秋田市文化創造館

連載

秋田の人々

このまちで暮らしを重ねる
たくさんの人たち。
人を知り、出会うことができたら、
日々はもっとあざやかに、おもしろくなる。
秋田に住まうあの人この人、
秋田に関わる人々を不定期で紹介します。
中心市街地や秋田市文化創造館での
過ごし方・使い方のヒントを
見つけてください。

マザー食堂 savu.

秋田県秋田市楢山南中町
店主 五十嵐麻美さん

〈マザー食堂 savu.(ヴー)〉があるのは、秋田市文化創造館から徒歩約20分の楢山の住宅街。「はじめて来る人は大概2〜3周しますね」と笑うのは店主の五十嵐麻美さん。入り口は奥まったところにありますが、素材のいいものを求めて、たくさんの人が訪れます。

小さな看板が目印。敷地内へ進むと住居の下に古いガラスの引き戸を配した店舗が現れます。

「探していた店舗兼住居にできる物件が見つかったことと、楢山は憧れもある場所だったのでここで開業しました。毎月最終日曜日に〈楢山はしご市〉を開催していて、小さなお店も点在しているエリアなので、散歩しながらお店を巡ってくれる方が多い。そういう土地柄はいいなと思っていました」。

宮城県出身の麻美さんが秋田で暮らし始めたのは13年前。夫の転勤がきっかけでした。「秋田に来た当初は私も会社員をしていたんですが、子育てとの両立が大変で、だったら自分でやっちゃおうと8年前にお弁当の宅配を始めました」。

前職はまったく違う職種だったそうですが、次に関わるのなら食に関することがいいと思っていたという麻美さん。「秋田はスーパーにも産直コーナーがあって、地元の野菜が充実しているので、食の豊かさが身近だなとも感じていたんです」。

子どもが学校に行っている時間、平日のみに店を開く、無理のないところから始め、少しずつ営業時間を伸ばしていきました。現在は土曜日も営業しています。

麻美さんは仙台、福島、東京でも暮らした経験がありますが、ふりかえればずっと太平洋側。日本海側の食文化がめずらしく感じ、おもしろかったといいます。

いつ転勤があるかわからなかったため、店舗をもたずに始めた宅配弁当〈マザー食堂〉でしたが、秋田での生活も長くなり、ここまでいられたのなら子どもが高校を卒業するまでは秋田で暮らそうと決意。2015年、ベイクの店〈マザー食堂 savu.〉をオープンします。

人気の季節野菜のキッシュには秋田市太平にある〈鈴木牛乳(MAP)〉の牛乳を使用しています。この日の具材はブロッコリーとツナとクリームチーズ。「焼き菓子では豆乳を使用していますが、鈴木牛乳さんがおいしいよって聞いて、飲んでみたらおいしくて使い始めました。低温殺菌なので臭みが少ないんです」。

savu(ヴー)は「煙」を表すフィンランド語。「煙という言葉をつけたかったんです。人の営みの始まりである火と立ち上る煙は、そこに食卓があることの象徴。日々の食卓が心身を温めるものであるようにという思いを込めました。そのままつけると焼き鳥屋さんみたいになっちゃうので言葉を探していて。語呂が気に入ったのと、北欧と秋田は環境が似ているなというところもいいなと思って選びました」。

定番商品は、ホットビスケットや季節のキッシュ、ショートブレッドなど。焼き菓子と、コーヒーやハーブティー、ジャムなどを組合せたギフトも人気です。

体や環境に負担のない素材選び

なるべく体や環境にかかる負担の少ないものを使いたいと、焼き菓子にはバターや卵をあまり使わず、植物系の素材をメインにつくります。

秋田市雄和の自家製甘酒工房〈あまざけらぼ(MAP)〉の商品も扱い、焼き菓子に使用することも。この日並んでいたのは、甘酒を使用したマフィン。宮城に住む麻美さんの母自家製のイチジクの甘露煮入りです。

