「かえるくんのどうする!?ラジオ」第6回
-藤浩志×林千晶-
収録日:2022年3月20日(日)
主催:秋田市文化創造館
秋田市文化創造館館長の藤浩志(かえるくん)が、キニナル人とトークを繰り広げるラジオ的プログラム「かえるくんのどうする!?ラジオ」。これからの文化創造館どうする!?をゲストと一緒に考えます。第6回目のゲストは、株式会社ロフトワークを創業した林千晶さん。ロフトワークでの取り組みや、文化創造館のこれからを楽しむアイデアなどを語り合いました。
-藤浩志×林千晶-
藤 文化創造館の藤と申します。林さんとはいつから知り合いかも忘れたね。
林 10年くらい?
藤 そうかもしれない。林さんのことを実はあまり知らなくて。ロフトワークのメルマガも読んだりするけれど、よくわからなくて。
林 わからないよね。よく言われるの。
藤 ロフトワークに至る林さんもあるし、私が林さんを認識したクリエイティブコモンズの林さんという姿あるし、アート関係のキュレーションをやられていた林さんもあるし……
林 なので、簡単に、自己紹介を用意してきました。新卒で花王に入るのだけれど、「ものづくりはもう終わりです。これからは情報をつくれないとダメなんです」って言って、ボストン大学に行って、共同通信社の記者になるわけ。ニューヨークで。それで1年間記者をやるのだけれど、私は『AERA』の記者になりたかったの。なぜかというと、私が読んでいたから。
藤 わかりやすい。『AERA』当時おもしろかったですよね。
林 人生に悩んだら『AERA』、たしか隔週発刊で、あれくらいの頻度で物事を考えていきたいなと思って。ものをつくる前に、どういう風に物事を考えたらいいのかということを考えたくて。
藤 考え方を考える上で、いろいろな人にインタビューしたりしながらいろいろな世界を知っていきたいと。
林 そう。それで中途採用に応募したら、一次審査で落ちちゃったの。 当時、ニューヨークでネットバブルがあったから、会社をつくろうよと誘われていたのだけれど、「私AERAの記者になるつもりだから、落ちたらね」って言っていたら落ちちゃって、じゃあ会社をつくろうと、ロフトワークが生まれたの。

藤 このときに起業したの?
林 そう。私が日本に帰って来て会社をつくって、システムをつくる人も、共同代表の諏訪もニューヨークという形で始まったの。それが今ではFabCafeをつくって、世界で13店舗になっていたり……
藤 すごいですね。
林 林業をやりたいって言って、飛騨の森でクマは踊るという会社をやっていたり……
藤 聞けば聞くほどわからない。
若い人を応援したい
林 でね、今私は若い人を応援したいなと思っていて、20代30代の人たちが、どういうことを考えているか、それを実現するために、ちょっとでも手伝っていきたいというモードなの。
なぜかというと、例えば松下幸之助は、23歳で起業しているの。そして、「250年計画」を立てた。パナソニックは今、102年だから、創業者が描いた企業像の半分も経ってきていないんですよ。
藤 どういうこと?
林 「建設10年、活動10年、社会への貢献5年、合わせて25年間を1節として、これを10節繰り返して、250年後に楽土の建設を達成しよう」、つまり「250年続けなさい」という言葉を松下幸之助が残しているんです。
藤 ちょっと無理だよね。
林 大変ですよね。だからパナソニックから「100年をお祝いしないといけないのだけれど、あと150年続く企業としてどうしたらいいでしょうか」と。
それで、「次の100年続いてほしい100のプロジェクトをつくろう」と提案したわけなんです。
藤 それがロフトワークの仕事なわけですね。
林 そう。ただ「25歳以下の人たちが提案する100のプロジェクト選ばせてください」とパナソニックに言ったら、ダメですと。社員も含めて対象が若すぎるから、40歳とか50歳まで、気持ちは若いからいいんじゃないかと言われて……
藤 それはダメだね。
林 絶対ダメでしょう?それで落としどころとして、35歳以下となったわけ。
藤 同感。
林 今始めて4年目なのですが、1年間に300くらい応募がくるの。一切広報していないけれど。
藤 社員は知っている?
林 はい。でもそれ以上に、口コミで広まって。100BANCHを目指して、どんどん応募してくるの。
藤 100BANCHがプロジェクトの名称なんですね。うまいよね。ネーミングがね。


