秋田市文化創造館

連載

秋田の人々

このまちで暮らしを重ねる
たくさんの人たち。
人を知り、出会うことができたら、
日々はもっとあざやかに、おもしろくなる。
秋田に住まうあの人この人、
秋田に関わる人々を不定期で紹介します。
中心市街地や秋田市文化創造館での
過ごし方・使い方のヒントを
見つけてください。

「あいば商店」

秋田県秋田市中通
代表 相場百恵さん

秋田市文化創造館から徒歩約10分。秋田の台所〈秋田市民市場〉内に青果店〈あいば商店〉はあります。亡き父の跡を継ぎ、代表を務めるのは相場百恵さん。店頭には選び抜いた旬の野菜や果物が並びます。

取材した1月、秋田市産の野菜で旬だったのは、春菊、小松菜、寒締めほうれん草など。春は山菜、夏は枝豆やとうもろこし、秋は天然のキノコと、季節ごとにラインナップが変わります。文化創造館が開館する3月には仁井田青菜も入荷予定です。

お店の商売につながればという気持ちで勉強を始めたという「あきた伝統野菜」(昭和30年代以前から県内で栽培され、地名が付くなど県に由来しているもの、現在でも種子や苗があり生産物が手に入るもの)も扱います。

「珍しい野菜は調理方法がわからなくて手を出しづらいと思ってしまう方もいるかもしれないですが、対面販売なので説明できますし、素材がいいので、ただ焼くだけ蒸すだけと簡単においしく食べられるものがほとんどです。食べたことがない人にこそ、チャレンジしてほしいなと思います」。

飲食店向けの「ふくたちツアー」も計画中です。「採れたてのふくたちを生で食べたらすっごく甘くて、衝撃的だったんです。その感動を飲食店の皆さんにも味わってもらいたいと考えています。珍しい野菜も、あのお店でこういう料理で食べたからうちでもやってみよう、買ってみようって、飲食店のメニューに載ることで一般の方にも浸透する、いい流れができていくんです」。

百恵さんの一押しは、秋田県内のみで流通する羽後町の特産品「ふくたち」です。鍋やお浸しでいただくのはもちろん、生のまま食べても甘味やみずみずしさを感じられます。

お客様とも家族のように

「ひろっこ」は秋田の食卓では馴染みの伝統野菜。ネギの仲間あさつきの若芽で、全国的には光に当たり緑色となったものが食べられますが、秋田では雪下で育つことで遮光され、黄色味を帯びる状態が定番。「火を入れると食感も柔らかく甘みが増します。さっと湯通しして、いかやちくわと酢味噌和えにしたり、かき揚げや卵とじもおいしいですよ」とおすすめの食べ方を教えてくれました。

秋田市内でパティシエとして勤めていたものの、父の体調が悪くなり店を手伝うようになった百恵さん。

「手伝うまでは何を売っているかもわかっていなくて、朝も早いし、大変な仕事だなとしか思っていなかったんです。継ぐ気は全くなかったので、決断できたのは自分でもびっくりしています」。

毎日お客様と接しているうちに、ケーキのようにものをつくることよりも、人と関わる方がおもしろい、好きだなと感じている自分がいることに気がついたのだそう。

「素直においしいなと思ったものを薦めて、後日お客さんからおいしかったよと言われた時に、でしょ!と会話するのがすごく楽しいんです」。

ディスプレイを担当するのは妹の七恵さん

客層は飲食店店主が大半で、先代からの常連のお客様も多い。

「父は山菜やキノコを採るのも上手だったし、変わったものが好きで、なんでこんなもの仕入れているんだろうって当時は思っていたものが、5年10年経つと流行り出すことが多かったんです。先見の明があったので飲食店の方が慕ってくれていて。私に直接は言わないですけど、『継いでくれてうれしい』と周りに話していたと後になってから聞きました」。

店頭に並んでいない野菜もあるので、探しているものがあったら声をかけてみてください。掘り出しものに出会えるかもしれません。

馴染みのお客様が、本当の家族のように応援してくれています。

コロナの影響で客足が減少した際、野菜セットをつくって近隣や全国へ販売してはどうかと助言してくれたのも飲食店のみなさん。

「困っていたのを心配してくれて。(飲食店に来る)お客さんにも宣伝してくれたおかげで口コミでも広がって、たくさん注文してもらえました」。野菜の解説を付けて発送すると好評になり、「全然味が違う。1ヶ月に2回定期的に送ってほしい」という声も聞かれたのだとか。

お客様とも家族のように接するあいば商店のみなさん。買い物がなくても、店に来てお茶を飲んだり、話したりする人も多いのだとか。

秋田というだけで価値がある

冬場は収穫できないものもあるため、店で販売する秋田県産の野菜は現在6割。しかし「いずれは秋田のものだけにしたい」という気持ちをもっています。

「秋田というだけで価値があるんです。遠くで採れて数日かけて届いたものと、採れたてでは鮮度が違うし、鮮度がいいとおいしさは倍増します。秋田にいるからこそ感じられる秋田産の良さを大事にしたいですし、それをつくってくれる農家さんたちは本当にすごいなと尊敬しています」。

取扱商品は、もちろん秋田産だからというだけで選ぶのではありません。「以前、朝採りにこだわる農家さんの、野菜の味が落ちた時があったんです。正直に『これなら周りにもっとおいしいのがあるよ』って伝えたら、めげるかなって思ったんですが、『来年絶対おいしいものをつくって見返してやる』って言ってくれて。そういう農家さんはいいなって思います。『だったら買わなくていいよ』じゃなくて、もっとおいしいものをつくって売りたいって思ってくれる人に出会えたらすごくうれしいですね」。