「子どもが生まれてから秋田に来たんですが、子どもに食べさせるものを考えたときに、少しでも体に負荷がかからないものがいいなと思ったんです。そういう視点で周りを見始めたら、秋田には良いものがたくさんあるんだなと気がつきました」。

店内にはこの他、〈ファームガーデンたそがれ〉(潟上市)、〈大潟村松橋ファーム〉〈みすず農場〉(大潟村)、〈樫食堂〉(大仙市)の商品が並びます。選ぶのは、土地を慈しんで作物を育てる、環境に配慮した農法を行う生産者のものばかり。

信頼できる生産者と顔を会わせる機会を大切にしている麻美さん。
〈ファームガーデンたそがれ〉の畑で自ら小豆もつくり、お彼岸の時期には手づくりのおはぎの販売も行います。良い素材を生かし、伝えていく手法はベイク商品に留まりません。
自家製のジャムにつかう果物も農家から旬のものを直接仕入れます。

自家製の季節のジャム。冬場並ぶのは秋田市の〈宮原果樹園(MAP)〉のりんごを使用した〈紅玉シナモン〉と〈アップルジンジャー〉、文化創造館が開館する3月には〈苺とジャスミン〉など季節ごとにフレーバーが変わります。

「秋田産のものを使った加工品はもっと積極的に販売していきたいです。おみやげ品も、本当はいいものがいっぱいあるんですが、主だったところで販売されていないのが残念だなと思っていて。真面目な商品をつくっている方が正当に評価されるようになるといいですね」。

子育てとの両立のため、マザー食堂を始めてからもうすぐ丸9年。撮影日の平日の午後、店の横ではお子さんが雪だるまをつくって遊んでいました。

お母さんがつくるお菓子で何が好きかと聞くと「全部!」と即答。時折店の中にも出入りし、姉妹でのびのびととても楽しそうでした。「目の届くところにいるのは安心ですし、秋田でしか子育てをしていないですが、子どもにとっての環境もとてもいいと思っています」。

秋田市でおもに固定種野菜を育てる〈kitchen garden potager〉の直売店が出店したり、〈ファームガーデンたそがれ〉の『出張手前味噌ワークショップ』や、五城目で陶器をつくる〈三温窯〉と展示販売会『三温窯と樫食堂』を開催したりと、イベントを行うことも多い。まだ出会っていない秋田のつくり手と知り合うきっかけをくれる場所でもあります。

information

「マザー食堂 savu.」

住所秋田市楢山南中町2-40(MAP
電話090-2884-4234
営業時間10:30-17:00
定休日日・木曜日、祝日
駐車場2台
Webhttps://www.facebook.com/mothersyokudo/

3月21日に秋田市文化創造館が開館します

──秋田市文化創造館でやってみたいことや期待することは?

誰でも気軽に行けるような場所になるといいですね。秋田市文化創造館からお店までは歩ける範囲なので、〈楢山はしご市〉を拡大してもらって、周辺マップをつくってもらえたらうれしいです。お客様の中には観光客の方もいらっしゃるのですが、この辺りを紹介するマップが秋田駅にもないんです。近くにも〈KAMENOCHO STORE〉(秋田市南通・MAP)や〈さとう菓子店〉(秋田市南通・MAP)など焼き菓子を扱うお店が3-4軒あるので、紹介できたらいいなと思います。

──友人に案内したい秋田市のおすすめの場所を教えてください

楢山はしご市
現在はコロナの影響でお休み中ですが、復活したら遊びに来てもらいたいです。10年続いているイベントで、イベントを通じてお店を知ってくれて常連さんになってくれた方も多いです。〈blank+〉(秋田市楢山・MAP)さんや〈おやつ工房 ジーバ〉(秋田市楢山・MAP)さんは初回から参加しているお店。イベントだけの限定メニューや商品も販売されますし、周りのお店を知るきっかけにもなってとても楽しいです。

(取材:佐藤春菜 撮影:鄭伽倻)