小野小町の歌を現代語訳+解説
小町さんこんにちは
最果タヒ
小野小町は平安前期9世紀頃の歌人、
六歌仙の一人。
伝承によると生誕地は秋田県湯沢市、
晩年も同地で過ごしました。
恋をたくさんした、
男の人をふりまわした
絶世の美女といわれていますが、
いま彼女の歌をあらためて読むことで
違う顔が見えてきました。
これは詩人の最果タヒさんが、
小野小町の歌を詩の言葉で現代語訳し、
解説を付した、開館までの特別短期連載です。
豊かな海は私ではない、
豊かな逢瀬は私にはない、
何もなく、淡水が満ちていく、
海藻などなく枯れ果てた、
ただ枯れ果てた、
波音ばかりがする、浦が、
私そのものであり、
この人生など
なんの希望もみえないと、
ただ心音ばかりがする、体が、
私そのものであり、
あなたはそれにきづけない
海人のように、
絶え間なくここへやってくる、
足が動かなくなる日まで。
解説:
海藻を意味する「海松布(みるめ)」と、会う機会を指す「見る目」をかけた歌。この掛詞を用いる場合、多くの歌人は愛した人に会いたいという思いから、「見る目がない」「見る目が少ない」と嘆くのだけれど、小野小町は嘆くことがなく、むしろ自分自身こそが「見る目のない」浦であり、それなのに疲れ果てるまで通ってくる男性について詠んでいる。浦は憂とかかっていて、会いたいと願う人に応えることができない自分、というものへの小町の心情がうかがえる。愛されたとき、その愛を受け取らない、と選択することは、どうして冷たいこととされるのか。などと、いうことを考えてしまう歌。
Profile
Tahi Saihate○1986年生まれ。2006年、現代詩手帖賞受賞。2007年、第一詩集『グッドモーニング』(思潮社)刊行、同作で中原中也賞受賞。2014年、詩集『死んでしまう系のぼくらに』刊行、同作で現代詩花椿賞受賞。2016年、詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』刊行、同作は2017年に映画化された(監督:石井裕也)。最新詩集『夜景座生まれ』。また、清川あさみとの共著『千年後の百人一首』では、百人一首を詩のかたちで現代語訳する試みを行った。エッセイ集に『百人一首という感情』ほか。小説に『星か獣になる季節』、絵本に『ここは』(絵・及川賢治)。詩の展覧会「われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。」が福岡、東京、名古屋を経て、大阪(パルコイベントホール)にてスタート、全国巡回中、3/21まで。