トーク・ワークショップ「PARK的・五感で味わう 秋田の秋-視・聴・嗅(きゅう)・味・触 -」
日時|2023年9月18日(月・祝)14:00〜16:00
秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK – いきるとつくるのにわ」。「観察する」「出会う」「育む」「残す」の4つのプログラムを通して、秋田の文化的土壌をたがやしていくことを試みます。
トーク・ワークショップ「PARK的・五感で味わう 秋田の秋-視・聴・嗅(きゅう)・味・触 -」では、PARK参加クリエイターのわいないきょうこさん、紫波町図書館主任司書の手塚美希さんをお招きし、「味わうこと」とは何かをひもとくため、様々な試み(パッケージ(視)/朗読(聴)/醤油(嗅)/温度(味)/器(触))を通して自らの”センサー”を試し、「おいしい」を探りました。
食べるという文化。
生物としてのロジック。
食欲と満足感 味わうということ。お腹いっぱい食べるということ。
胃腸という実は美味しいを受け止めるツールにして実にセンシティブ。
バイタルサインと満足感はイコール?
食べるということ。消化するということ。お通じとなって出ること。
Joyという部分での食事。
(あーやってこうやってあれをこう料理してあの人とあの場所でこうやって食べるという行為。)
生きるという部分での食事。
(この方が消化にはいいとかこれの方が栄養価高いとか。)
有機野菜とかそういう情報ってロジック?それともイマジネーションの満足度?
気持ちよく消化することも立派なお通じが出ることも
次の食事をイメージする食いしん坊の胃袋を作ること。
日常の美味しいが日々の暮らし。
誰とどこでどんな器でどんな光でどんな空間で何を食べるか?
美味しいというファンタジー(美味しそうっていうでしょ?食べる前に。)
本当に味わうこと味わえること
(こういう時にこうやって食べるから必ず美味しいという刷り込まれた日常。間違ったトラディションと言ったりするかもしれない。)
本当の自分の舌で味わうこと
情報としての味、
美味しいブランドが無理矢理に美味しいを作り出すことはできないぞとまず言いたい。
でもどこそこのなになにだから美味しいは、アリなのか?
その人の感性。その人の舌。その人の情報。
その日のコンディション。その日の風景。その日の運動量。
お腹が空くという美しい瞬間。
名店の味だから信用する味。
意外にシンプル。
店の構えと迎える人のおもてなし。
ハッとするテーブルの美学。
一番大事なのは美味しいを共有できる相手。
仲間。家族。穏やかな食卓。1人で食べることができない家族。
ベビーであったりお年寄りだったり病人であったり
それで自分の食事が蔑ろのケアラー
お母さんであったりパートナーであったり
家族であったり何があっても
美味しいに向かう食卓が愛があってこその賜物。
戦争や災害や地球が弱っている今。
困難な食生活を強いられる今の暮らし。厳しい労働。
美味しいを提供すること。
少しでも美味しいと思ってもらえる食卓を作ろうという行為こそが
思いやり=愛
があって成立すること。
美味しいは愛情が生むものです。
デザインという行為も美味しいと同じプロセス。
クリエーションが本物の美味しいを作る。
わいないきょうこ
今回のイベントに向け、わいないさんからスタッフに送られてきたメッセージ。
食べるってなに?味わうってなに?のメッセージが詰まっています。
会場では海外の飢餓や残飯ビジネスがあることなどにふれ、食への危機感や「食べる」とは何かを語りました。
秋田の上小阿仁村出身の手塚さんは、田舎でも最新の情報が得られる場所があれば良いと感じて図書館をつくることが夢だったそうです。そんな夢をもった手塚さんは岩手県の紫波町図書館の立ち上げから関わり、現在も勤めていいます。紫波町図書館は宿泊施設やレストラン、キッチンスタジオが合わさった複合施設オガールの中にあります。昨年開催した10周年イベントで図書館に町の専門家を招き、相談コーナーを設置されたお話等、紫波町図書館の活動をご紹介いただきました。町民による多様な活動が交わる場所となっているオガールはまさに、PARKが目指す目的を持った場所です。
ワークショップでは見た目で味が判断できないフードや、紹介した文に登場するフードが参加者の目の前に並びました。これはいったい何だろうとよく見たり嗅いだりしながら、一つ一つ味わい五感を刺激していきました。
○用意したフード
・透明醤油
・発酵キウイ
・発酵トマト
・黒い塩
・チョコレートドリンクと書かれた水(新屋の湧水)
・いちごミルクと書かれた水(岩手県、龍泉洞の水)
・フォンダンショコラ
・アインシュペーナー(生クリーム入りコーヒー)
黄色いジャムのようなものは、発酵キウイで梅干しのような味がします。またプラスチックのスプーンに乗った透明な液体は実は透明な醤油でした。さらにチョコレートドリンクと書かれたカップには秋田市新屋の湧水、いちごミルクのカップには岩手の龍泉洞の水が注がれています。実際に味わってみると龍泉洞の水の方がほんのり甘いのが分かりました。それぞれ実際に存在する食品ですが、正体を知ると不思議な気持ちにさせられました。
