秋田市文化創造館

PARK – いきるとつくるのにわ

「親子でサバイバル(火・食・住)」開催レポート

日時|2022年9月11日(日)13:00〜17:00

秋田に暮らす人々やクリエイター、専門家が交わり多様な活動を展開するプロジェクト「PARK – いきるとつくるのにわ」。「観察する」「出会う」「育む」「残す」の4つのプログラムを通して、秋田の文化的土壌をたがやしていくことを試みます。

「出会う(新しい知識や技術と出会うトーク&ワークショップ)」の第二回として、文化創造館の屋外エリアにて、小学生とその保護者を対象にしたキャンプワークショップ「親子でサバイバル(火・食・住)」を開催しました。火を起こす(火)、ご飯を作る(食)、テントを立てる(住)などの体験から、もしもに役立つサバイバルスキルを学び、実践しました。


快晴に恵まれた9月11日。キャンプワークショップ「親子でサバイバル(火・食・住)」には、小学1年生から5年生の子どもたちとそのご家族の計21名が参加をしてくれました。
今日は(火)(食)(住)の3つのプログラムを通して、既製品や既存のサービスを流用することでは得られない、生きる上での発想力や工夫する力を磨きます。

講師はアーティストとして活動する秋田公立美術大学准教授の柚木恵介さん。

全国各地で人々と関わることをテーマとしたプロジェクトを展開し、子どもたち自身が考えアイデアや工夫で課題を乗り越えるプログラムの企画も手がけられています。

まずは、参加者の皆さん同士で自己紹介をしてからスタート。

「まちなかでキャンプ体験ができることを楽しみにしてきました」

「普段できないことができるんじゃないかと思って参加しました」

「親子で協力するところを頑張りたいです」
など、様々な期待を持って集まってくださった様子。子どもたちはこれからどんなことをするのか、まだ緊張した面持ちです。

最初のプログラムは(住)。ホームセンターで売っているブルーシートと竹の棒を使って、自分の住み家を作ります。

ブルーシートと竹の棒を受け取って、各自好きな場所に陣地を構えます。

親子で協力して大きなブルーシートを広げ、半分に折り曲げます。

次にペグを使ってブルーシートが動かないように固定して、、、

中に棒を立てたら、なんだかテントっぽい形になってきました。

あとは被せたブルーシートの側面を地面に固定して、、

完成!
早速中に入ってみます。自分で立てたテント、居心地はどう?

あっという間に文化創造館の屋外エリアにキャンプ村が出来上がりました。
見たことのない風景が立ち現れて、中土橋を通る人たちもに気になっている様子です。

住み家ができたので、水分補給をして次のプログラム(火)へ。
次は「火を扱うこと」を学ぶために空き缶を使って焚き火台を工作し、お米を炊くことに挑戦します。

まずは缶切りを使って空き缶の蓋を切り取ります。
缶切りを使うことが初めてという子も大人と協力しながら、過ごしずつコツを掴んでいきます。

缶の中をきれいに洗って、1合分のお米を投入。

ここで子どもと大人は別れてそれぞれの任務を遂行します。

子どもたちはお米の入った缶を持って集合。お水を入れて、割り箸でかき混ぜて、「お米を研ぐ」をやってみます。

柚木さんに教わりながら、お米が流れないようにそーっと研ぎ汁だけをバケツに流します。

その間に大人たちは焚き火台工作を進めます。空き缶にカッターで穴を開けて、燃料の投入口と空気口を作ります。

穴の空いた空き缶をコンクリートブロックに固定して、焚き火台は完成。

子どもたちも研ぎ終えたお米にお水を入れて、アルミホイルで蓋をしたら準備完了。

次は親子で協力をして焚き火の燃料となる牛乳パックを細かく切る作業です。牛乳パックは燃えやすく、だけど燃焼の速度が早過ぎず、火のコントロールを練習するにはもってこいの素材です。