「周りの県のものが有名なのであまり知られていないですが、りんご、さくらんぼ、もも、梨、ぶどうと、秋田産の果物ってすごくおいしいんです。一度食べるとファンになってくれる方がたくさんいます」

野菜の価値を見出すのも役目

「いいものはちゃんとした価格で買いたい」と考えている百恵さん。気になった生産者には自ら会いに行きますが、市場に卸すことに抵抗がある生産者も多く、断られることもしばしば。数も必要で、値切られるのではというイメージが強いからなのだそう。そんな時、百恵さんは諦めずに機会を待ちます。

「こちらからお声がけをして、一度取引を断られた農家さんが、イタリア品種のナスが直売所で売れずに困っていると相談に来てくれたことがありました。見せてもらったらすごくいいナスでびっくりして、うちで買いたいと言ったら、直売所の卸値と同じ100円でいいですって言うんです。『100円だともったいないよ! うちだともっと高く売れる。180円で買うからずっとうちのためにつくってください』ってお願いしました」。

それ以来、取引も始まり、今ではいろんな野菜づくりにチャレンジしてくれるようになったといいます。「儲からないと続いていかないと思うんです。農家さんも利益が出るような価格をちゃんとつけて、お互いイーブンになる。ただ安いものを買うんじゃなくて野菜の価値を見出して、適正な価格をつけるのも自分たちの役目だと思っています」。

「市場に来てくれる人はおいしいものを求めて来てくれるので、値付けの理由がわかると高いとは思わず購入してくれるんです。誰がどんな気持ちでつくって、どんなふうに育てられたものなのかを知ると、売る気持ちも変わって来ます。食べる人も同じだと思うんです。食べ物の背景を知ることは、これからの時代大切なことだと思います」

流通を止めては行けない

「コロナ禍では、いつ自分が感染するかもしれないし、どこに陽性者がいるかもわからない。それなのに休めない状況が続いていて、大丈夫なんだろうかと毎日すごく不安だったんです。そんな時に同業者の八百屋さんが『自分たちの仕事は、流通を絶対止めたらダメ。農家さんの生活もあるし、消費者も食べ物がないと困ってしまう。その中心にいる自分たちは、どんな時でも休んではいけない』って言っていて。あぁそうだなって思ったんです」。

「なんでこんなに朝早く起きて嵐の日も行かなくちゃならないんだろうって思うときもあるんですけど、お客さんが少ない日も仕入れはして、ちゃんと万全な態勢でいないといけないという責任感をもって働いています」。

食は生きていく上で一番大事なことと強く話す百恵さん。秋田の食を守り、支えてくれているひとりです。

〈あいば商店〉では、百恵さんと、叔母の池田あけみさん、夫の健吾さん、妹の七恵さん、従業員のみなさんが笑顔で迎えてくれます。「言わなくても気がついてくれたりとか、遅くまで一緒に頑張ってくれたりとか、安心感もありますし、いろんなことを共有できるのは家族経営の良さですね」。

information

「あいば商店」

住所秋田県秋田市中通4-7-35(MAP
電話018-832-7311
営業時間7:00-17:00
定休日水・日曜日 ※祝祭日による変動あり
駐車場市民市場駐車場(400台)をご利用ください
Webhttps://www.facebook.com/momo.a227/

3月21日に秋田市文化創造館が開館します

──秋田市文化創造館でやってみたいことや期待することは?

マルシェのようなものをやってみたいなという思いもありますし、梅漬けなど、漬物のワークショップもやってみたいです。

昨年千秋公園内の〈あきた文化産業施設 松下〉で開催された〈松下マルシェ〉(秋田市とa.woman共催のイベント)に参加しました。市民市場と客層が全然違って、イベントで知って気に入ってくれて、お店に来てくれるようになった方も多いです。マルシェは新しいお客さんとの出会いの入口になると思います。

梅漬けは、自分でやってみないとお客さんに教えられないなと思って母から教わったんですが、やってみたらおもしろくてはまっちゃいました。昔ながらの秋田の漬け方があるんですが、お店のお客さんに教えると、そんな簡単なやり方があるなら、やってみようかなって始めてくれた人が多かったんです。やってみてうまくできたから、次の年もう少し量を増やしてみようかなとか、友人にもプレゼントしたいからって一箱買っていってくれる方もいて。うまく漬けられれば周りの人にあげたいっていう気持ちにもなるし、やってみないとわからないこともあると思うので、八百屋ならではのやり方で教えられたらいいなと思います。

──友人に案内したい秋田市のおすすめの場所を教えてください

秋田市内の飲食店
「お店のお客様でもある〈おもろ(秋田市手形・MAP)〉さんや〈いろは(秋田市中通・MAP)〉さんなど、秋田市内にはすごくおいしいなって思う飲食店がたくさんあるのでいろんなお店に行ってもらいたいです。(あいば商店で)購入してくれた野菜をおいしく料理して、おすすめの食べ方を教えてくれるはず」

このほか、〈和食と酒 はれとけ(秋田市南通・MAP)〉、〈割烹 玉井(秋田市大町・MAP)〉、〈FRUTTO(秋田市中通・MAP)〉、〈nico(秋田市山王・MAP)〉、〈隠家 あわい(秋田市高陽幸町・MAP)〉、〈酒場 カメバル(秋田市南通・MAP)〉、〈酒菜や香蔵(秋田市保戸野・MAP)〉、〈オステリア ムーリベッキ(秋田市中通・MAP)〉と、たくさんおすすめを教えてくれました。

千秋公園(秋田市千秋公園・MAP
「お花見は千秋公園へ行きます。どこというわけでもなく近くの山や川もきれいです。畑に行くだけでもすごく楽しいので、おすすめの農家さんのところへ連れて行きたいです」

(取材:佐藤春菜 撮影:鄭伽倻)