林 年間300くらいの応募がくるし、1年目に67採択して、今は200以上実施している。
藤 こんな感じでできないかな?文化創造館も。
林 できると思いますよ。文化創造館も、応募の仕組みをとったらどうでしょう?それで、無料で貸すの。
藤 なるほどね。それ重要ですね。
林 場所は無料です。株も入りません。100BANCHでは、3ヶ月がひとつのクールと見なされていて、その間に何らかのアウトプットをしてくださいというのが募集要項。
藤 ある程度のプランがないとできないね。
林 おもしろいのは、100BANCHに来る人たちは、「こんなことをやりたい」と思っているけれど、会社はつくっていない人がほとんどなの。それで、100BANCHで3ヶ月、あるいは延長して半年活動するとね、5割以上が会社をつくるの。
藤 すごい。
林 すごいの。典型的なのはヘラルボニー。
藤 見たことある。これも100BANCHから出てきたの?
林 100BANCHに入ったときは、違う名前だったの。そこで活動して、名前をつくって、今すごく活躍している会社。 だったり、この、読める点字(Braille Neue)。
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藤 これも見たことあるね。PRやっているのだよね?
林 このプロジェクトを個別にPRしているわけではなくて、「読める点字」ってコンセプトがすごくいいから、独自に広まっているんですよ。目の見える人も見えない人も両方読めるのがユニバーサルデザインではすごく重要。
それから、バスハウス。バスを住む場所にする。不動産という、ずっとここに住むという概念がない人たちに、可動産という形で広まっていくのではないか、とかね。
藤 起業して実際にやっているのね?
林 そう。パナソニックも出資して。
20代30代が考えていることって、すごくハングリーで、「これをやりたい」という純度が高い。そういう人たちと、50代60代が一緒に活動していくと、自分たちが想像もしていなかったところにたどり着ける気がしていて。というのは、私50歳になって、気がつくと「クリエイティブ業界で成功している」って言われるの。でも私の希望はね、真冬に、裸で「寒い!」って、言っていたいの。
藤 ほう。
林 それが、私が20代のときに思った希望で、変わっていないの。つまり、50歳になって、毛皮のコートを着て、「私あたたかいから大丈夫」ということが成功パターンと思われているけれど、そうではなくて、寒かったら、「寒いね〜!」って言っていたいの。
藤 言えるけどね。
林 そうなんだけど、1個うまくいくと、あ、ロフトワークに任せるとうまくいくのかも、林さんにお金を渡すとうまくいくのかもって、どんどん仕事がくるようになるの。
藤 うん。
林 それが嫌なの。
藤 まぁ、よくわかる。
林 直肌で感じるエネルギーがどんどん減ってきちゃうのよ。真冬に「寒い!」って言っている人たちと世界をおもしろくしていきたいの。これからの10年。
ドーナツの穴
藤 それは、「現場感」でもない?

林 うーん、現場感ともちょっと違う。言葉では説明できないから、おもしろいと思った場所をもってきたの。
藤 林さんのプロジェクトの現場?
林 違う。全く関係ないけれどおもしろいと思ったところ。
ひとつは、埼玉県小川町の金子さんの農園(霜里農場)。流通にのらない、規格外の野菜をレストランで出すのだけれど、それがものすごくおいしくて。それでね、トイレの排泄物が飲み水になる循環を完全にデザインしているの。埼玉県の豆腐屋さんや天ぷら屋さんから廃油も仕入れていて、それが田んぼを耕すトラクターのエネルギーになっていたり、目に入る範囲で循環しているわけよ。
藤 ある種の実践理想郷だね。
林 しかもその農園が起爆となって、自然農法の農家が20軒くらい小川町に集まっているの。
あるいは、デンマーク・コペンハーゲンのABSALON。フライング・タイガーの創業者が買った教会に200人が集まって、毎晩、同時に「いただきます」と言って夕飯を食べるの。
藤 すごい。
林 老若男女がチケットを買って。予約でいっぱいになっちゃうから。料理は、フードロスになりそうな食べ物を使っているから、ここに行くことでフードロスをなくすことに貢献ができる。1500円とか安くも高くもない値段で。こういう活動も、秋田で始めない?
観客 始めたい!
林 始めたいよね?
藤 なんかワークショップみたいになってきたね。おもしろい。200人という規模感が、インパクトがあるよね。
林 そう、20人じゃダメ。
でも、100人でも良いかもね。私、「人」と組み立てるというのがどこか決まっているんですよね、「I」がないの。「You」もなくて、「We」しかないの。