燃料の準備ができたら、いよいよ着火。缶の中に切った牛乳パックを入れて、チャッカマンで火をつけます。うちわを使って風を送ると、缶の中で炎が大きくなりました。

あとはお米の入った缶を上に乗せて、30分間火を絶やさないように燃料と風の供給を続けます。

火を扱うときにイメージしてほしいのは、もしこれが災害時だったら、ということ。電気もガスも止まってしまったら、明かりを灯すためや暖を取るために火を起こさなくてはいけなくなります。そして誰か一人は炎が消えないように、その場を離れずに火の番をすることになります。

火の扱いを知っている人が他に誰もいなければ、火の番をする人は眠ることもトイレに行くこともできません。だから火を扱うことができるということは、もしもの時に自分と周りの人を助けるとても大事なスキルなのです。

最初のうちは苦戦しながらも、親子で交代しながら牛乳パックを入れてうちわで扇ぎます。

根気強く火を燃やし続けると、お湯が沸騰してアルミホイルの浮き上がってきました。

缶の中の水分がなくなったら、焚き火台からおろしてひっくり返し、蒸らすのみ!

お米を蒸らしている間に、子どもたちには大きい焚き火用に薪拾いをしてもらいます。文化創造館の屋外エリアを駆け巡り、たくさんの落ち技を拾い集めてくれました。

そろそろ蒸らしの工程も終わり、いよいよ実食です。うまくできたのでしょうか…!!

「うまく炊けてる?」

じっと火と向き合った達成感も相まって、皆さんとても満足そうな表情です。
これからは炊飯器がなくとも空き缶と水とお米さえあれば、どんな時でも炊き立てのごはんが食べられそうです。

そして最後のプログラム(食)へ。(食)のプログラムでは、専門的な技術や知識がなくても、身の回りにある食材や方法を組み合わせることから、新しい味わいを発明したり、食材や調理方法のボキャブラリーを増やすことができると体験してもうことをねらいとしています。

そこで、秋田県内外の飲食店や高校調理科、料理家の方々にお声がけをし、お馴染みの焼肉のタレとは一味違うオリジナルのタレレシピを提供していただきました。

国学館高等学校 調理科《こくがくかんのさんじのおやつ バトンタレ》

文化創造館のお隣に位置する国学館高等学校からは、かぼちゃがアクセントになったレシピをご提供いただきました。調理科の生徒さんがリレー形式に一人ずつタレに合う食材を提案をし、組み合わせて完成したそうです。ドレッシングのようなさわやかな味わいです。

Profile

国学館高等学校 調理科

秋田県内では唯一の調理師養成学科。調理総合コースと調理製菓コースに別れ、調理師、栄養士、パティシェ、パン職人を目指して、日本料理・西洋料理・中国料理・製菓など食に関わる総合的な教養や技術を学ぶ。卒業生は国内・海外で活躍している。
https://www.kokugakukan.ed.jp/kokugakukan_index2/

センシューテラス 《秋の味覚 梨を使った甘口タレ》

文化創造館内にあるカフェ・センシューテラスからは旬の甘くてみずみずしい梨を活かした漬け込みダレのレシピをいただきました。一晩漬け込むことで果実に含まれる酵素がお肉を柔らかくします。

Profile

センシューテラス

秋田市文化創造館に併設しているテイクアウトカフェ&ショップ。看板メニューのセンシュードーナツは、県産おからを使用したノンフライ・ノンバターの焼きドーナツとなっています。優しい味で、毎日食べたくなる商品。
https://www.instagram.com/sensyu_terrasse/

Remède nikaho 《紫蘇のソースベルデ ( 緑のソース )》

秋田県にかほ市にて、地域の食材を使用したフレンチを提供するレストラン Remède nikaho(レメデ ニカホ)からは、青紫蘇を使ったレシピが届きました。色のインパクトもさることながら、紫蘇やミックスナッツが印象的な味わいと食感を演出しています。

