秋田の人々
このまちで暮らしを重ねる
たくさんの人たち。
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秋田に住まうあの人この人、
秋田に関わる人々を不定期で紹介します。
中心市街地や秋田市文化創造館での
過ごし方・使い方のヒントを
見つけてください。
「and toiro / h.u.g」
秋田県秋田市大町
立体造形作家 菅原綾希子さん
秋田市文化創造館から徒歩約10分、旭川に面したアートスペース〈ココラボラトリー(通称:ココラボ・MAP)〉がある川反中央ビルの3Fに、立体造形作家・菅原綾希子さんの活動拠点〈and toiro〉があります。
自身のライフワークである彫刻を展示するギャラリーと、クラフト作家〈h.u.g〉として手がけた作品の販売を行うスペースです。
〈and toiro〉がオープンしたのは2019年。ココラボの代表・後藤仁さんから声をかけられたことがきっかけでした。
「自分の彫刻を常設できて、企画展もできる自由な場所が作家でもてるということは、すごく幸せなことだと思ったんです」。
それまで店をもとうとまでは思っていなかったといいますが、ギャラリースペースがあったことが決め手となります。
「(作品を)しまっていることが寂しいというのもありましたし、私の年代で彫刻をやっている秋田の人って本当に少ないので、もっと敷居を低くして、絵画を観るようにふらっと立ち寄れる場所にできればと思いました」。
綾希子さんがモチーフにするのは「月」。
「自分のように思えるんです。見ていると落ち着くし、その時々で形も変わって見えるので、息子の表情を連想させたり、満月では穏やかになったり、自分の感情とリンクします」。
彫刻は、自分を投影していくような作業で、記録のようなものと話す綾希子さん。年齢を重ねるごとに作風にも変化が現れました。
「学生時代はもっと荒々しくて長細い作品をつくっていましたが、結婚して、子どもができたら自然と丸くなっていきました」。
ギャラリーでは自由に作品に触れることができ、持ち上げて裏側まで見せてくれることも。彫刻への敷居を下げることはもちろん、心の拠りどころになる、気持ちがフラットになれる場所にできればと綾希子さんは考えています。
このビルからはじまった
主観的につくる彫刻に反して、〈h.u.g〉の作品はお客様の顔を思い浮かべてつくる客観的な活動と話す綾希子さん。〈h.u.g〉としての活動も、「もう少し自由に小さいものもつくって、そこから彫刻を見てもらえるようになればと」という思いから始まりました。
「ふーって疲れて帰って来た時に、威圧的にならないよう、癒される表情だったり、心落ち着けるオブジェを心がけています」と、作品は家に置かれることを大前提に、風景の邪魔をしない、自然に馴染むようなものが大半です。
一方で、ブローチは特徴的。全国的にクラフト活動をしている人がたくさんいる中で個性的に見てもらうため、「ちょっとネタになる、でも身に着けられるもの」をモチーフにつくります。
そんな〈h.u.g〉として最初に手掛けたのは、家の形のオブジェでした。
実は、この最初の作品をつくるきっかけが、ここ川反中央ビルにあります。綾希子さんがこのビルに通い始めたのは10年以上前。当時2Fにあった〈石田珈琲店〉に入った時、窓際にあった「小さいおうち」が目に入ったといいます。
「その時に、すっごく感動したんです。アンティーク感があって、小さいのに存在感があって、こういう作品をつくってみたいなと思いました。数年後に、自分がこのビルに拠点をつくるとは当時は夢にも思っていないんですけど、そういう巡り巡っての縁もあるのかなと思います」。
コロナ禍だからこそ生まれたコラボレーション
コロナ禍になった昨年1年間は、店舗に人が来られなくなってしまったため、オンラインを主に販売しようと、県内のつくり手と数多くのコラボレーションをしたといいます。
母の日に向けては、秋田市の〈greenpiece(MAP)〉のドライフラワーと〈h.u.g〉の花のブローチをセットにしたギフトボックスを販売、同じビルの2Fに入る〈Cafe Epic(MAP)〉と〈Flower Space T’s(MAP)〉とも商品をつくりました。
バレエシューズのブローチは、潟上市の〈リトルスターズバレエカンパニー〉と共同プロデュースしたもの。カンパニーの映像作品に、綾希子さんの彫刻が使われたことをきっかけに繋がりが生まれ、オリジナルブローチの制作依頼を受けました。
「映像作品の撮影がココラボで行われたのですが、バレエ団の方が作家を探していることを後藤さんが知って、つなげてくださったんです。雪のイメージでつくっていた彫刻作品を、舞台でも同じイメージで使いたいと言ってくださいました」。
