秋田市文化創造館

連載

幼少期の思い出

生まれ育った秋田を出て活動・表現することを選んだ方々に、
子ども時代の記憶をご執筆いただきました。
秋田の風土はその感性をどのように培ったのか、
あらためて、秋田とはどのような場所なのか。
「秋田市文化創造館に期待すること」もうかがいました。

故郷から学んだこと

藤本タツキ(漫画家)

僕は秋田県にあるにかほ市という所で育ちました。
田んぼが地平線の奥まで続き、家の畳を蟻が当然のように歩くくらいのド田舎です。
ジブリのアニメを見ていると自然の偉大さや恐ろしさが伝わってきます。
しかしその自然が僕の幼少期には日常にあったので、自然と非自然との境目が曖昧なまま生活をしていました。
夜の自動販売機には時々カブトムシやクワガタもくっついているので、友達と採りにいったりしていました。
その時の自動販売機は山に生えている木々と同じ認識でした。

大人になって本や誰かの話を聞いていると自然の見方が変わっていきます。
僕がにかほ市で見た木々はおそらくすべて植林だとわかりました。
田んぼの横に流れている小さい川など市で作られたものだし、カブトムシを採りに行った山は、月に2,3回、管理者が整備をしているそうです。
自分が自然と認識していたものはすべて人の手が加えられた非自然でした。
あの時、自然と非自然の曖昧さは正しい感覚だったのだと思います。

芦奈野ひとし先生の『ヨコハマ買い出し紀行』の中で同じような感覚の描写をいくつか見つけました。
本編では草木と長い時間をかけて同化していった地蔵?のようなものが出てきます。
おそらくその地蔵は昔の人が作ったロボットのようなものなのですが、今の人からみるともう自然と非自然の境目が薄くなっています。
主人公の親友ココネというキャラクターも作中で地域の人々とふれあい、町に馴染んでいき人間らしくなっていきます。

意識をしなければ幼少期にふれあい馴染んだものが自然、それより後の物は全て不自然、非自然と認識していくのだと思います。
大人になってあまり新しいジャンルの音楽にハマれないのもそれが不自然だからだと思います。
曖昧な境界を持っていてもいいということを僕は秋田県にかほ市から学びました。
そうすれば常に新しい事を面白がれると思います。
なんかチグハグな気がしますが、文章を書きなれていないので許してください。

Profile

Tatsuki Fujimoto○1992年生まれ。秋田県立仁賀保高等学校卒業。高校生の頃よりWeb媒体などで活動。予備校が近くに無かったため、おじいちゃんおばあちゃんが通う絵画教室で油絵を学び、東北芸術工科大学美術家洋画コースにAO入試で入学。在籍時には油絵では絵が上手くならないと思い、図書館にこもってクロッキーを描いていた。その後、『ファイアパンチ』連載準備のため上京。2016年4月18日、少年ジャンプ+にて『ファイアパンチ』を連載開始。SNS等で大きな話題となり、少年ジャンプ+初期の読者数増加に貢献した。2018年1月1日連載終了。全8巻。その後、担当の林編集がジャンプSQ.編集部から週刊少年ジャンプ編集部に異動したのに伴い、週刊少年ジャンプ2019年1号から『チェンソーマン』を連載開始。2020年12月14日発売の2021年2号で連載終了。第1部最終巻11巻が発売したばかり。アニメ化(制作:MAPPA)と少年ジャンプ+での第2部掲載が発表された。『このマンガがすごい!2021』(オトコ編)第1位。

秋田市文化創造館に期待すること

漫画をたくさん置いてほしい