秋田市文化創造館

連載

秋田の人々

このまちで暮らしを重ねる
たくさんの人たち。
人を知り、出会うことができたら、
日々はもっとあざやかに、おもしろくなる。
秋田に住まうあの人この人、
秋田に関わる人々を不定期で紹介します。
中心市街地や秋田市文化創造館での
過ごし方・使い方のヒントを
見つけてください。

民芸 パパヤー

秋田県秋田市新屋
店主 阪本真千代さん

秋田市文化創造館からは車で約20分。雄物川が流れる秋田大橋を渡ると「新屋(あらや)」と呼ばれる地域があります。
江戸時代、秋田と山形県の酒田を結ぶ宿場町として栄え、町屋や酒蔵など古い建物が点在しているエリアです。

〈民芸 パパヤー〉が新屋表町通りの一角、〈参画屋〉にオープンしたのは、2021年の春のこと。
店主は、大阪出身の阪本真千代さん。自家栽培の野菜や米で料理をつくる〈樫食堂〉(大仙市)の真千代さんとしてご存知の方が多いかもしれません。

〈樫食堂〉の自家製調味料を〈民芸 パパヤー〉で販売することも。食堂は現在休業し、弁当や調味料の配達・販売のみを行っています。

絵描きでもある真千代さんは、秋田市でお菓子づくりを行う〈空の木ガーデン〉の包装紙、三種町〈松庵寺〉の副住職・渡辺英心さん率いる英心&The MeditationaliesのCDジャケット、 福禄寿酒造〈下タ町醸し室HIKOBE〉(五城目町)のロゴデザインなども手掛けています。

〈参画屋〉は、築70年以上の木造2階建ての建物で、もともとは下駄屋でした。

敷地と建物の形から「三角屋」と呼ばれ、地域の人に親しまれてきましたが、空き店舗になったため、有志により2008年に改修。
現在はレンタルスペースとして4つの事業者がシェアしています。

〈民芸 パパヤー〉が入居するスペースは、約10年、日々の暮らしの器と雑貨の店〈眞理(まり)〉が営まれていた場所でした。

旧羽州浜街道の三叉路(さんさろ)に位置している〈参画屋〉。1Fに〈民芸 パパヤー〉とプチオーダーの店〈obogi〉、革細工〈arbor〉、2Fに建築事務所が入居しています。

真千代さんがこの場所で店を始めることになったのは、眞理さんからのバトンを受け継ぐため。〈白岩焼和兵衛窯〉(仙北市)の渡邊葵さんから声をかけてもらったことがきっかけでした。

「眞理さんが2020年の夏にお店を閉めることになって、葵さんが後継ぎを探されていたんです。
私はちょうどそのころ、将来的に〈樫食堂〉を閉めることを考えていたので、この先どうしようか、秋田を出るんだろうかって考えているときでした」。

2019年の秋。たまたま同じマルシェイベントに出店していた葵さんと真千代さんが、何気ない立ち話をしているときのことです。

「葵さんは現在人気作家ですが、〈眞理〉では、活動を始めたばかりのころから作品を販売してもらっていて、眞理さんに育ててもらったという思いがありました。

それに、秋田には器屋があまりないので、
いいつくり手がいるのに、作品を置く場所が少なくなってしまうとおっしゃっていて。
やりませんかって」。

店内のライトは参画屋がオープンしたときに設置されたもので、〈眞理〉から引き継ぎ使用しています。

真千代さんはそれまで新屋を訪れたこともなく、眞理さんとも面識はありませんでしたが、「残した方がいいと思った」と場所を継ぐことを決意します。

「すごく器好きで詳しい人間でもなかったので、まさか自分が器屋をやるなんて思っていませんでした。“継ぐ”ということが自分の中では大きかったんです」と話す真千代さん。