藤 うん。
林 この前も、「ドーナツの穴」というコラムを書いたんですよ。起業していると、自分がどれだけアイデアを考えたとか、そのアイデアがどれくらい他と違うかを聞かれる。
さらに言うと、就職活動のときは、「あなたはどれくらい人と違いますか」という勝負だったんだよね。違うところが人よりも優れていたら採用しましょう、優れていなかったら採用しませんと感じる。当時、「私は何も人より優れていません。優れた色ももっていません。だけど、これからどんな色ものせていける白いパレットです」と書いたことを覚えているのだけど、ロフトワークをつくったときも、私というのはひとつも優れているところはない。だけれど、私と、たとえば、藤さん、あるいは、私と秋田の人。
先ほど、「ABSALONのような、みんなでご飯を食べるところつくりたくない?」と言ったら、「つくりたい!」と言ってくれたじゃない? その、「私」と「あなた」の間に、「それつくろうよ」と思っていて、そうするとその間に形ができていく。そういう人が何人かできてきたら、自分を取り巻くドーナツになっているわけ、その活動が。
藤 なるほど。活動がね。ドーナツの向こう側に相手がいるわけね。
林 ドーナツの穴のところに自分がいるの。
藤 「私」がいる。
林 だから、ドーナツの穴は何にもありません。だけど、「私」と「あなた」の間にドーナツができますと。ドーナツは、食べたくならない?というのが私の結論なわけよ。
自分ひとりで企業のアイデアなんて考える必要ないじゃんって。そうではなくて、料理つくるのが上手な人、子どもの相手をするのが上手な人たちと一緒に、そういう場所をつくろうよとか。アイデアも、「私」のアイデアではなくて、誰かが「こういうことをやりたい」と言うときに、「それやろうよ」って思えたら、そういうプロジェクトをどんどんやっていきたいなと思っていて、それをやる場所がね、なんか東京じゃないなって思っているのが今かな。秋田かなって思っているの。
藤 いいじゃないですか。秋田ドーナツ作戦。小川町の農園とABSALONがある程度イメージなんですね?

林 うーん、違うかも。
藤 何かはわからない。プログラムのアイデア自体がどこから出てくるかは、ドーナツの向こう側の人との間に生まれるわけだね。
林 そう。肌で感じる「すごいよね、これやれたら!」という感じ。頭で考える「うまくできていますね」というのとはちょっと違う。
ひとりがすごく良いと思うプラン
藤 今の話は共感できるんですよ。例え方は違うけれど、文化創造館も、登場人物によってプロジェクトは変わるだろうし、だからここで何をやるかはここで決めるわけでも、スタッフで決めるわけでもなく、相手が出てきて、相手との中間に立ち上がってくるもの。だから待たなきゃいけないなって感じはあるのだけれど、林さんの場合は、待つよりも仕掛けにいっている気がするの。人を集めている気がする。その集め方も知りたいし……
林 そういう意味では、自分と関係ない小川町の農園とABSALONの話をしたじゃない?普通は、それを出さないのだと思う。ある程度形になるまで。
藤 なるほど。
林 普通さ、こういう場所にトークに呼ばれて……
藤 自分がやってもいないことは出さない。
林 でも、小川町の農園とABSALONは、裸でいる感じはするじゃない?
藤 いや、わからない。
林 10人中8人が良いですねと言うプランはやりたくないの。10人中8人がダメですと言うけれど、ひとりはすごく良いと言う、そういうプランをやりたい。
藤 なるほどね。
……林さんからみた秋田について聞きたい。今改築中の秋田市立佐竹史料館にも関わられているけれど……
林 文化創造館は秋田市の拠点ですよね。今日、文化創造館に来て思ったのは、市民に完全には開かれていないですよね。
例えば秋田市に頼んで、秋田市民がいつでも無料で使えるところをつくる。メンターが5人くらいいて、それぞれにおもしろいと思う人を1組選んでもらう。それで選ばれた人に、1Fの半分を無料で渡しちゃうとか。
藤 無料で使えるけれども、メンターが審査する。
林 市民は好きな形で応募して良くて、おもしろいと思う人たちにどんどん無料で貸していく。
藤 それはできるよね。