※発酵キウイ、発酵トマトはヤマモ味噌醤油醸造元の試作品です。特別に使用させていただきました。
文章の中に潜む食を味わうこと。
手塚さんには、イベントに合わせて味わうことをテーマに2冊選書いただきました。
・くどうれいん『わたしを空腹にしないほうがいい』改訂版 BOOKNERD、2018 年
・辺見庸『もの食う人びと』「大観覧車で食べる」角川文庫、1997年、P.173-178
手塚:最初にわいないさんから選書のお題をいただいた時、直接的な食べ物のシーンではなく、食がある幸せのシーン、一人で食べているシーン、家族や友人ととの食の幸せを連想するような文章というお題がありました。小説でもエッセイでも何のジャンルでも良いというお話をいただき、本を選ぶのにとても悩みました。
くどうれいんさんの「わたしを空腹にしないほうがいい 」は盛岡の本屋さん、BOOKNERDが出版しています。著者のくどうさんは、盛岡の石川啄木と同じ出身地で、短歌や俳句になじみのある方です。本書には、俳句と小さなエッセイが収録されているのですが、食そのものがテーマではなく、くどうさんが出会ってきた風景や人が中心に描かれています。読み進めると食べることが好きだということが伝わってくるのですが、中には食べられないというお話も描かれています。わいないさんが読んだらどんな解釈をするのかと気になり選書しました。
辺見庸さんの『もの食う人びと』を読むのは覚悟と体力を要します。世界の紛争地などを旅して体験した食のルポで、読んだ方はお分かりだと思うのですが、読み進めるのをためらうような、悲劇的な食べるシーンなども描かれています。その中で「大観覧車で食べる」には唯一救いがあると感じ選びました。
くどうれいん『わたしを空腹にしないほうがいい』の「そら豆はすこやかな胎児のかたち」はテキストで、「星涼し地球の石を蹴って帰る」は朗読で味わってみました。
辺見庸『もの食う人びと』「大観覧車で食べる」では、観覧車の中で食事をするシーンが描かれています。その様子を再現し、文中にある大観覧車の映像をみながら文中に登場するアインシュペーナー(生クリーム入りコーヒー)とチョコレートケーキとしてフォンダンショコラを味わいました。
参加者からは、提供されたフードを疑いながら味わったことで、見た目はチョコレートケーキだけど実は違うのでないかと疑ってしまった、との声もありました。見た目では味を判断できないフード、文章や音声から味わう試みなど、さまざまな形の味わうを通じて当たり前のように繰り返している食べることが実は当たり前ではないことを知り、改めて「食べる」「味わう」を考える機会となりました。
今後のわいないきょうこさんの活動として10月~12月の間、月に1回雪室勉強会を実施します。雪室とは雪を使い食材を熟成保存させる貯蔵庫です。雪が降る秋田だからこその文化に一緒に取り組み、学んでみたい方を募集しています。ぜひご参加ください。
▶︎「PARK的・五感で味わう 秋田の秋 -視・聴・嗅(きゅう)・味・触 -」
日時|9月18日(月・祝) 14:00-16:00
会場|秋田市文化創造館 スタジオA1
登壇者|手塚美希(紫波町図書館 主任司書)、わいないきょうこ(デザイナー/やぶ前)
●関連イベント
【わいないきょうこ 雪室勉強会
日時|
第1回|10月15日(日)14:00〜16:00
昨年の雪室の紹介、また秋田の雪を学びます。
第2回|11月11日(土)13:00〜17:00
雪室い入れる腸詰(乾燥ソーセージ)を作ります。
第3回|12月7日(木) 13:00〜17:00 →変更12月22日13:00〜15:30
雪室を実際に制作、設置を行います。
会場|秋田市文化創造館 、他
講師|わいないきょうこ
参加費|無料
お申し込み|電話(018-893-6424)もしくは、以下のフォームからお申し込みください。
Profile
手塚美希(紫波町図書館 主任司書)
1975年、秋田県生まれ。浦安市立中央図書館、秋田市立中央図書館明徳館、秋田県立図書館での勤務後、2010年7月から紫波町企画課公民連携室に図書館専門嘱託員として勤務。紫波町図書館の開館準備を単身赴任しながら行う。12年開館を経て現職。19年、全米図書館協会年次大会2019で紫波町図書館の取組みを発表。現在、岩手と愛知の往復生活。みんなで飲む日本酒が好き。
Profile
わいないきょうこ(デザイナー、やぶ前)
横浜市出身。桑沢デザイン研究所写真研究課卒。日本でバッグデザイナーとしてそのキャリアをスタート、活動拠点をロンドンに移した後は、内外問わず様々な企業やデザイナーとのコラボレーションを通じ、バッグを主軸にファッショ ン小物やインテリア・オブジェなどを制作。また舞台、映画などのコスチュームデザインも担当。 現在はブータン王立タラヤナ財団クリエイティブアドバイザーなど続けながら、ロンドンのスタジオを母方のルーツ秋田美郷町に移し、町の人々と伝統と知恵を新しく捕まえる形で世界にその暮らしぶりを伝えるための町の学び舎’やぶ前’を始めた。
テキスト|山本美里(PARK – いきるとつくるのにわ プログラム・コーディネーター)
撮影|伊藤靖史(Creative Peg Works)