Profile

Remède nikaho
渡邊 健一

秋田県潟上市出身。1979年生まれ。高校時代に飲食店でのアルバイトをきっかけに料理の道へ。 大阪の調理師専門学校卒業後、東京都内レストランでの修行を経て渡仏。 2017年、秋田県にかほ市に移住。翌年、Remède nikahoを開店させる。 日々、食による社会構築の可能性を追求し続けながら、地域を磨きあげる一皿をつくり出している。
この土地だからできる料理。 この土地を好きになる料理。
https://remede.jp/

人々 《サワークリーム / ベジフルソース》

愛知県知多半島にて季節の焼き菓子を販売している人々からは、サワークリームと野菜・果物を組み合わせたレシピをいただきました。[パプリカ × いちじく]や[きゅうり × 洋梨 × 胡椒多め]がおすすめとのこと。自分で好みの組み合わせを見つけられる作るのも楽しいレシピです。

Profile

人々(ひとびと)

主に東海地方各地のイベントを中心に季節の焼菓子を販売。月に数日は愛知県半田市の工房での販売も行う。
https://hito-bito.com/

さっそく参加者の皆さんにも、お肉を焼いて味わってもらいましょう。

お肉を焼くときも、空き缶焚き火台にアルミホイルを敷いてみたり、串焼きにしてみたり、試行錯誤が続いています。

いざ!実食!

「うまー!」「なにこれ!」「知らない味だ!」
子どもも大人も、驚きと美味しさで心が沸き立つ瞬間でした!
今回は参加者の皆さんにだけ特別にタレ作り方レシピをご提供しました。
ぜひお家でも作ってみてください。

その後は自由時間。「PARK-いきるとつくるのにわ」の参加クリエイターであるわいないきょうこさんから提供いただいたレシピ・茹でスペアリブを作ってみたり、焚き火をしたりと各々の好きなように過ごします。



夢中で活動していたのであっという間でしたが、いよいよイベントの時間も終了です。
ゴミを分別しテントを畳んで、片付けもみんなで行います。



参加者の皆さんには柚木さんデザインによるオリジナルステッカーが授与されました。

頭も身体もたくさん使ってへとへとになったけど、新しい経験や味覚にも出会えた充実の一日でした。アイデアや工夫の仕方次第で自分の知らない風景や体験に出会っていくことができそう、という予感を持ってもらえていたら嬉しいです。
ご参加いただいた皆さん、そしてご協力していただいた皆さん、どうもありがとうございました!!


「サバイバル」という言葉をちゃんと調べてみると、「困難や危険な状況にもかかわらず生き続けること」と書いてあります。もちろん、火を起こす、米を炊く、居を作るという生きる上で現実的に必要な力を習得することは重要ですが、それらの中で、協働する・粘る・工夫するといった副産物こそがこのワークショップを通して経験してもらいたかったことです。
我々は、いつだって何かしらの問題を抱えて生きています。ですが、問題を問題として悩み続けるのではなく、その中身をよく知り、協働し、粘り、工夫してみる。そして時に立ち止まり、戻ってみる。歩み寄り、対話してみる。そういうことが生き続ける力になっていくのだと私は考えています。

柚木恵介

Profile

柚木恵介(アーティスト、秋田公立美術大学准教授)

1978年生まれ。東京藝術大学デザイン科修了。インテリアデザイナーを経て、東京藝術大学、法政大学にて勤務後、2019年から現在秋田公立美術大学ものづくりデザイン専攻准教授として在籍。その土地に定期的に通い、人々と関わることをテーマとしたプロジェクトを展開。「島の家プロジェクト」「小豆島高校おみやげクラブ」などの瀬戸内国際芸術祭(2013)への参加をはじめ、「物々交換プロジェクト at タイ+だいご」(2015)、「物々交換プロジェクト at KENPOKU」(茨城県、2016)など、全国各地に活動の場を広げている。

撮影|田島陽
運営アシスタント|中田大介、壹ツ石涼里、後藤夏希
テキスト|藤本悠里子(NPO法人アーツセンターあきた)