林 それと、センシューテラスと、市民に開かれた場所を分けるのではなくて、たとえばセンシューテラスはスペースに1/4の料金しか払わないけれど、センシューテラスの椅子やテーブルを置いても良くて、そこに市民も入ってくる。買ったものを自由に食べたり飲んだりしても良いし、活動もして良い。いずれはセンシューテラスで何かを買って、歩いて佐竹史料館に行くみたいな、点が線になっていくようなのも見えてくるとすごくいいなと思っている。
藤 完全にアイデアをいただいた感じですね。
林 シェアキッチンも必ずやりたくて、文化創造館なのか、亀の町なのか、五城目なのかはわからないけれど……毎日ひとりでご飯食べるのってつまらないんだよね、小さいエリアでのイノベーションをすごく大切にしたいと思っていて、歩いて行ける1kmくらいの円の中にいる人が、週3日くらい、一緒にご飯をつくるような場をつくりたいなって。
そういうきっかけになるものを文化創造館ではどんどんつくっていき、それが外に出ていくみたいな。だから実験を、文化創造館でやろうよ。
藤 そうだね。イメージをつくっていってね。それが波及されていく。
林 そういう風になったらいいんじゃないかなと思う。もっと、市民に開いていく。
藤 年中公募している状態を醸し出しつつ、メンターを25人くらい置いて。
林 25人じゃなくてもいい。でも、12人くらい。
藤 10人くらい?
林 いや、12人だな。
藤 1ダースね。その人たちの合意制ではなくて、ひとりでも良いと思うアイデアがでてきたら、スペースを無料で使ってもらう。
林 そう。
藤 いいね。
林 それでね、12人にメンターを1年お願いするの。毎月審査会を開催するのだけれど、全員が12回も出られないの。だいたい忙しくて。やる気がある人は、年10回くらい、やる気がない人は年2-3回。それはそれでよい。メンターへの謝礼は安くていい。社会貢献なので。それにセンシューテラスのドーナツ券を配ればいいよ。
藤 いいですね。
林 雇ってくれる?「雇ってほしい」というのを最後のコメントにして終わりたいと思います。
藤 いい終わり方ですね。「いいよ」って私が言っちゃダメだけれど。1ダースのメンターの人に聞いてみます。
(text 佐藤春菜 photo 三輪卓護)
「かえるくんのどうする!?ラジオ」第6回 -藤浩志×林千晶-
収録日 | 2022年3月20日(日) |
会場 | 秋田市文化創造館 1F コミュニティスペース |
登壇者 | ゲスト|林千晶(株式会社ロフトワーク 共同創業者 /株式会社Q0 代表取締役社長) パーソナリティ|藤 浩志(秋田市文化創造館 館長) |
Profile

林千晶 -Chiaki Hayashi-
株式会社ロフトワーク 共同創業者
株式会社Q0 代表取締役社長
花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間300件を超える。グッドデザイン賞審査委員、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す「株式会社飛騨の森でクマは踊る」取締役会長も務める。
Profile

藤 浩志 -Hiroshi Fuji-
秋田市文化創造館 館長
1960年鹿児島生まれ。京都市立芸術大学在学中演劇に没頭した後、公共空間での表現を模索。同大学院修了後パプアニューギニア国立芸術学校に勤務し原初表現と人類学に出会う。バブル崩壊期の土地再開発業者・都市計画事務所勤務を経て土地と都市を学ぶ。「地域資源・適性技術・協力関係」を活用し地域社会に介入するプロジェクト型の美術表現を実践。取り壊される家の柱で作られた「101匹のヤセ犬」、給料一ヶ月分のお米から始まる「お米のカエル物語」、家庭廃材を蓄積する「Vinyl Plastics Connection」、不要のおもちゃを活用した「Kaekko」「イザ!カエルキャラバン!」「Jurassic Plastic」、架空のキーパーソンを作る「藤島八十郎」、部室を作る「部室ビルダー」等。十和田市現代美術館館長を経て秋田公立美術大学教授、NPO法人プラスアーツ副理事長、NPO法人アーツセンターあきた 理事長、秋田市文化創造館 館長
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