だから〈眞理〉の看板を、あえて残して営業しています。

秋田のものづくりを伝える場

店内には、葵さんをはじめ、眞理さんから引き継いだつくり手の器に加え、新たに取り扱いを始めた品々も並びます。

「自分がお店をやるならば、県外から来るお客さんに、秋田のものづくりを紹介できる場にしたい」と話す真千代さん。

〈中嶋窯〉(秋田市)、〈三温窯〉(五城目町)の器、〈星耕硝子〉(大仙市)のグラス、仙北市で樺細工製品を手掛ける〈八柳(やつやなぎ)〉の茶筒、金工家・坂本喜子さん(大仙市)のカトラリーや小皿、漆作家・髙橋睦さん(美郷町)の漆器、秋田市を拠点に作陶する田村一さんの土ものなど、豊富な品揃えです。

〈中嶋窯〉の中嶋健一さん、〈三温窯〉の佐藤幸穂さん、金工家の坂本喜子さん、漆作家の髙橋睦さんは、秋田公立美術工芸短期大学(秋田市新屋にある、現・秋田公立美術大学)の卒業生でもあります。

北海道余市町で作陶する馬渡(まわたり)新平さんは、かつて秋田県美郷町に工房を構えていたことがあり、〈樫食堂〉でも器を使っていたことからセレクトしました。余市で採れる果樹の木の灰から釉薬をつくっています。

家具デザインと制作を行う〈fuuukei〉(由利本荘市)にオーダーしたオリジナルの盆も販売。今後はこうしたオリジナル商品もつくっていきたいのだそう。

取り扱うつくり手の多くは、〈樫食堂〉の活動を通じて、面識のある人たちでしたが、「何をつくっている人かは知っていても、売る立場になることで、もっと深い目で作品やものづくりについて聞くようになった」と、新しく知ることが多かったと言います。

素材からつくるものづくり

秋田に関わるもの以外で、多く取り揃えるのが沖縄の器です。

〈眞理〉でも扱いはありましたが、真千代さんが大学時代、染織を沖縄で学んでいたこともあって縁があり、4ヶ月に一度、窯出しのときに仕入れに赴いています。

偶然にも、眞理さんが扱っていたつくり手のひとりが真千代さんの友人で、彼のものづくりが、店づくりの大切な道標になりました。

「器屋を始めると決めたものの、最初はどこから手をつけていいかわかりませんでした。
ものを売ったことがないし、大学のときもつくっていたのは布で、器ではなかったし、軸をどこに持っていったらいいかわからなかったんです。

でも、オープン直前に沖縄の友人を訪ねたら、“素材からつくる焼き物”をつくっていて、それが〈樫食堂〉でやっていた、“野菜をつくって料理すること”とリンクするところがありました。

“秋田のつくり手”という軸と、“素材からつくるものづくり”という軸に絞っていけば、自分が器屋をやる意義をアピールできるかもしれないと思えて、やっと方向を定めることができました」。

「あまり意味を持たせたくなかった」という店名は、沖縄の言葉で〈パパイヤ〉。形が好きで名付けたというその木は、沖縄では多くの家の庭に生えている、身近な木なのだといいます。

沖縄でつくられる焼き物はすべて”やちむん“と呼ばれますが、「沖縄の土」でつくる人もいれば、「沖縄以外の土」でつくる人もいます。
〈民芸 パパヤー〉に並ぶ沖縄の器は、すべて「沖縄の土」からつくられているもの。釉薬も沖縄の素材でつくり、足でろくろ盤を蹴る蹴轆轤(けろくろ)と登窯でやちむんをつくります。

「お店では、50〜70代のベテランの方のやちむんを扱っているのですが、窯出しのときに会いに行って、彼らの話を聞けるのが貴重です。寡黙だけど内に熱いものを秘めていて、たまに言う言葉が優しくていいんです。絵を描きたいって思う、すごくいい顔をするんですよ。つくっている人とものとが必ずしも合致しないのも、とってもおもしろいなと思います」。

