秋田市文化創造館

連載

秋田の人々

このまちで暮らしを重ねる
たくさんの人たち。
人を知り、出会うことができたら、
日々はもっとあざやかに、おもしろくなる。
秋田に住まうあの人この人、
秋田に関わる人々を不定期で紹介します。
中心市街地や秋田市文化創造館での
過ごし方・使い方のヒントを
見つけてください。

「交点 喫茶と日々を暮らすこと」

秋田県秋田市保戸野通町
マスター 五十嵐聖隆さん 
チーフ 五十嵐麻友さん

〈交点 喫茶と日々を暮らすこと〉があるのは、秋田市文化創造館から徒歩約10分の通町商店街。2019年11月、大阪から秋田へUターンした五十嵐聖隆さん(潟上市出身)と、妻の麻友さんが店をオープンし、喫茶と雑貨の販売を行っています。

「いつかお店を開きたい」と思ってはいたものの、好きなコーヒーとは無縁の職場に勤めていた聖隆さん。独立の背中を押してくれたのは「このままでええの?」という麻友さんの言葉でした。「ひとりではできなかったですね。精神的な支えみたいな意味合いでも、ふたりだからこそできることは多いと思います」と恥ずかしそうに話すふたり。自然体で同じ方向を向いていることが伝わってきます。

煉瓦造り風の建物を2階へ上がるとアーチ窓が印象的なゆったりとした空間が広がります。

秋田から価値を届けること

麻友さんは奈良出身、聖隆さんも学生時代から京都・大阪と関西暮らしが長く、当初はごく自然と関西でお店を開ければと考えていました。転機となったのは、ふたりで訪れた富山での体験。

仙北市角館町で作陶する〈白岩焼和兵衛窯〉渡邊葵さんの作品。販売するほか喫茶で横手市〈旬菜みそ茶屋くらを〉の〈米麹茶〉を注文すると、葵さんの器で飲むことができます。

「氷見市に魚屋さんが開いたワイナリーとゲストハウスがあって、おしゃれに泊まれるところに行ってみたいなという気持ちで訪問したんです。氷見は漁師町で、港側は栄えているんですが、ゲストハウスのある山側は田舎町で、ある意味秋田の山に入っていったような場所でした。その山を切り開いて、ぶどう畑を耕し、ワインをつくっている人がいる。実際に体験してみると『何もないところを切り開いて価値をつくっていくことは観光地ではない地方でもできるんだ、いいものだな』と感じて」。

車がないと行けないところへ、その場所を目的に来てくれる人がいる。聖隆さんの故郷であり、両親が住んでいる秋田でお店を開くのもありかもしれないと考え方が変わった瞬間でした。

2018年に秋田へ移住

自身の結婚式の引き出物にも選んだという羽後町〈atelier七緒〉の六角小鉢が人気です。五城目町〈佐藤木材容器〉や仙北市〈白岩焼和兵衛窯〉など秋田県内のつくり手の商品も販売します。

移住を決意し、秋田に越して来てからは、気になるつくり手に自ら会いに行き、県内でのつながりを構築していきます。
「お店ができる前から名刺をつくって私たちこういうことをやりたいんですって発信して、覚えてもらいました」と麻友さん。SNSが情報源になったといいます。

店に並ぶのは、関西で暮らしていた頃から愛用していたプロダクトや、信頼する作家の作品など実際に自分たちで使い、納得して説明できるもののみ。

はじめた当初は、秋田に住んでいる人に関西の作家さんを紹介したいという思いもありましたが、お店を開いて1年経った今は、「もっとまちに関わりたい、秋田のものを増やしていきたい」と考えているそう。
近くは秋田市でつくられている〈九十九スプーン〉を喫茶で扱う予定です。

アーチ型の扉の奥には小部屋があります(取材時は雑貨を販売。現在は喫茶スペースになっています)。扉は建物にもともとあった窓の形にならって建築士が提案してくれたオリジナルだそう。設計を担当したのは秋田市の〈あくび建築事務所〉。

