秋田市文化創造館

レポート

イベント レポート
「フリー・オープン・デイ 2025」

日時|2025年5月3日(土)-6日(火・休)
会場|秋田市文化創造館、あきた芸術劇場ミルハス、
秋田市にぎわい交流館AU、秋田市立中央図書館明徳館

秋田市文化創造館、あきた芸術劇場ミルハス、秋田市にぎわい交流館AU、秋田市立中央図書館明徳館では、2025年ゴールデンウィークの4日間、千秋公園・なかいちエリアを巡り、楽しむイベント「フリー・オープン・デイ 2025」を共同開催しました。

秋田市を拠点に、身体や踊りを通じた表現活動を行う日比野桃子さんによる体験レポートを公開します。


5月6日、曇り。ちょっと肌寒いゴールデンウィーク最終日に「フリー・オープン・デー 2025」に出かけてみました。秋田市の千秋公園・なかいちエリアを一体的に楽しむためのイベント…とのこと。「一体的」って、どこか聞き慣れないような気もする不思議な言葉だなぁ、なんてことを考えながら、エリアなかいちの駐車場に車を停めました。

催しが始まるまで時間があるので、ひとまずお散歩します。
にぎわい交流館AUと県立美術館の間を通り抜けて、広小路を渡ると、お堀の柵にじっとたたずむ鳥がいました。屋外でもマルシェの準備が進むミルハスを、何食わぬ顔で見つめています。
お堀の水面を見下ろすと、大勢の鯉が口をぱっくり開けて集まってきました。岩の隙間から顔をのぞかせる雑草のみなさんも、個性豊かで楽しげです。

午前10時になったので、まずは中央図書館明徳館へ。

中央図書館明徳館 提供

2階の研修ホールで「レコード鑑賞会」が開かれていました。東海林太郎のヒット曲が大きなスピーカーから流れます。10人ほどが椅子に座って、目をつぶったり、体を揺らしたり、読書をしたりしながら聴き入っています。

東海林といえば直立不動の姿が思い浮かびますが、思えば声をじっくり聴くのは初めてでした。何曲か終わると、サザンオールスターズ、ユーミンと続きます。これは明徳館が所蔵する2500点以上のレコードの中から、司書の加賀屋さんと高橋さんが「世代問わず楽しめる昭和」を厳選したラインナップだそう。準備室でレコードが回る様子は見られませんでしたが、何も見ず、せず、音楽だけをゆったり楽しむ時間を久しぶりに過ごせました。

明徳館所蔵のレコードはクラシックからポピュラー音楽、落語、童謡や民謡と幅広く、1階の視聴覚コーナーにある目録から選んでカウンターで伝えると視聴できるそう。知らなかった!定期的に視聴する若い方もいるようです。

中央図書館明徳館 提供


明徳館の開館は1983年。8年前から務める高橋さんは「文化創造館やミルハスができてから、その流れで足を運んでくれる若い人も増えた」と話していました。久しぶりに訪れたけれど、建物も特徴的で魅力的な空間でした。そういえば、この建物の設計は有名な建築家によるものだったような…。

道路を渡って、あきた芸術劇場ミルハスに向かいます。

あきた芸術劇場ミルハス 提供

「ミルミルマルシェ!」では、県内外からハンドメイド作品やお菓子・お惣菜など60店舗がエントランスロビーに集結。各店それぞれの色が光ります。ロビーコンサートも始まり、英心 &Friendsの軽快な歌声も響きます。

「母の日に贈れる何かないかなぁ」なんて思いながら回っていると、「秋田美人ブローチ」に遭遇。そこになんと母と同じ名前の「さとみさん」が!

筆者提供

その姿からもどこか母の香りを感じたので即購入を決めました。粋でお洒落な秋田美人たちの名前は、作者のhana&gomaさんが「必ず友達にいるような身近な名前」を選んで付けているそうです。

正午を過ぎて、おなかが鳴りました。マルシェで蒸しパン、どら焼き、柏餅、コーヒーを買って、屋外のテーブルで満たされました。知らなかったお店の味に出会えるのは嬉しい!実店舗にも行ってみたいなぁ。

相変わらずの曇天の下、文化創造館の屋外芝生エリアは、持参のレジャーシートや無料貸し出しのゴザを敷いた家族連れでにぎわっています。

文化創造館の「チャレンジマーケット」へ。

各店舗のこだわりと自信に満ち溢れた「ミルミルマルシェ!」のムードと比べると、どことなく探り探りな雰囲気が漂っているのが印象的…。それもそのはず、チャレンジマーケットに並ぶのは、77組の応募から選ばれた42組の「やってみたいこと」なのだとか。

「童心屋&VividWeather」のブースでは、店主の瀬尾さんがクラフト作品を販売。市内のイベントなどでよく出店しているそうですが、今回は、学生時代から密かに描いてきた絵を初めてお披露目しました。

「チャレンジを歓迎してくれるから『ちょっと失敗してもいいや』って開き直れる」と瀬尾さん。作品制作についてのお話を聞きながら、ハシビロコウの磁石を購入しました。

「小さなコモノテン」の菅原さんは、手編みの帽子やリボン、置物などを販売していました。「夜なべして作ったんだ」「買ってけ」と価格をどんどんオマケしてくれる菅原さんに「この辺りにはよく来られるんですか?」とたずねてみると、