ひとりで製作していると孤独なので、コラボレーションをやったことで同じ悩みを共有できたのはすごくよかったと話す綾希子さん。
「コロナ禍は、地元の作家さんに目を向けるチャンスでもあるので、秋田の作家さんをもっと見つけて、一緒にできることも増やしていきたいと思っています」。
4月24日(土)〜5月2日(日)には、母と子の温かい絵を描く秋田美術作家協会の小林顕さんと〈and toiro〉のギャラリーで展示を行う予定です。
小林さんの作品が好きなことはもちろん、綾希子さんも母子像をつくるので、ふたりで展示ができたらおもしろいのではと思い声をかけたのだそう。
「1階にはココラボというギャラリーもあるので、ここは一般に貸し出すことはせずに、自分なりの企画を考えてまた違ったギャラリーのあり方を見せたいなと思っています」。
活動はtoiroに広がる
綾希子さんは、秋田市出身。秋田を出たいと北海道の大学へ進学しますが、大学院を経て、6年で秋田へ帰ってきました。
「戻りたいと思っていた場所ではなかったのですが、外部からいらした方が秋田の良さを発見してくれたり、拠点をもって、いろんな人たちとふれ合っていると、ここに住んでいてよかったなと思うこともすごく増えてきて、ようやく地元を意識できるようになりました。
今まで何もないとか、全然魅力を感じていなかったんですけど、秋田の血が入っているので、この土地から発信できるものを大事にしようって考えになりましたね」。
〈h.u.g〉として活動をはじめ、今年で11年目。10年間の集大成を見せる展示が、宮城県気仙沼市から始まり、今後巡回予定です(秋田市では4月10日〜18日に予定。会場は〈and toiro〉のギャラリー)。今年力を入れたいと考えている絵画やイラストレーションの作品も展示されます。
彫刻の世界に入る前は絵画志望だった綾希子さんは、男鹿市の〈アメヤコーヒー〉の依頼で、ブライダル商品のデザインを手がけた経験があります。10種類のドリップパックのパッケージに、生まれて出会って結ばれる一連のストーリーを描いたイラストは、個展を皮切りにポストカードとして販売を開始しました。
〈and toiro〉は、「十人十色」に由来。いろんな色が混ざり合い、無限大になっていくことをイメージしています。
「自分がやっているものも、形に囚われない、統一性がないことが売りだと思っています。やりたいことも変わってくるし、思いつきでやってみることも私にとっては大事なこと。一本に絞って自分のイメージカラーで作品をつくる方もいますが、私はまたガラッと変わったものも出していくよという思いも込めているんです」。
前例に囚われず、可能性を制限しない綾希子さんの活動は、秋田からtoiroに広がっていきます。
information
「and toiro」(h.u.g)
住所 | 秋田県秋田市大町3-1-12 川反中央ビル3F(MAP) |
営業時間 | 11:00-17:00、土日-18:00 |
定休日 | 月・火曜日 ※営業日時の変更はホームページをご確認ください |
駐車場 | 無 ※ビル向かいの駐車場をご利用ください(有料) |
Web | (and toiro) www.facebook.com/andtoiro (h.u.g)hughm.theshop.jp |
3月21日に秋田市文化創造館が開館します
──旧県立美術館の思い出は?
過去一番展示した場所だと思います、秋田作家協会にも所属していて、毎年展示をしていたので馴染み深い場所です。高校総合美術展で絵画を展示したこともあって、賞をいただいたのですごく覚えています。柱が多くて使い勝手は悪かったんですが、あそこの場所が残るというのはゆかりがあるものたちにとってはすごくうれしいです。
──秋田市文化創造館でやってみたいことや期待することは?
秋田市はギャラリー自体がすごく少ないので、展示スペースとしてハードル高くなく展示できるようなギャラリースペースがあったらいいと思っています。文化創造館は散歩がてらふらっと入れる明るいスペースになりそうなので、立ち寄って、偶然的に美術作品に出会えるような場になってくれればいいなと思います。民間のギャラリーさんや公立美大との連携も楽しみです。
川反中央ビルもふくめて、周辺を歩いてまわってくれるようになったらいいですね。
──友人に案内したい秋田市のおすすめの場所を教えてください
川反中央ビル(秋田市大町・MAP)
このビルが好きです。古くて寒いですけど、1階にはココラボがありますし、2階のエピスのレモネードとコーヒーはおいしくておすすめです。川沿いでロケーションもいい。蔦の這った趣あるビルで、川を眺めながらひとりになりたい人にすごくきてほしい場所です。
(取材:佐藤春菜 撮影:鄭伽倻)