐から考えたことを多くの人に伝えることができたらと思います。 最後に佐藤清太郎さんの「健康の森」での山歩きは何度でも味わいたい心地よいものでした。必要以上に管理しすぎないからこそある歩く心地の良さ。ズルズル滑るところもあれば、ザクザクと踏み分ける道もある。登山道にはない歩く喜び。風が木々の間を通り抜ける音。最後にご褒美のように天然のなめこに出会えたのは嬉しかったです。味は今までに食べたことのない味で、「これがなめこというものか!」と驚きました。

〈身体0ベース運用法(安藤隆一郎)〉


各工房を訪れたところ、どこも素材収集が難しくなってきているお話しをうかがいました。昔と異なり、各山には所有者がいるため、所有者を探して交渉するところから始めるます。そのため素材採取がもっとも大変な作業だそうです。物を作るまでの過程が、継続して工芸品をつくり続けることの難しさをまざまざと感じさせました。
8月、11月の秋田リサーチをもとに1月20日~22日の期間で〈身体0ベース運用法〉がいままでのリサーチ内容や集めた素材で実演制作を含んだ展示を実施します。〈身体0ベース運用法〉が業商人に扮して秋田市街地や秋田市文化創造館に出現しますので、ぜひご注目ください。

▶︎2022年8月の活動レポートはこちら

▶︎展示・滞在制作「山を手に取るは山のホームセンターのはじまり」について

Profile

身体0ベース運用法(安藤隆一郎)

2016 年より染色作家 安藤隆一郎が始動した「ものづくりの視点」から考える身体論。「身体」と「もの」との関わりから生まれる感覚、運動、機能を「0」から見直し、人間が本来持っている「身体」の運用法を見出す。その「身体」とは医学やスポーツといった専門的なものではなく、私たちの身の回りにある「身体」のこと。身体0ベース運用法はアートが持つ多様なツールを使ってそれを翻訳し、伝えることで、「身体」の消えゆく未来へ向けてその可能性を問い直す。これまでに体験型インスタレーションの制作、発表やワークショップなどをおこなう。2021 年より、京都府亀岡市を拠点に不要民具を救出し、活用するプロジェクト「民具BANK」を立ち上げ、地域に伝わってきた「身体」を見出すことを試みる。安藤は1984 年京都生まれ、大阪在住。2009 年京都市立芸術大学大学院工芸科染織専攻修了。現在、同大学染織専攻講師。(撮影:松見拓也 提供:京都市立芸術大学)

テキスト|山本美里(PARK – いきるとつくるのにわ プログラム・コーディネーター)

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