長く使えるものに出会ってほしい

〈民芸 パパヤー〉では、異なるつくり手の品を混ぜて配置しています。

「(樫食堂の)お弁当のメニューを考えるときもそうなんですが、頭の中で絵を描いて、思い浮かべた思想をディスプレイに変換したらこの形になりました。みんな土・素材からつくっている人たちなので、似ているところがあって、ミックスして置いていても違和感がないんです」。

説明書きもないため、作家や工房の名前に囚われず、自分が良いと思うものを手に取ることができます。

店内で気になるものを見つけたら、真千代さんに質問してみてください。そのものの魅力を丁寧に教えてくれます。

「お店では、買わずとも、まず見てもらえたら、それでいいと思っています。本当に気に入ったもの、長く使えるものに出会ったときだけ買ってもらうのが理想です。

今日何かないかなと覗いてもらって、今日はなくても次回出会えるかもしれないと、あきらめずに来てもらえたらうれしいです」。

商品の入れ替わりも頻繁にあるので、入荷情報はインスタグラムでチェックを。

髙橋睦さんの漆器。岩手県二戸市浄法寺の国産漆を使用しています。〈眞理〉では睦さんの箸を販売していましたが、〈民芸 パパヤー〉で器の取り扱いを始めました。

今後は扱う作品の種類をもっと広げていきたいと考えている真千代さん。
移動が許されるようになったら、山陰や九州など、まだ見たことがない窯元や、海外にも行きたいと考えています。

「あまり1カ所に定住するのも得意ではないので、まだまだどこかに行きたい、という気持ちもありますが、せっかく声をかけてもらったので、できることはやりたいなと思っています。
店番をお願いして、買い付けに飛び回れるようになるのが夢ですね。

〈眞理〉で開催していた葵さんの個展はじめ、店内イベントもやりたいですし、岩手とか青森とか、行けるところに私が器を持って行きたいなとも思います。秋田のつくり手や、素材からつくるものづくりを、あまり触れる機会がない地域のお客さんにも見てもらいたいんです」。

新屋の地域交流の拠点となることを願いオープンした参画屋。
かつて商人や旅人が行き来した街道は、当時も多様な文化が混じり合う交差点であったはず。
この場所にある〈民芸 パパヤー〉は、まちに馴染む庭木のように静かに佇み、器を通したさまざまな土地やつくり手の物語を、内へ外へと運んでくれています。

information

「民芸 パパヤー」

住所秋田県秋田市新屋表町10-14 参画屋(MAP
営業時間13:00 – 17:00
定休日日曜日 ※冬季休業あり
駐車場無し
Webhttps://www.instagram.com/mingei.papaya/

──秋田市文化創造館に期待することは?

展覧会『200年をたがやす』で、八柳さんが樺細工のワークショップを催していましたよね。
そうした職人さんの技を身近で見られる機会があるといいと思います。

先日、Nowvillageの今村香織さんに紹介してもらい、秋田市で「太平箕(おいだらみ)」をつくる田口召平さんを訪ねました。箕は、素材を採るのにもつくるのにも、蓄積された技術が必要ですが、秋田の人がみんな田口さんの存在や箕のことを知っているわけでもないし、後継者もいない。すごい技術をもっているのに知られていない人たちがたくさんいるので、そうした人と知り合う機会をつくってもらえたらいいなと思います。見たことがあるかないかだけでも全然違うと思うんです。

──友人に案内したい秋田市のおすすめの場所を教えてください

うなぎ卸関谷(秋田市新屋MAP
〈参画屋〉の隣にあるうなぎやさんです。お店の奥に生け簀(いけす)があって、注文すると、さばいて1時間後には焼いてくれるんです。蒲焼がとってもおいしくて、週末は行列ができるんですよ。肝焼きもあります。要予約です。

この通り(新屋表町通り)には、秋田市新屋ガラス工房(MAP)もありますが、もう数軒、食べたりお茶できるお店があったらまち歩きが楽しくなると思います。空き店舗はいっぱいあるので、誰か(お店を開いてくれる人が)来ないかな。

(取材:佐藤春菜 撮影:鄭伽倻)