結び、つながるきっかけとなる「交点」

聖隆さんが淹れるコーヒーは秋田市の〈08 COFFEE(MAP)〉に依頼してつくってもらったオリジナルブレンド〈凪ぐ(なぐ)空を〉。「シーンを選ばず毎日飲んでも飽きない」「ブラックにもミルクにも合うオールマイティな味」を目指し完成しました。

秋田市で醸造を行う〈BREWCCOLY(MAP)〉のビールや横手市〈CAMOSIBA〉のハードサイダーなど、メニューにはお酒もラインナップされており、喫茶での過ごし方はさまざま。

コーヒー2杯で長時間本を読む人もいれば、仕事終わりにチーズケーキとワインを飲んでさくっと帰る人も。

「秋田には練習文化があるので、ここで練習してほかのお店へ行くでもいいですし、駅まで歩ける距離なので、ちょっと遠回りですが、山王の官庁街から帰る前に中継地点で寄ってもらったり、いろんな使い方を楽しんでいただけたら」と麻友さん。

〈ホットコーヒー〉と自家製の〈ふつうのチーズケーキ〉。「嗜む程度にお酒が好き」と話すふたり。ケーキはコーヒにもワインにも合う味にしています。

聖隆さんは「〈交点〉という店名に込めたように、たとえばお店でコーヒーを飲んで、これはどこのコーヒーだろう、どこの器だろうというような発見をしてもらえたらうれしいです。お店の中にあるものやことが、出会いにつながる最初の交わりになったらいいなと思っています」と話します。

秋田市で映像制作会社を立ち上げた〈Outcrop Studios〉が、〈国際教養大学(MAP)〉の学生時代に制作した秋田の伝統野菜復活のドキュメンタリー『沼山からの贈り物』の上映会や、〈OtanPhotography〉とコラボした写真のワークショップの会場にもなるなど、今後イベントも開催していきたいと話すふたり。〈交点 喫茶と日々を暮らすこと〉は、訪れた人が出会い、交わる場所に着実になっています。

information

「交点 喫茶と日々を暮らすこと」

住所秋田県秋田市保戸野通町6-2(2F)(MAP
電話018-838-7275
営業時間12:00-18:30
定休日不定休
駐車場3台 ※隣接していません。ホームページをご確認ください
Webwww.kouten-akita.com

3月21日に秋田市文化創造館が開館します

──旧県立美術館の思い出は?

聖隆さん 子どもの頃は潟上市に住んでいたのであまり来る機会はなかったのですが、高校時代美術部で、作品が展示されたことを覚えています。

麻友さん はじめて秋田に来たときはすでに閉館していましたが、仮囲いの上から円窓だけは見えていて、あの窓かわいいな、屋根の形も特徴的で使っていないのはもったいないなと思っていました。形が残されて活用されるのはうれしいなと思います。

──秋田市文化創造館でやってみたいことや期待することは?

お店から秋田市文化創造館は秋田駅までふくめて歩ける距離だと思います。秋田に住んでいるとほんの少しの距離でも車で移動してしまいますが、イベントの時に回遊してもらうなど、もう少しまちなかを歩くような発信を僕らでもしていきたいですし、一緒にできたらいいなと思います。

──友人に案内したい秋田市のおすすめの場所を教えてください

大森山動物園(秋田市浜田・MAP
「てっぺんまで登ったら展望台からまちを見渡せるし、ピクニックできる広場もあります。 大森山動物園のプレーリードックとアメリカンビーバーがかわいくて一押しです!」

鳥天狗(秋田市中通・MAP
「ワインや日本酒に詳しく喋りがおもしろい店主がいます。店主は石川県出身ですが、秋田の食材に愛がある方なので、案内したいお店です」

とんかつあべ(秋田市手形・MAP
「いわゆるまちの定食屋さんですが、お父さんがいいキャラです。秋田大学の近くで、学生さんがガッツリ食べられる、でも安い! というお店。(聖隆さんは)とんかつ定食かかつ丼、(麻友さんは)ヒレかつ定食がお気に入り」

(取材:佐藤春菜 撮影:鄭伽倻)