「県民会館で昔、高校の入学式やった」と話していました。小さなピンク色の蓋の開かない鞄(説明がなんとも難しい…)を購入しました。

「秋田の教育をなんとかしたい」と語るのは、自宅から持ってきた本を並べて販売している佐々木さん。並んだ本を媒体にして、教育についてそれぞれが思うことを訪れた人たちと語り合ったそうです。

佐々木さんは「アートに可能性を感じている」とのことで、私は横尾忠則対話集「今、生きる秘訣」を購入してみました。

世代さまざま、多種多様な「挑戦」が集まったチャレンジマーケット。扉を開けるのにはちょこっと勇気がいるけれど、開けてみるとなかなか抜けられない魅力がありました。
まだまだ未開拓な何かと出会える予感!2階を覗くのは後ほどにして、ミルハスに戻ります。

「ミルハスピアノききくらべ」には、小ホールAいっぱいに並べられた椅子がほどんど満席になるほどの人が集まっていました。ミルハスのグランドピアノの選定にも携ったピアニストの山崎圭子さんが、4台のピアノの特徴を言葉で伝えます。

あきた芸術劇場ミルハス 提供

「深みのある音色」「少しかげりがある」「軽やかなタッチ」…解説の後は、それぞれの個性を山崎さんの演奏で楽しみました。

大ホールでは「舞台機構見学会」が開催中。ホール前方に集まった人たちが舞台をじっと見つめていました。よく見ると、正面の音響反射板がゆーっくり動いています。

あきた芸術劇場ミルハス 提供

普段は見られないレアな光景です。大きな機構と、それを動かす専門スタッフさんたちの技を目の当たりにすると、これからは少し新しい視点を持ってコンサートを鑑賞できそうです。

ミルハスを出ると、なかいちの方から「にぎわいミニライブ」の音が聞こえてきました。近藤馬之助さんの弾き語りが、にぎわい交流館AUの前のガラス屋根下を盛り上げています。椅子に座って楽しむ人も、舞台横を通る人も明るく手拍子。

にぎわい交流館AU 提供

ライブに出演した6組は、AUのスタジオでよく練習をする常連たち。企画を担当したAUの佐々木さんが、初の試みとして幅広いジャンルのアーティストに声をかけたそうです。なかいちの駐車場に車を停めてミルハスや文化創造館、明徳館に向かう人も多いので、ライブはまさにフリー・オープン・デイの「ウェルカムライブ」に。佐々木さんは「4施設それぞれがイベントやっても盛り上がるけれど、今回みたいに連携すると、エリアの周遊性が出ていいな」と話していました。

あきた芸術劇場ミルハス 提供

文化創造館に戻ると、芝生エリアにはユーミンの「ひこうき雲」を小さく弾き語りする人の姿が。
2階に向かうと、ライブドローイングをする人、初心者だけどDJをやってみている人、自分の身体でアシカになっている人……盛りだくさん。「酒泡酒泡クラブ」は、サザンオールスターズの「希望の轍」で盆踊りしています。

会場中央で秋田弁教室を開いているのは、言語学者(自称)のドン★ぱん太郎さん。東京の言葉では「水たまりに落ちて靴を濡らしてしまう」としか表現できない「かっぱりとる」など、まだまだ知らない秋田弁をたくさん教えてくれました。目指すのは、秋田弁のユネスコ文化遺産認定…ん?よく見ると「ユネスコ」の文字のバランスがちょっと不自然なような…。

ドン★ぱんさんに発音してもらうと「ぅゆぬぇすぃこ」…文字にできない秋田弁の発音が既存の文字で表現されている!?感動しました。

最後は、ミルハスの中ホールで開催される「オープンステージ」へ。
「ミルハスのステージに立ってみたい」11組が、趣味や特技を披露します。カラオケ、フラダンス、よさこい、コント演劇、ゴスペル…色鮮やかなライトに照らされた全力パフォーマンスに、出演者それぞれの生き様が垣間見えるような気がしました。

あきた芸術劇場ミルハス 提供

「フリー・オープン・デイ 2025」は秋田市文化創造館、あきた芸術劇場ミルハス、秋田市にぎわい交流館AU、秋田市立中央図書館明徳館の共同開催。全て回り切れないほどに見どころ満載で、4施設それぞれの持ち味をおいしく楽しめた1日でした。

いろんな人の「好奇心」が飛び交う千秋公園・なかいちエリアは、何かやりたいことを思いついた時に「ここならできるかも」と思わせてくれる場所かもしれません。そういう場所が住んでいる街にあることの希望はとても大きい、と思います。そんなエリアの「一体的」な企画が今後も楽しみです!

そういえば、4施設のスタンプを集めたので「お堀にいる生き物たちステッカー」をもらいました。鯉、鳩、鵜の3種類。何食わぬ顔でミルハスを見つめていたのが、鵜かな?


Profile

日比野桃子

秋田市新屋在住、千葉県出身の29歳です。芸術大学の音楽学部を卒業、美術大学の大学院を修了。秋田でおなじみの新聞社で少し働きました。今は、市内のショートステイで介護のお仕事を勉強しています。昼寝とごっこあそびが好き。靴下は苦手。訓練されていない身体で如何に踊っていられるかを日々考えています。「キウイ大学校」の校長。「たもたもクラブ」のメンバー。

▶︎「フリー・オープン・デイ 2025」については こちら

記録写真:伊藤 靖史(Creative Peg Works)