対談「地図と熊と美術館」
鴻池朋子(アーティスト)×奥脇嵩大(青森県立美術館 学芸員)
ファシリテーター:西原 珉(秋田市文化創造館 館長/心理療法士)
青森県立美術館「鴻池朋子展 メディシン・インフラ」から紡がれる、
美術と山の、秘密の小径を辿る対話
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現代アーティスト、鴻池朋子さんの新作を紹介する大規模な個展「メディシン・インフラ」が、青森県立美術館で開催されます(7月13日-9月29日)。展覧会のポスターの絵には、森吉山と阿仁川と、安らかな熊の親子が描かれており、全体図はさらに遠い北米大陸まで広がっているそうです。秋田出身の鴻池さんの地図に「県境」はないのかもしれません。森吉山は、東日本大震災後に、鴻池さんが「美術館ロッジ」というプロジェクトを立ち上げ、人々の個人的な記憶をもとに手芸でランチョンマット大の作品をつくる「物語るテーブルランナー」を行なっている場所です。屋内外問わず様々な場所や素材で作品をつくり、多くの参加者を巻き込む〝個展〟をし、「もはやアートの観客は人間だけではない」と語るアーティストの真意は何なのか。この度の展覧会で、鴻池さんと担当学芸員である奥脇嵩大さんが試みるこれからの美術館の可能性と実践、当館の試行錯誤が響きあうポイントについて、館長の西原珉が、お話を伺います。
Profile
鴻池朋子 Tomoko Konoike:
絵画、彫刻、手芸、歌、映像、絵本など様々な画材とメディアを用い、また旅での移動や野外でのサイトスペシフィックな活動によって、芸術の根源的な問い直しを続けている。主な個展:2009 年「インタートラベラー神話と遊ぶ人」東京オペラシティギャラリー、 2015年「根源的暴力」神奈川県民ホール、群馬県立近代美術館/芸術選奨文部科学大臣賞、2018年「Fur Story」リーズ芸術大学、「ハンターギャザラー」秋田県立近代美術館、2020年「ちゅうがえり」アーティゾン美術館/毎日芸術賞受賞、2022年「みる誕生」高松市美術館、静岡県立美術館/紫綬褒章受賞など。グループ展:2016 年「Temporal Turn」スペンサー美術館・カンザス大学自然史博物館、2017 年「Japan-Spirits of Nature」ノルディックアクバラル美術館、2018 年「ECHOES FROM THE PAST」シンカ美術館、2022 年「Story-makers」シドニー日本文化センター、瀬戸内国際芸術祭など。著書に絵本『みみお』(青幻舎)、『どうぶつのことば』、絵本『焚書 World of Wonder』(羽鳥書店)など。
奥脇嵩大 Takahiro Okuwaki:
1986年、埼玉県生まれ。京都芸術センター・アートコーディネーターや大原美術館学芸員を経て、2014年より青森県立美術館学芸員。「青森EARTH」展覧会シリーズや「アグロス・アートプロジェクト」「美術館堆肥化計画」等の企画運営を通じて、美術館とその活動に生きることを再設計する場としての役割を実装することに関心をもつ。「鴻池朋子展:メディシン・インフラ」担当学芸員。
西原 珉 Min Nishihara:
キュレーター、心理療法士、秋田市文化創造館 館長
90年代の現代美術シーンで活動後、渡米。ロサンゼルスでソーシャルワーカー兼臨床心理療法士として働く。家族療法、芸術療法、認知行動療法を中心に多くのアプローチを実施。個人・グループに心理療法を行うほか、シニア施設、DVシェルターなどでコミュニティを基盤とするアートプロジェクトを行った。リトルトーキョーでは、コミュニティのための文化スペースのプログラムと運営に関わった。2018年からは日本を拠点にアーティストや作り手のための相談と心理カウンセリングのほか、アートプロジェクトを通じたコミュニティのケアに力を注いでいる。秋田公立美術大学教授を経て、2024年4月より東京藝術大学先端芸術表現科准教授。アートセラピーを活用したワークショップ、ケアする人のためのケア「クッション」で活動している。
ポスターデザイン:佐藤豊